第18話 彼女の家へ訪問
午後からもプールで遊び、帰りは全員疲れていた。
電車に乗るなり、俺と雨音以外、2人は爆睡で肩を寄せ合って仲良さそうに寝ていた。
雨音は寝てはいないが、うとうとしながらだんだんと俺の方へ寄ってくる。
「眠いならもたれ掛かってもいいよ」
優しく彼女にそう言うと雨音はポスッと俺の肩にもたれ掛かってきた。
「では遠慮なく」
彼女が寝るのは早かった。すうすうと寝息を立てて気持ち良さそうに寝ている。
帰りにでも次遊ぶ日のことを話したかったけどそれは今日の夜、電話でもできる。
(なんか俺、雨音といるこの時間が好きだと思えるようになってるな……)
中学の時は、同じクラスになったことはあるが、話したこともなかったし、接点は全くなかった。
雨音が男女共に人気が高いのは中学から変わっていない。だからこそ高嶺の花って感じがして近づけなかったのもある。
後は、由香を大切にしたいと思っていたから不安させないよう他の女子と話す機会がなかったのもあるけど。
考え事をして外の景色を眺めていると次の駅で降りることに気付いた。
(全員寝てる!)
起きているのは俺だけで駅に着くまで俺が全員を起こすことになった。
***
「じゃね、あまねんと蒼空」
「はい、また」
「バイバイ、蒼空。ちゃんと水篠さんを見送るんだぞ」
「はいはい、言われなくてもするから」
玲央と陽菜と別れた後、俺は雨音を家まで送ることにした。
隣で歩く雨音はまだ目が覚めていないようで眠そうな顔をしている。
親に今から帰ると連絡をしようとスマホの画面見ると母さんから
『夜ご飯は何か買ってきて食べて。8時まで出掛けてるから』
とメッセージが来ていた。
(適当にスーパーでも寄って帰るか……)
スマホから顔を上げると横から視線を感じたので横を向くと雨音がこちらを見ていた。
「どうかしましたか?」
「いや、大したことはないんだけど。母親が今日はどこか出掛けるらしくて夕飯は何か買ってきて食べてほしいって」
「夕飯……で、では、私の家で食べませんか?」
「雨音の家で?」
雨音って一人暮らしだよな。となると家で食べる=2人で夕食となる。
「はい。今日はオムライスにしようとしているのですが、どうですか?」
このままうんと言えば雨音は俺にオムライスを作ってくれるだろう。けど、2人分作るのは簡単なわけがない。
ここは断ろう。雨音の作ったオムライスは食べてみたいが……。
「いや、悪いよ。スーパーでも寄って……ん?」
急に雨音は俺の腕にくっつき、うるっとした目で俺のことを見てきた。
「ひ、一人暮らしなので一人での食事は寂しいです」
「うん……」
「だから一緒に……いや、是非食べに来てください!!」
ここで断った方が彼女を悲しませるような感じになってしまった。ここは彼女に甘えさせてもらった方がいい気がする。
「い、いいのか……?」
「いいですよ。蒼空くんに是非食べてもらいたいです」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「はいっ」
彼女は嬉しそうに笑い、すぐに腕から手を離すかと思ったが、結果家までこのままだった。
二度目とはいえ、やはり女子の家に入ることは緊張してしまう。それも一人暮らししている家だ
と尚、ドキドキする。
「お、お邪魔します……」
「どうぞ」
彼女に案内され、俺はリビングのソファへ腰かけた。
雨音はというとカバンを置きに行って、すぐに夕食を作り始める。
なんかこう、待ってると悪い気がしてくる。何か手伝った方がいいかな。
ソファから立ち上がり、キッチンの方へ行くといい匂いがした。
何か手伝おうと彼女に言おうとしたその時、カウンターテーブルに写真立てが置かれているのに気付いた。
写真は幼い頃の雨音の姿があった。家族写真だろうか、隣には綺麗な女性とスーツを着た男性が写っていた。
「蒼空くん、どうされました?」
写真を見ていると料理中の雨音に声をかけられた。
「えっ、あっ、手伝うことないかなって」
「大丈夫ですよ。蒼空くんはお客様ですから気にせず待っていてください」
「わかった。けど、運ぶときは手伝うから」
「はい、その時はよろしくお願いします」
ソファに戻ろうとしたが、写真のことが気になり彼女に聞いてみることにする。
「これって家族写真?」
フライパンでご飯とケチャップを混ぜている雨音は写真を見なくても何の写真かわかっているようで小さく頷いた。
「その時が一番幸せでした。私が小さい頃にお父様は亡くなりました。お母様が再婚してからは何かが変わって私は家に居づらくなったんですよ」
「……もしかして一人暮らししてる理由って」
「はい、寂しくても1人の方が楽なんです。家にいても邪魔者としか思われていないようですし」
彼女は苦笑いし、無理に笑おうとしているが、悲しいはずだ。
***
オムライスを食べ終えた後、お礼として食器洗いをしてから帰ることにした。
オムライスは美味しかった。けど、雨音のさっきの表情が頭から離れないでいた。
洗い物を終えるとソファで座って待っていた雨音が手招きして俺を隣に座らせる。
「蒼空くん、オムライスは、どうでしたか?」
「美味しかったよ。雨音は、料理上手だな」
「ありがとうございます。また来たときは別のものを作りますのでリクエスト待ってます」
また雨音が作った料理が食べられるのかと思うと嬉しくてつい顔に出てしまいそうになる。
「蒼空くんの好きな食べ物は何ですか?」
「好きな食べ物……からあげとかラーメンかな。けど、一番好きなのは母さんが作ってくれる味噌汁かも」
「なるほど……」
俺の話を聞きながら何をしているのかと彼女の手元を見ると何やらメモを取っていた。
「雨音の好きな食べ物は?」
せっかくなので彼女の好きなものも知りたいと思い、尋ねると彼女は顔を上げて答えてくれた。
「私ですか? 私は、オムライスとチーズケーキです」
「あっ、俺もチーズケーキ好き」
「…………」
「雨音?」
彼女は顔が赤くなっていき、俺の胸に頭をぐりぐりと押し付けてきた。そして彼女は小声で呟いた。
「蒼空くん、私も好きです」
★★試験に集中したいのでここから不定期更新です。
2週間分のストックはあるのでそれが尽きるまでは毎日更新できると思います。(11/18)
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