第27話 彼女の隣で…
その上、同じ布団を共有し、同じベッド上にて、隣同士で横になっているのだ。
今まさに、幼馴染の存在を近くで感じていることから緊張し始めていた。
夜十一時四十五分頃。
あともう少しで日付が変わる。
良樹は彩芽の方に視線を向けることも、体の態勢を彼女の方へ向けることもしなかった。
しないというか、できないのだ。
今、視線が合ったとしても、何を話せばいいのかわからないからである。
胸の内が熱い。
この部屋に来る前。良樹は一階のリビングで好きという言葉を告げた。
そして、彩芽のおっぱいを薄い布一枚を隔てて頬で感じてしまい。結果として、その感触が今も尚、頬に残っているのだ。
どうしたらいいんだよ……。
別の場所で寝ようにも、彩芽は許してはくれなかった。
彼女のおっぱいの感触が忘れられないんだが……。
もはや、この現状はどうにもならない。
これは、なるべくしてなったと思うことにした。
「ねえ、良樹? ……もう休んだ?」
「……まだだけど」
良樹は右側にいる彩芽に対し、背を向けたま答えた。
「いつまで起きてる?」
「それは、あと少しだけ」
こんなに近距離でいるのに、緊張して寝られるわけがない。
頑張って寝ようにも、脳内が活性化してくるのだ。
「だったら、何か話さない?」
彩芽は良樹の背中に対し、問いかけてくる。
今、振り向いたら、彼女とバッチリと視線が合う。
良樹は極力、動じないことにした。
今日の夜は、このままの距離感で過ごしたい。
あの三人の件もあり、余計に心を動かされたくなかった。
緊張を堪えるため、胸元に手を当て、思いっきり深呼吸をしたのだ。
「ねえ、こっち向いてくれない?」
「いいよ……このまま話せばいいじゃん」
「私は、良樹の顔を見ながら話したいの」
彩芽からのハッキリとした意思表示があった。
少しだけ、甘えた声で問いかけてくる。
だから、心が靡きそうになった。
「いや、だから、このまま話せばいいだろ。別に顔を見ながら話さなくてもいいだろうし」
「いいじゃん。別に、私の方を向いてもさ。もしかして恥ずかしいとか?」
彩芽は悪戯っぽく言う。
彼女は、良樹の反応を伺うために、わざとバカにしてくるのだ。
「そ、そんなわけないだろ」
「だったら、振り向いてよ」
これ以上、彼女の思惑通りに動いていたら、どうしようもない。
就寝するだけが、彩芽と会話しているだけで寝付けなくなってきた。
その時、彼女から背中を触られ、変な声を出してしまう。
声を若干抑えることができず、非常に恥ずかしい。
「良樹って、女の子みたいな声を出すんだね」
「うるさい。そういうの、言わなくてもいいじゃんか」
「なんか、良樹と一緒にいると面白いし。私さ、良樹と会話したいだけなんだけど」
「……そうかよ。でも、急に背中なんて触るなよ」
ため息交じりに言い返した。
「だって、良樹がこっちの方を向かないのが悪いんだよ。せっかく二人っきりになれたのにさ。少しは私の事を意識してくれてもいいじゃん」
彩芽はボソッと、悲し気に言葉を漏らしていた。
「……わかったから、一応、そっちの方を向くから。少し離れてくれない?」
「本当にこっちを見てくれる?」
「そのつもりだから」
良樹はしょうがないと思いながらも、彩芽に向けていた背中をベッドのシーツへと向かわせた。
「やっと、こっちを向いてくれたね」
「あとはただ休むだけだな」
「えー、もう少し話そうよ。そのために姿勢を向けてくれたんでしょ?」
「わかった、本当に少しだけな」
「やったー」
彩芽の暗かった口調に抑揚が出てきた気がする。
「じゃ、何から話す?」
時刻は深夜零時を過ぎた頃合いなのに、彼女のテンションは少し高まってきている。
その上、彼女から右手を軽く触られ、しまいには手を繋ぐ事となった。
「会話するだけなら、手を繋ぐ必要性なくないか?」
「あるよ」
「ないって」
「私があるって言ったらあるの!」
彩芽は頑なに譲ろうとはしなかった。
「じゃあ、私から話すね。良樹って、あの三人の子の中から付き合うって言ったよね?」
「まあ、そうだな」
「私とは? 私にも好きって言ってくれたよね?」
「それはまあ……」
「もしかして、本心じゃないとか? 嘘ってこと?」
「それは……」
返答しづらい話題だ。
言葉を詰まらせていると、彩芽は握っている手を強く握りしめてくる。
しかし、そこまで痛くはなかった。
そこに関しては普通に女の子らしい握力だった。
「私の方を選んでくれるよね?」
「それは言いづらいから、明日でもいいか。眠いしさ」
「私がちゃんと聞いてるのに? 明日?」
「今日は眠いし、上手く答えられないと思うから。彩芽もそろそろ休めばいいよ」
良樹は軽く瞼を閉じた。
そういう大事なことは睡魔が襲ってきている時に口にするものじゃない。
「まあ、良樹の意思がハッキリしてからでもいいけど。明日までにはちゃんとした返答をしれよね」
「明日まで?」
良樹は驚くようにパッと瞼を見開いた。
「うん!」
「けど、あの三人の件もあるし、明日すぐには……」
「じゃあ、振ればいいんじゃない?」
「それは無理だって」
さすがに、それはハードルが高い。
たとえ、幼馴染からの提案だったとしても受け入れることは出来なかった。
「私、良樹と付き合いたいから」
そう言って彩芽はさらに接近してきた後、良樹の体を抱き枕のようにして、抱きついている。
「私はもう、あの三人とは良樹を付き合わせたくないし。むしろ、私が良樹と一緒に過ごしたいから」
良樹に対する、彩芽の依存度が高くなってきている。
今まで、その想いを口にしていなかった分、余計に感情のコントロールをできなくなっているようだ。
「もう、あの三人とは諦めてさ。私にしなよ」
彩芽は抱きついたまま放そうとはしない。
良樹は彼女の体を感じながら、同じベッドで一夜を過ごす事となった。
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