第29話 文化祭2日目は雨音と一緒に
文化祭2日目。今日は、当番もなく1日、他のクラスを回ることができる。
最初、雨音が2年の出し物に行きたいとのことで葉月先輩のいるクラスの出し物へ向かった。
「あっ、雨音ちゃんだ!」
教室の中に入るとチャイナドレスを着た葉月先輩は俺達が来たことに気付き、雨音に抱きついた。
「は、葉月先輩……そ、その服は?」
むぎゅうと抱きつかれる雨音は先輩に服のことを尋ねると葉月先輩は彼女から離れて、こちらの方を見てニヤニヤしていた。
「どう?」
「どうって……」
「可愛いです!」
「そう! その反応待ってたよ、雨音ちゃん! 蒼空くんはダメかぁ~」
葉月先輩はそう言って自分の胸を見る。
(何がダメなんだろう……)
「葉月先輩、ここはどういう出し物なんですか?」
看板を見ずに入ってしまったため何の出し物かわからず尋ねると先輩は手を腰に当てて答えた。
「ここは、フォトスポット兼コスプレができるところだよ。雨音ちゃんも何か着てみない?」
葉月先輩からどうかと聞かれて雨音はチラッとこちらを見た。
やっぱり雨音はわかりやすい。着たいと顔に出ている。
一緒に文化祭を回っているのだから遠慮なんてしなくていいのに。
「雨音が着たいなら何か着たらいいんじゃないか?」
「……で、では、着ます」
「じゃあ、蒼空くんがビックリするような用意するから。ほらほら、おいで」
雨音は葉月先輩に更衣場所へと連れていかれ、俺は彼女が着替え終わるのを待つことにする。
どんな衣装を着るのか待っている間暇なので考えてみることにした。
葉月先輩と一緒でチャイナドレスも似合いそうだな。メイド服も似合っていたし、どんなものでも似合いそうだ。
ふと顔を上げると目の前にアイドル衣装を着た由香がいた。
「な、なんで蒼空がいるのよ……」
「由香こそ……。てか、アイドルの格好してライブでもするのか?」
「しないわっ!」
聞いてすぐに突っ込まれ、由香は、顔を真っ赤にして友達がいるところへ行ってしまった。
付き合っている時なら似合ってるなと言っていたのかな……。
由香から目線を外すと後ろからツンツンと肩をつつかれた。
「蒼空くん」
「あっ、着替え────!!」
後ろを振り返ると黄色のドレスを着た雨音がいた。髪型も誰かにやってもらったのかロングからお団子ヘアに変わっていた。
「どうですか……?」
「綺麗」
思っていたことをそのまま口にすると雨音は、ふふっと小さく笑った。
「ありがとうございます」
「うん、やっぱり可愛いね。雨音ちゃん、蒼空と写真撮ってあげよっか」
「あっ、お願いします」
断ると思っていたが、彼女は即答し、葉月先輩に自分のスマホを渡した。
「蒼空くん、もう少し寄らないと不自然な写真になっちゃいますよ」
雨音は俺の手を握りもう少し寄って欲しいと言う。不自然な写真にならないように近寄るのはいいが、かなり距離が近い。
それに気付いた葉月先輩は小さく笑って口を開いた。
「カップルじゃん」
「ちっ、違います! そこは仲がいいと言ってください」
「あはは、ごめんごめん。じゃ、撮るよ~」
先輩に写真を何枚か撮ってもらい、撮った写真は後で雨音から送ってもらうことになった。
一通り堪能した後、雨音は着替えに行き、戻ってきた。
「さて、次はどこに行きましょうか」
「体育館で何か色々やってるらしいから行ってみないか?」
「体育館ステージですね! 是非、行ってみましょうか」
次の行き先が決まり、俺と雨音は体育館へ向かうことになった。
***
体育館へ入ると丁度、軽音楽部が演奏しており、観客は盛り上がっていた。
眩しいスポットライトに大きな音が体育館に響き渡っている。こういうのが苦手な人もいるが、雨音はどうだろうか。
チラッと横にいる雨音を見ると彼女はキラキラした目でステージで演奏する軽音楽部を見ていた。
リズムに乗って手を叩いている彼女を見て俺は可愛いと思ってしまった。
「皆さん、ありがとうございましたっ!」
演奏が終わり、拍手をしていると雨音がニコニコしながら「凄かったですね」と言ってきた。
それに対して「そうだな」と答えて、次のバンドの演奏を聞いた。
30分程体育館のステージを見て、俺達は体育館から自分達のクラスのメイド喫茶へと場所を移動した。何となく自分達のクラスがどうなっているか気になってしまったからだ。
メイド喫茶には長い行列ができており、中には入らずその前を通りかかると列を整理していた陽菜が俺達に気付いた。
「あっ、あまねん。奥のテーブルにお父さんいるよ」
陽菜から教えてもらい、雨音はどうするべきか一度考え、そしてお礼を言う。
「陽菜さん、教えてくださりありがとうございます。蒼空くん、やっぱり話してきます。ついてきてもらってもいいですか?」
彼女はこのままだとダメだと思ったのかお父さんと話そうとする。だが、1人では行きにくいらしい。
「わかった。ついていくよ」
俺がいない方がいいんじゃないかと思ったが前に雨音が上手く話せるかわからないと言っていたのを思い出した。それならついていった方がいいだろう。
「頑張れ、あまねん」
陽菜は雨音の手を両手で取り、そう言うと雨音は嬉しそうに「はい」と言って頷いた。
雨音は父親である秀太さんのいるテーブルへ行き、その後を俺はついていった。
「秀太さん、こんにちは」
雨音の声に気付いたのか秀太さんは彼女の方を向いた。
「雨音さん。来る予定がなかったのに急に来てしまってすまないね。連絡ぐらいすれば良かった」
「い、いえ……私が秀太さんの分も招待券を渡しましたし。あの、お母様は……」
「雪乃さんは、仕事だよ。せっかくの娘の文化祭だから行こうと誘ってみたんだけどね」
秀太さんは連れてこれなくてごめんと申し訳なさそうに謝る。
「そ、そうですか……」
雨音はお母さんが来ていないと知り、残念そうな表情をした。
しばらく沈黙が続き、秀太さんは雨音から少し離れて見守っていた俺に気付いた。
「あぁ、君は確か昨日いた式宮くんだね」
「あっ、はい……」
「もしかして雨音さんが言っていた仲良くなった人というのは式宮くんのことかな?」
秀太さんがそう尋ねると雨音はさっきまで緊張して表情が少し固かったが、笑顔で頷いた。
「はい、蒼空くんは大切な友人です」
「そうか……雨音さんに素敵な友人ができて良かったよ。学校のことはあまり話してくれないから心配したんだけどね」
「心配……」
「父親らしいことができているか私にはわからないけど、何か不安なことがあれば何でも言ってほしい。じゃあ、そろそろ行くことにするよ。雨音さんと話せたからね」
秀太さんはイスから立ち上がり、メイド喫茶を出ようとしたその時、雨音は拳をぎゅっと握り、口を開いた。
「秀太さん、もう少しだけ話してもいいですか?」
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