第11話 ふふっ、それはどうでしょうか?

「ごっ、ごめんなさい!」


 映画が終わり、出た後、水篠は、俺に向かって深く頭を下げてきた。


「頭上げて。無意識にああなったのはわかってるから」


 周りの人もいるので早く頭を上げてもらわなければ俺が彼女に振られたみたいに変に誤解される。


 バッと顔を上げた彼女の顔は真っ赤で今すぐどこかに隠れたいほど恥ずかしそうだった。


「ほ、ほんとにすみません……」


 無意識に俺の肩にもたれ掛かってきている水篠が可愛かったなんて言えないし、悪くないと思ったことも当然言えるわけがない。


「気にしなくていい。それより映画、面白がったな。まさか犯人が主人公だったとは」


 後半からは少しずつ水篠が肩に寄りかかっていることに慣れてきて映画の内容は覚えている。


「そ、そうですね! 私もそのことに関してはとても驚きました。やはりミステリーはいいです。 最後までドキドキした感じがとっても良かったです」


 彼女は話しているうちにだんだんとテンションが上がってくる。


「うん、わかる。またこういう映画があったら見に行こうな」


「えっ……」


 や、やってしまった! ミステリー映画なんて見に行く人がいないから同士がいてつい、また今度もなんて言ってしまった。


 嫌だよな、まだ親しくもない奴から映画に誘われるなんて。


 これを気にもっと仲良くなれたなと思っていたけど……。


「ご、ごめん。さっき言ったことは忘れてくれていいから」


「わ、忘れません! またって言われて少し驚いただけです……。式宮くんが私と一緒にいいというならまた是非見に行きましょう」


「……うん」


 良かった。おかしなことを言われて彼女に嫌われるのは嫌だった。

 

 嫌われたくない……か。俺は、いつの間にか水篠と仲良くなりたいと思うようになっていたんだな。


 映画を見た後は、水篠が服を見たいそうで彼女の行きつけの店へ行くことになった。


 由香とのデートでも女性の服屋に行くことはあったが、やはりこういうところにいるというのは慣れないものだ。


 そしてこういうところに来ると困るのが、


「式宮くん、こちらの白のワンピースと黒のワンピースどちらが私に似合いますか?」


 水篠にどちらのワンピースが似合うのかと尋ねられ、俺は物凄く真剣に悩む。


 どちらかって言ったら白が似合うんだけど、黒もまた違った雰囲気の水篠が見られる気がしていいんだよな。


 って、俺のために着るのを想定してる考えてるとか俺、キモすぎるだろ。


「白……かな」


「白ですね。では、一度試着してきます!」


 彼女は黒のワンピースを元の場所に戻した後、白のワンピースを持って試着室へ向かった。俺はというと近くで待っていてほしいとのことで、試着室の前に立っていた。


 この待つ時間も落ち着かないな……。このカーテンの向こう側に水篠がいると思うと。


「お、お待たせしました……」


 そっーとカーテンが開き、水篠が出てくるとは思っていたがシャッと閉められた。


「えっ?」


 どうかしたのかと心配しているとカーテンの向こう側から水篠の声が聞こえてきた。


「や、やっぱり恥ずかしいです!」


「……俺に見せなくても自分がいいと思ったらそれでいいんじゃないかな」


「そ、それはダメです……式宮くんに一度見てほしいので」


 そう言った彼女はそっともう一度カーテンを最後まで開けた。


「ど、どうですか?」


「か、可愛い……」


 見とれるほど白のワンピースは彼女に似合っていた。


「で、では、着替えてこれを買ってきますね」


 水篠は、そう言ってシャッとカーテンを閉めた。


 俺の好みで良かったのかと思ってしまうが、水篠が気に入ってたし白で良かったのだろう。


 試着室から出てきた水篠は、白のワンピースを持ってレジへ向かったので俺も後を着いていく。


「お待たせしました。次は式宮くんの行きたいところへ行きましょう」


「そうだな……雑貨屋に行ってもいい?」


「もちろんです。行きましょう」


 服屋から離れ、雑貨屋へ向かう中、水篠は、俺の服の袖を掴んでいた。


 人が多いからはぐれないように掴んでいるのはわかるが、そんなにちょっと掴んでいるんじゃいつか離れる。


「式宮くん」


「ん? どうした?」


「手……繋いでもいいですか?」


「……う、うん、どうぞ。はぐれないためにってことだよな?」


 自分が勘違いしないためにも彼女にそう尋ねると水篠は、俺の手を握った。


 そして彼女は、俺に向かって小悪魔なように微笑んだ。


「ふふっ、それはどうでしょうか?」


(どっ、どうでしょうかってどういうこと!?)


 はぐれないためにって聞いてうんって答えたらそれで終わりだ。それなのに彼女はどうかと聞いてきた。


 ということは、手を繋ごうと思った理由ははぐれないためじゃない。じゃあ、何で……。手を繋ぎたいから……?


 手を繋いで雑貨屋に入り、俺達は、一緒に回った。


「猫さん……」


「それ、可愛いな。部屋とかに飾れそう」


 水篠は、猫の小さな置物を手に取りじっと見つめる。


(気に入ったのかな……)


「式宮くん、これ、お揃いで買いませんか? お友達の記しというか、思い出として……」


「……うん、いいな。お揃いで」


 自分もこの猫の置物が気に入ったので彼女の提案に賛成した。


 会計を済ませて水篠は、お手洗いに行くと行って手を離して行ってしまった。


(水篠の手……小さくて強く握ったら折れそうだった)


 自分の手のひらにはまだ彼女と手を繋いだ温もりがあった。


 そう言えば、まだ彼女の連絡先を知らない。彼女が戻ってきたら連絡先教えてほしいと勇気を出して言ってみよう。


 そう決意し、彼女を待っていると隣から聞き馴染みのある声がした。


「由香、私、お手洗い行ってくるからそこで待ってて」

「わかった。待ってるわ」


 名前を耳にして横を向くとそこには友達と遊びに来ていた由香がいた。


「「あっ……」」


「真似しないで。誰か待ってるの?」


 怒っているように聞こえたが、彼女は暇潰しをするためか俺に聞いてきた。


「まぁ、友達を……」


「友達って水篠さん? 最近、仲いいわね。付き合い始めた?」


 俺は誰と来たかは言っていないはずなのに当てられてしまった。


「付き合ってない……」


「ふ~ん」


 会話が続かず沈黙になるとちょうど水篠が戻ってきた。


「お待たせしま……蓮見さん?」


「水篠さん! 友達と遊びに来たんだけど会うなんて偶然ね。やっぱり美人さんは私服も可愛い」


 そう言って由香は、水篠をぎゅっと抱きしめた。


「えっ、あっ、ありがとうございます。蓮見さんも私服、可愛いですよ」


 彼女達は、お互いの私服を褒めて顔を見合わせて笑っていた。


「では、私達はここで」


「うん、またね」


 俺と水篠が立ち去った後、由香の口元が緩んでいたことを俺は知らない。







   

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