第12話 この空気はもうじれじれです
はぁ~もう最悪。なんで、こんなところで会うのよ。
蒼空と水篠さんが立ち去っていった後、友達の沙良が戻ってくるまで待っている私は、大きなため息をついた。
別に蒼空に会うことがダメなことではない。けど、会いたくなかった。水篠さんといる蒼空はもっと見たくなかった。
これじゃあ、嫉妬してるみたいだ。私は、もう蒼空のことが好きじゃないって気付いて別れたというのに。また好きになったとか私の気持ちどうなってんのよ。
水篠さん、絶対に蒼空のこと好きよね。蒼空も水篠さんのこと……。別に好きだとしても私には関係ないこと。
ここは祝うところ。こんな好きじゃなくなったとか言って振った奴より私よりいい人と出会えたのならそれはいいことだ。
「お待たせ、由香。何か難しい顔してるよ?」
沙良は、戻ってくるなり私の顔を覗き込んできた。
「何でもないわよ。さっ、行こっ」
「う、うん……」
***
「式宮くん、一緒に食べない? 玲央もさ」
水篠と遊びに行った日の翌日の昼休み。玲央と2人で昼食を食べようとすると丹波さんに誘われた。
丹波さんの隣には当然水篠もいた。ということは4人で食べるってことだよな?
「俺は構わないよ。蒼空は、どう?」
「断る理由はないし、いいよ。教室はもう一杯だし、食堂に行こっか」
「やった! あまねん、やりやしたよ!」
丹波さんはそう言って水篠をぎゅーと抱きしめた。
「やりやしたってなんだよ。てか、お腹空いたし早く行こう」
抱きしめられて苦しそうな水篠を助けるため玲央は丹波さんの手を取り、弁当を持って教室へ連れ出す。
「お二人、仲良しですね」
隣で水篠は、クスッと小さく笑った。
「だよな、本人達は、凄い否定するけど。さて、俺達も行こっか」
「はい」
教室を出ると玲央と丹波さんは楽しそうに話していてそのまま食堂へ向かう。俺と水篠は、2人の後をついていくことに。
「昨日は楽しかったですね。あの猫さん、いつでも見られるように勉強机に置きました」
「えっ、俺も。自分の部屋のどこに置こうかなって悩んだんだけどさ勉強机かなぁと」
「ふふっ、凄い偶然です」
「そうだな」
互いに顔を見合わせ笑うと前から視線を感じた。
「こりゃ何かあったね、玲央」
「だな。言ってみろ、蒼空。水篠さんと何があったんだ?」
蒼空にガシッと肩を掴まれ、逃げようにも逃げられない状況になり、水篠に助けを求めようと少し後ろに歩く彼女を見ると、水篠は、人差し指を口元に当てていた。
内緒ですと言っているような彼女の仕草に俺はドキッとして顔が赤くなっているような気がした。
「い、言わない……」
「怪しいな~」
食堂へ着くと4人席を丹波さんが見つけてくれてそこに座ることになった。
「式宮くん、お隣いいですか?」
「う、うん……どうぞ」
隣同士に座ったら余計、玲央と丹波さんが色々追及してきそうだが、彼女と隣同士が嫌なわけではないのでこれでいい。
「おぉ~、今日もあまねんのお弁当は美味しそう! 式宮くん、知ってた? あまねんって料理上手なんだよ」
「うん、この前、クッキーもらったけど美味しかった」
「ほへ~いつの間に……」
丹波さんは、目の前に座る水篠のことをじっーと見ていると彼女は、顔を真っ赤にした。
「な、なんですか? 陽菜さん。私の料理の話はやめましょう……」
どうやら自分に関しての話は恥ずかしくてあまりしたくないそうだ。
「じゃあ、あまねんが式宮くんのこ───」
「それもダメです!」
初めて水篠の大きな声を聞いた気がする。
「え~、あっ、そうだ、式宮くんもこれからはあまねんって呼んでみる? やっぱり仲良くするにはまずあだ名から呼ぶのがいいんじゃないかな。あっ、私のことは陽菜でいいよ」
丹波さん、陽菜がそう言うと水篠は、全力で拒否していた。
「だ、ダメです! よ、呼ぶなら雨音で……あだ名を許可しているのは陽菜さんだけですから」
「私だけ特別! ふふーん」
なぜか陽菜は俺の方を見てどうだ?羨ましいだろみたいな表情をしていた。
「えっと、じゃあ、これからは雨音って呼ぶよ」
「はうっ!」
名前を呼ぶと雨音は、箸を置いて顔を手で隠していた。
「だ、大丈夫か?」
「だっ、大丈夫でしゅ!」
大丈夫といいつつ噛んでる……。可愛い……。
「なら、あまねんも水篠くんのこと名前で呼ばないとだね」
陽菜はニヤニヤしながら雨音に言う。すると、雨音はそっと顔を上げて俺のことをチラッと見た。
そして、体をこちらに向けて俺の名前を彼女は呼んだ。
「蒼空」
「!!」
(今、蒼空って……)
聞いてない、聞いてない! 君づけされると思って待っていたんだが、まさかの呼び捨て!!
雨音のが移ったのか俺の顔も真っ赤になってしまった。
「なんか恋愛漫画みたい。焦れったいわぁ~。まさか呼び捨てとは」
陽菜がそう言うと雨音は、慌てて俺に謝った。
「えっ、あっ、ごめんなさい! 様ですか? さん付けが良かったですか?」
様もくんもなんかよそよそしくなっちゃってる。君づけという選択肢はないのかな?
「いや、蒼空でいいよ。俺も雨音のこと呼び捨てだし」
「は、はい……けど、やっぱり呼び捨ては勇気がいるので蒼空くんで」
「うん」
名前の呼び方が決まったところで俺は止まっていた箸を動かす。
「私もじゃあ、蒼空って呼ぼうかな」
「ど、どうぞ、ご自由に……」
雨音みたいにあまねんとあだ名をつけられるかと思ったが、普通だった。
すると、どう呼ばれるのか決まったというのに玲央は、陽菜に提案した。
「えっ、そらりんがいいんじゃないか?」
「おっ、そらりん! いいね!」
「いや、そんな、いいあだ名みたいな感じの反応してるけど却下だから!」
俺がそう言うと隣に座る雨音は、クスッと小さく笑っていた。
「可愛らしい名前ですね」
「雨音も絶対に呼ぶなよ」
「ふふっ、わかりました。そらりんさん」
(雨音さんまで!?)
雨音は笑いながらおなしなあだ名を呼ぶと陽菜が彼女の肩に手を乗せた。
「ノリわかってんじゃん、あまねん」
「のらんでいい!」
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