第37話 愛しています
雨音の誕生日当日。今日は、雨音とプラネタリウムを見た後、ショッピングモールに行くという予定だ。
朝早くに起きて、朝食を食べる。その後は、服に着替えて、行く準備をする。
集合時間まで後、1時間ある。緊張して全ての行動が早め早めになってしまった。
早すぎても待つだけなので、リビングのソファで座りテレビを見ることにした。
(眠い……)
どう告白しようかとか、タイミングはいつがいいのかと考えていたのが原因で昨日はあまり眠れなかった。
結果、タイミングとかあまり考えずに自分の今の気持ちを伝えることが大事だと思い、寝たのたが夜中の2時過ぎ。
(デート中に寝たら終わりだ)
プラネタリウムで寝そうな未来が一瞬頭によぎってしまった。
(寝ないようにしよう)
集合時間40分前。まぁ、何があるかわからないし早めに行こうと思い、家を出た。
待ち合わせ場所は駅前。近くにベンチがあったので、そこに座って彼女を待つ。
下を向いて彼女が来るのを待っていると、前から声がした。
「お待たせしました、蒼空くん」
顔を上げるとそこには赤の服に膝にかかるかかからないかぐらいのスカート、そしてジャケットを着ている雨音がいた。
「そんなに待ってないよ」
そう言って立ち上がり、もう一度彼女の服装を見た。
「可愛いよ、雨音」
ストレート過ぎる言葉に雨音は顔と耳と真っ赤になった。
「えっ、あっ、ありがとうございます。それは服がですか? それとも……」
「どっちもだよ。その服、雨音に似合ってるし、今日の雨音はいつにも増して可愛い」
自分でも恥ずかしいことをよく言えてるなと思うが、心の中で思うより口にした方がいいだろうと思い、言うことにした。
雨音は、顔を赤くして頭を俺の胸にぐりぐりと押し当ててきた。
「蒼空くんだけズルいです。蒼空くんもいつにも増してカッコいいですし、私服素敵ですし、私が一人占めしちゃいたいです」
顔は見えないが、彼女は、照れながら俺にそう言った。
「一人占めって今日は雨音と2人でいるんだから一人占めできるよ」
「そ、そうですね……では、今日は、蒼空くんは私のことだけ見てくださいね」
ぐりぐりするのをやめて、彼女は、顔を上げてそう言った。
そうお願いされなくても今日のことデートは、雨音ことだけしか見ないのにな。
「わかった。デートの前にこれ、受け取ってもらえる?」
そう言って渡したのは手作りクッキーだ。誕生日プレゼントの1つ目といったところ。2つ目は彼女に選んでもらうため用意はしていない。
「クッキーですか?」
「うん。お誕生日おめでとう、雨音」
「あ、ありがとうございます。家で美味しくいただきます」
彼女は嬉しそうにクッキーを受け取ってくれたので、作って良かったなと思えた。
***
最初はプラネタリウム。雨音と横並びに座り、後ろへ倒れさせると彼女と目が合い、ドキッとした。
「寝ちゃいそうですね」
「だな。そう言えば、校舎裏のベンチに寝るようになったのはいつ頃からなんだ?」
プラネタリウムが始まるまで時間があったので聞いてみた。
「入学式した次の日からですかね。いいスポットを見つけましたので」
家のベッドで寝た方がいいんじゃないかと思ったが、俺もあの場所で寝てみて、気持ちよく寝れると思ったので何も言えない。
「今の雨音の趣味は?」
「趣味はお昼寝と料理、読書です」
「前は隠してたのにもういいのか?」
出会った頃は、お昼寝が趣味ということを隠していた。
「趣味は恥じることはありません。寝ることは悪いことじゃありませんし」
そう言って、雨音は目を閉じた。
(まぁ、そうだな。好きなことを隠したらそれは……ん? 雨音さん、寝てません?)
隣を見るとすうすうと寝息が聞こえてきた。俺が寝る未来は予想できたが、さすがに雨音が寝るのは予想できてなかった。
マイクでまもなく始まると聞こえて俺は慌てて彼女を起こす。
「あ、雨音……もうすぐ始まるぞ」
このまま寝かせておきたいが、せっかくお金を払って見に来たというのに何も見ずに帰るのは勿体ない。
肩をゆさゆさと揺らすと雨音は「んん……」と言って目を開けた。
「どうかしましたか?」
「どうかしたというよりもうすぐ始まるよ」
「えっ、あっ、もしかして、私寝ようとしていましたか?」
彼女がそう尋ねてきたので俺はコクりと首を縦に振り、頷いた。
「蒼空くんとのデートで寝てしまうなんて、私は、何てことを……始まってからはちゃんと起きておきます」
「う、うん……」
そして始まるプラネタリウム。最初は映し出された星を見て楽しそうに見ていた雨音。だが、最後の3分ぐらいになると、雨音は俺の肩へもたれ掛かってきた。
「雨音さん……?」
「……ね、寝てませんよ? 蒼空くんの近くに行きたいと思ったからこうしているのです」
そう言うが、返事をするまでの反応が遅いから寝そうになっていたのは本当だろう。
プラネタリウムが終わった後は、少し歩いてショッピングモールへ移動する。
時間的にお昼の時間だったので、フードコートで昼食することになった。
雨音はオムライスに、俺は和食の定食にした。
焼き魚を1口サイズ箸で掴んで口の中に入れて食べる。そして俺はすっかり忘れていたことを思い出した。
(そう言えば、告白ばかり考えていたから誕生日プレゼントのこと忘れてた……)
「雨音、何か欲しいものはある?」
「欲しいものですか? そうですね、切れ味のいい包丁が欲しいです」
(えっ、包丁!?)
勝手な想像だが、可愛らしいものとか、ぬいぐるみとか、そういうものを言うかと思っていたが、まさかの包丁だった。
しかも切れ味の包丁って、女子高校生は、そういうものが、ほしいのか。
女子と付き合ったことがあるから何でもわかっているつもりだったけど、俺は、まだまだ女子のことを理解しきれてないな。
「ほ、他にないのか?」
さすがに包丁をプレゼントとはいかず、もう一度尋ねる。
「そうですね……物ではありませんが、海に行きたいです」
***
海に着いたのは夕方頃だった。冬が近づくこの頃。海の近くは気温が低く、少し寒かった。
砂浜を歩きながら彼女は、海を見て「わぁ」と感動していた。
「今日はありがとうございます、蒼空くん。とても楽しい誕生日になりました。クッキーをもらって、海が見れて、嬉しい誕生日プレゼントです」
「こちらこそ、楽しかった。ありがと、雨音」
海を見ることが誕生日プレゼントになったかわからないけれど、物じゃなくても、こうして、海を見ることが彼女にとってプレゼントとならこれでいいだろう。
砂浜を歩る中、俺は雨音に今、伝えようと決めた。
(大丈夫……)
拳をぎゅっと握りしめ、俺は隣で歩く彼女の名前を呼んだ。
「雨音、伝えたいことがあるだけど、聞いてくれるか?」
そう尋ねると彼女は、こちらを向いてゆっくりと頷いた。
「私もです。ですが、蒼空くんからの言葉が聞きたいので、私は後で話しますね」
間違っていたら恥ずかしいけど、俺と雨音は、多分、伝えたいことは同じだ。
「雨音ことが好きだ。俺と付き合ってほしい」
彼女のことを真っ直ぐと見て、思いを伝える。ここで、断られても後悔はしない。
「もちろんです。私も蒼空くんのこと好きです。あなたを愛しています」
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