【完結】校舎裏の眠り姫と元恋人は、どうやら俺のことが気になっているらしい

柊なのは

第1章 校舎裏の眠り姫は、どうやら俺のことが気になっているようです

第1話 校舎裏の眠り姫

 ある夏の日の放課後。誰もいない学校の校舎裏に中学から今日まで3年間付き合っていた彼女に話があると呼び出された。


 俺、式宮蒼空しきみやそらは、彼女に言われた通り、その場所へ向かった。


 話の内容は、聞いていない。話ならわざわざ校舎裏で話さなくてもいいのではないかと思うが、そこでしか話せない内容なんだろう。


 待ち合わせの場所へ行くが彼女である蓮見由香はすみゆかは、まだ来ていなかった。


 由香と付き合い初めてから今年で3年目になる。中学2年の時に告白され、俺も由香のことが好きで告白を受け入れた。

 

 両思いで今まで何度か喧嘩したが、仲は良かった。休日は、デートをしたり、家で過ごしたりと周りからも仲のいいカップルと言われていた。


 由香は、いつも明るくて笑顔で俺も自然と笑顔になっていた。彼女の笑顔が好きで、一緒にたわいもない会話をしている時間が好きだ。


「あっ、蒼空、先に来てたんだ。ごめん、急に呼び出して」


 声がして後ろを振り向くとそこには由香がいた。重要な話だと思っていたが、いつも通り変わらない様子。考えすぎか。


「いや、俺もさっき来たところだから大丈夫」

「そっか。話なんだけど……」


 由香は、手を後ろに回して言いづらい話なのか少し言葉に詰まっているように見えた。


 やっぱり大事な話なんだと確信したその時、彼女から言われると思ってなかった言葉を告げられた。


「私と別れてほしい」


 一瞬、嘘なんじゃないかと思った。けど、由香を見ると真っ直ぐと俺のことを見て言ってきていた。


「ど、どうしてか理由を聞いてもいいか?」


「うん……何て言ったらいいかわからないけど、蒼空のこと好きじゃなくなった」


「…………」


「別に嫌いになったわけじゃないけど、好きじゃないのに付き合う意味ってあんまりない気がして。ごめん……」


 由香は、その言葉を残して俺をこの場に残して立ち去っていった。


 好きじゃない……か。俺のどこかダメだったんだろうとか、あの時、こうしていなかったから好きじゃなくなったのかもしれないとか過去を振り返ってみるが、考えても意味はない。


 振られたことが夢なんかじゃないかと思いながら教室へ戻ろうとするとガサッと音がした。


(ま、まさかな……)


 振られていたところを誰かに見られていたんじゃないかと思い、後ろを振り返り、恐る恐る前へ進んでいくと近くにあるベンチで横に寝転がっている少女と目があった。


 同じクラスである彼女の名前は、水篠雨音みずしのあまね。綺麗な長い髪にしっかりとした顔立ちをしている。


 俺が知る水篠は、成績優秀、スポーツ万能。何でもできておまけに性格が良く、男女共に人気が高い。


 しっかりとしたお嬢様というイメージが強く彼女が学校で寝ているところなんて見たことはない。


 だが、今、目の前にいる水篠は、寝転がっていて、俺に見られて焦っていた。


「えっ、あっ、あの、寝てないですから!」


 慌てて起き上がって寝ていなかったというが、俺は見てしまったので彼女の言うことにわかったとは言えない。


 それよりも俺は彼女に由香から別れを告げられていたところを見られていたんじゃないかということの方が気になる。


「わ、わかった。水篠は、寝ていない、これでいい。それより水篠……俺と由香……蓮見の会話聞いてたか?」


 聞いてないと言ってほしい。だが、水篠は、俺の問いかけにコクリと頷いた。


「すみません、偶然近くにいて起きたところだったので聞いてしまいました」


(あっ、やっぱり聞かれてた……)


 今さらっと聞かれていたことを知ったのと同時に彼女が寝ていたことも知ってしまった。やはり寝ていたのか。


 寝ていたことを必死で隠そうしていたのに自分でばらしてしまう。もしかして、水篠は、意外と天然なんだろうか。


 そんなことを思っていると水篠は、ベンチから立ち上がり、俺の前に立った。


「式宮くんは、優しい方ですし、今後またいい人が現れますよ」


 そう言って水篠は、俺の頭を優しく撫でてくれた。


「心配しなくても式宮くんが振られたことは誰にも言いません。ですが、変わりに私がここで昼寝してたことは誰にも言わないでくださいよ?」


 最初は柔らかい声で話していた彼女だったが、寝ていたことは本当に誰にも知られたくないのか俺に圧をかけてきた。


「わ、わかった……誰にも言わない」


 俺が、水篠がここで寝ていたことを誰かに話しても意味はないからそんなに念を押して言わなくてもいいんだがな……。


「はい、よろしい。後もう1つ、ここは、私のお昼寝スポットなんでできるだけ来ないようにしてください。せっかくの至福の時間が今日は式宮くんのせいでなくなりましたから」


「ご、ごめん……」


 なんで怒られているのか、なんで謝っているのかわからないが、取り敢えず謝った方がいいような気がした。


「ふふっ、別に怒っていませんよ。式宮くん、寂しいと思うなら私なんかで良ければ話を聞きますからね。では」


 近づきがたく話すこともないと思っていたけれど、今日話してみて水篠の印象が変わった気がした。


 



***





「ふふっ、式宮くんと話せました……」


 家に帰るなり、私は、ベッドに寝転んでクッションを抱きしめながら足をバタバタさせていた。


 前から少し気になっていた式宮くん。少ししか話せなかったけれど、その少しの時間が私にとっては嬉しかった。


 中学から気になっていたけれど式宮くんには彼女がいた。声をかけようにもかけにくく話せるきっかけを今まで探していた。


 別れたことを喜んではいけない。けど、これはチャンスだと思う。恋なのかはわからないけど、もっと彼と話したい……。


 けど、話せてよかったが、お気に入りスポットで寝ているところを見られてしまうとは……。とても恥ずかしいことをしてしまった。


「明日もまた話したいです……」


 クッションをぎゅっと抱きしめ、そう呟いた私は、目を閉じた。





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