第4話 二人の美少女のモノを食べられることになった⁉

「どっちがいいの?」


 後輩の宮崎五華みやざき/いつかから問われているのだが、良樹は答えを見つけられずにいた。


 放課後の今、街中の喫茶店内。

 高橋良樹たかはし/よしきはテーブルの反対側の席に座る二人の女の子に見られながら思考を続けていた。


「ねえ、付き合うなら、どっちがいいの?」


 いや、焦らせないでくれ。すぐには決められないんだ。


 一応、心の中では決まってはいる。


 藤井由梨ふじい/ゆりの方に興味があるのだ。


 好きかどうかはわからない。

 でも、以前から関わってみたいとは思っていた。


 同じ図書委員として活動できている事に、高校二年生になってからは心が躍っていた。

 しかし、当の本人である彼女の前では本音を言えない。

 彼女がどう思っているかを考えるだけで、あの言葉を口にはできなかった。




 俺の事は好きなのだろうか?


 良樹は由梨の顔を見つめた。

 だが、ハッキリとした反応はなかった。


 彼女の方も戸惑っているような、そんな印象があったのだ。


 彼女には想いを伝えたい。


 けどな……本音を伝えるのは……。


 勇気を出せないのだ。


 しょうもない奴だと思われてもしょうがない。


 彼女に告白するにしても、本気で彼女のことが好きかと問われると、実のところわからなかった。

 それはなぜか。まだ、彼女と接点を持つようになってから日が浅いからである。


 同じクラスと言えども、まともに関わるようになったのは、今年からなのだ。図書委員会として関わるのもまだ数回ほど。


 本当の意味で彼女のことを把握しているわけじゃない。


 この好きという感情が、彼女の表面上から伝わってくる第一印象だけということもある。


 色々な悩みの感情が入りまじり、奥手になっているのだ。






「良樹先輩? 早く言ったらどうですか?」


 五華から強い口調で問い詰められる。


「ごめん……そういう話はさ」

「なんです? ここまで話を進めたのに、何もなかったことにするのですか?」

「いや、今回は責任を取るために関わっているだけだし。どっちが好きだとか、そういう話はすぐには決められないからさ」

「もう、つまらないですね……」


 五華は頬を軽く膨らませ、どうして、そんな態度をとるんですかといった顔つきになっていた。


「まあ、別に……別に、それでもいいんですけど。私はそこらへんの事は、ハッキリと決めてほしかったんですけどね」


 五華は不満そうな目つきで、良樹を見つめていた。


「藤井先輩もそう思いますよね?」

「え? まあ……そ、そうかも」

「ですよね。ほら、藤井先輩もそう言ってるじゃないですか!」


 由梨も、後輩とは同じ意見だったようだ。


 たまたま、良樹と由梨の視線が重なった。


 え……まさか、このタイミングで告白すれば、案外すんなりとOKを貰えたりするのか⁉


 そんな思惑が、一瞬、心をよぎる。


 良樹はテーブル下でグッと拳に力を入れ、心の中で一度深呼吸をした。


 勇気を抱いて、心に隠れている想いを外に吐きだそうと決断をしたのだ。






「失礼いたします。こちらがご注文のお品になります」


 え?


 仕組まれたかのような絶妙なタイミングで、喫茶店の女性店員がやってきていた。


 店員は手にしているトレーにのった品を、テーブル上に丁寧に置いていく。


 何もなかったテーブルに、ケーキやパフェなどが置かれ、その一面が彩りよくなった。


「では、これでご注文は以上だったでしょうか?」

「はい。大丈夫です!」


 五華は元気よく返事をしていた。


「では、ごゆっくりどうぞ」


 そう言って店員が領収書のようなものを裏側でテーブルの端において、愛想よく笑みを見せ、背を向けて立ち去って行ったのだ。


 な、何なんだよ……。


 ようやく念願の告白に至れたかもしれない。


 良樹はドッと疲れた。


 上手く事が進めば、想いを伝えられたのに、本当に惜しいシチュエーションだった。


 あの店員も悪気があって、タイミングを狙ったわけじゃないと思う。


 そんな人に対し、恨みを抱くのは間違っている。


 しかし、胸に熱い感情が押し寄せてくるのだ。

 本当に気まずくなってきた。


 いまさら、気分を入れ替えて告白するという気にはなれなかった。


 先ほどまで胸に抱いていた勇気を抱けなくなったからだ。


 でも、納得できないよな……。


「まあ、どっちにするかはあとでいいですから。でも、一応、こういう話があったということは覚えておいてくださいね」

「……わ、分かった。覚えておくから……」


 良樹は軽く唸りながらも、後輩に対し、頷くのだった。






「初めて来たお店ですけど。ここって、比較的新しいところなんですか?」


 後輩の方から、由梨に話しかけていた。


「そうよ。半年前にできたお店みたいよ」

「そうなんですね。だから、店内も綺麗なんですね」


 彼女らはパフェやケーキを食している中、良樹はストローでオレンジジュースを飲むことになった。


 寂しさはあった。


 メニュー表に掲載されている写真と比べ、現物のデザートは美味しく見える。


 今更ながら自分も注文すればよかったと思う。

 だが、そこまで所持金がないのだ。


 我慢するしかないと思い、ひもじさを感じながらも、その場を乗り過ごすのだった。




「良樹君は食べてみる?」

「ケーキを?」

「うん、そうだよ」


 由梨はフォークを使い、ケーキの端を取り、それを見せてくるのだ。


 この流れ、食べさせてもらえるのか?


「じゃ、あ……遠慮なく」


 爆乳な彼女が一度でも口をつけたフォーク。それでケーキを食べることができるのだ。


 断る理由なんてない。


 良樹は前かがみになり、彼女からあ~んをして貰えたのだ。


「どう? 美味しい?」

「それは普通に美味しいよ」


 良樹は胸を躍らせながら元気よく答える。


 告白には至れなかったが、彼女と一つになれた気がした。


 今、嬉しさが込みあがってくるのだ。




「だったら、私のも食べるでしょ、先輩ッ!」


 五華は彼女に張り合うように、スプーンですくったパフェの一部を、良樹の口元へと向けてきたのだ。


「いいよ。五華が食べれば」

「私のも食べてくれないと、私は納得できないので」

「どうして?」

「いいから!」


 五華から強引にパフェを口に突っ込まれるのだった。


 女の子らが口をつけたモノでケーキやパフェを食べられていることに戸惑いもあった。


 今まで平凡な生活を送っていたのに、急激な環境の変化に驚いている自分がいる。


「どっちのが美味しかったです?」

「それは、どっちも良かったよ。ケーキもパフェも」

「さっきからそればっかり。もう少しハッキリと言ってほしいんですけど」

「わかった。じゃあ、パフェの方が良かったよ」

「じゃあ、パフェの方がよかったってどういうこと? 仕方なく言ってませんか?」

「そんなことはないさ。本当に」

「……まあ、でしたらいいですけど」


 五華は納得していなかったが、何とか受け入れているようだった。


 良樹は、後輩への接し方に疲れを感じながら、今後もさらに大変になりそうだとジュースを飲むのだった。

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