第3章 眠り姫との文化祭

第25話 蒼空と雨音の関係

 夏休み明けてから1週間、午前は授業を行い、午後からは文化祭の準備をすることになっていた。


 文化祭に向けての準備は夏休み期間中にも行われていて、今は追い込みといったところだ。


 自分達のクラスでは教室を喫茶店風にしたり、衣装のサイズの最終確認をしたりしていた。


 そんな中、俺は教室にはおらず、生徒会室で文化祭本番の役割について生徒会長である菅原葉月

《すがわらはづき》先輩から当番の説明を受けていた。


「プリントにある通り、当番は前半か後半の1回だけ。時間は決めたけど、もしかしたらクラスの当番と被っているかもしれないから今、確認してもらえる?」


 葉月先輩に言われた通り、配られたプリントを見て時間を確認した。


 俺の当番は文化祭2日目の午前。クラスの出し物は1日目の午前だから被ってはいない。なので、これで大丈夫だ。


 当番に当たっている場所は体育館のステージの裏。そこで出番がある人の誘導をするのが俺に与えられた仕事だ。


 確認を終えてプリントから顔を上げると葉月先輩が目の前にいることに気付き驚いた。


「先輩、ビックリさせないでくださいよ……」


「ふふっ、ごめんなさいね」


 綺麗な長い黒髪を持つ1つ年上の葉月先輩は、しっかり者で中学の頃から学年全員に知られているような有名人だ。


 有名人なのは生徒会に入っていて行事などにはいつも実行委員として動いていたからだ。そんな凛々しい姿を見てきた俺も彼女の凄さには憧れていた。


「ありがとね、蒼空くん。生徒会でもないのに手伝ってもらっちゃって」


「大丈夫ですよ。どうせ一緒に回る人もいませんし」


 雨音は誰と回るかわからないが、玲央と陽菜は文化委員で文化祭当日は忙しいらしい。だからボッチで回るより何かしていた方がいいと思った。


「蓮見さんとは? 彼女なんだし、一緒に回らないの?」


 葉月先輩は中学が一緒だったため俺と由香が付き合っていることを知っている。


「由香とは最近別れまして……」


 周りには人がいるので小さな声でそう言うと彼女は驚き、そして謝ってきた。


「えっ、あっ、ごめん!」


「いえ、大丈夫です」


「そっか……ならお姉さんが一緒に回ってあげよう。どうかな?」


(ち、近い……)


 葉月先輩ってたまに距離感バグって同級生のように絡んでくるから驚くんだよなぁ。


「いえ、嬉しいのですが、先輩も忙しいと思うので」


「まぁ~確かにそうだけど。あっ、お願いなんだけど、まだ人手足らなくてステージ裏で仕事できる人探してくれない?」


「わかりました。1人ぐらいでいいですか?」


「うん、1人ぐらいでいいよ。蒼空くんと同じでステージ裏の仕事やってほしいから」


 そう言うと先輩は後ろから副会長に話しかけられて、先ほどいた場所に戻っていく。


 誰か1人か……教室に戻ったら話せるクラスメイトにでもあたってみよう。


 葉月先輩からの説明が終わり、生徒会の方々が生徒会室から出ていった後に俺も出ようとすると後ろから抱きつかれた。


 いい匂いがしてふにっと柔らかい感触が背中に当たった。


「頼むよ、蒼空くん。パートナー連れてきてね」


 パートナー?となったが、おそらく俺と同じでステージ裏での仕事を行う人を誰か連れてきてということだろう。


「わかりました。じゃあ、帰りますね」

 

 先輩が俺から離れた瞬間を狙って生徒会室から出た。


 早く教室に戻って手伝わないといけないので急いで教室まで戻る。


 教室に入り、助けが必要そうな人に声をかけて手伝おうとしたが、後ろから服の袖をグイッと引っ張られた。


「蒼空くん、やっと見つけました」


 聞き馴染みのある声がして後ろを振り向くとそこには雨音がいた。


 彼女は少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら俺の服の裾をぎゅっと持っている。


「見つけたって俺のこと探してたのか?」


 彼女は俺の問いにコクりと頷き、持っていた裾から手を離す。


「し、試着したので見せようかと思ったのですが、蒼空くんが教室にいなかったので」


 試着と聞いて、上に長袖のカーディガンを着ているが下はメイドの衣装を着ていることに気付いた。


 あの言葉は本当だったのか。俺に一番に見せると言うやつは。


「ごめん、生徒会室に行っててさ」


「生徒会室ですか? 蒼空くん、生徒会に入ってましたっけ?」


「いや、生徒会に知り合いがいて呼び出されたんだ。文化祭当日に仕事をしてほしいと」


 先ほど葉月先輩からもらった文化祭当日の役割分担のプリントを雨音に見せると彼女は「それは大変ですね」と呟き、プリントを俺に返した。


「ところで雨音は、文化祭、誰かと回る予定はあるのか?」


 雨音のことだから女子や男子から誘われたりしていそうだなと思い、聞いてみると彼女は首を横に振った。


「陽菜さんは文化委員ですし、他に特別親しい方はいないので誰かと回る予定はありませんよ」


「誰かに誘われたりしなかったのか?」


「されましたけど、男性の方と二人っきりは無理です。蒼空くんとならいいですけど……」


 そう言ってわかりやすく彼女は上目遣いで俺の方を見てきた。


 これはもしや文化祭、一緒に回らないかと誘われているのか?


「俺も実は1人なんだ。玲央が文化委員だからな。だから……その……一緒に回るか?」


「は、はい! 一緒に回りましょう!」


 彼女と目が合い、ニコニコと笑っていると後ろから名前を呼ばれた。


「蒼空、イチャイチャするなら中に入ってくれ。通行止めになってる」


 教室に入ろうとしていた玲央と陽菜に注意され、すぐに教室の中に入った。


「あぁ、ごめん。立ってたのは謝るけどイチャイチャしてないから。なっ? 雨音」


「えっ、あっ、はい、多分……」


 多分とか言ったらまた玲央と陽菜が何かあったなとニヤニヤして……いや、もうしてるわ。


「なぁ、式宮って水篠さんと最近仲良くない? 付き合ってるんじゃね?」

「マジ? しっきーどうなの?」


(なんかいつの間にかあだ名つけられてる)


 近くにいたクラスメイトの男子が俺に聞いてきたので誤解を招かないようハッキリと言った。


「どうもこうもただの友達だ」


「いや、ほんとかよ。玲央は、どう思う?」


「いや~どうだろうねぇ~」


 ヘラヘラとした態度で笑いながら玲央が答えると周りがザワッとしてしまったので俺は軽く玲央の足を蹴っておいた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る