第18話 やはり俺は…神が作った崇高なるものには抗えない…

 午後三時半――やっと解放的になれた気がした。


 高橋良樹たかはし/よしきは遊園地の出入り口付近で、気楽な態勢で背伸びをする。


 からだ全体が楽になった気分になり、深呼吸をするように軽く息をはいた。


 あとは帰宅するだけだ。

 隣を見やると、藤井由梨ふじい/ゆりが佇んでいる。


 今、この場所に残っているのは彼女のみで、ナギは同じバイト先の仲間と出会い、閉園まで残ることになった。


 宮崎五華みやざき/いつかに関しては、良樹の顔を見るなり、頬を紅潮させ、用事があると言い、帰路に付いてしまっていたのだ。


 今日は五華と共に過ごす予定で計画を立てていた。だからこそ、用事があるというのも不思議な話である。しかし、深く問い詰めてもよくないと考え、良樹は後輩の帰宅を数分前に見送っていた。






「ねえ、良樹君。これからどうする?」

「俺は帰るつもりだけど」


 良樹は平然を装って言う。


「じゃあ、一緒に帰らない?」


 由梨から誘われたのだ。


「いいよ。電車の時間もあるしね。そろそろ、行こうか」


 二人は遊園地を後にする。


 由梨と一緒に帰ることになるとは想定していなかったが、特に問題はないと思う。


 良樹の中では、ナギに告白するつもりでいるからだ。


 先ほどの観覧車内でナギと色々なことがあり、その想いが固まりつつあった。


 多分、ナギでいいと思う。


 ナギと一緒になった方が、同じ趣味を共有できるし、楽しい生活を送れるはずだ。


 ただ、欠点があるとしたら、学校も違う上に、ナギはバイトをしていることもあり、遊ぶとなると若干難しい一面もあるだろう。


 それでも、良樹はナギと共に付き合うことを心に決めていた。


 ……それにしても、ナギは積極的だったな……。


 由梨と隣同士で歩いている時も、観覧車内での出来事を思い出してしまう。


 良樹は片手で口元を軽く触る。


 今もなお、彼女の温かさが残っている気がした。


 嫌らしい気分になる。


 まさか、最初の相手がナギになるとは――






「えっとさ、良樹君って、今日は楽しかったかな?」

「う、うん……」


 車道側の歩道を歩いている良樹は震えた声で返答した。


 ナギとのやり取りを思い出していて、少々反応が遅れてしまっていたのだ。

 変だと思われてしまっただろうか。


「なら、よかった♡」


 由梨の自然体の笑みを見ると、余計に疚しい気分に陥る。


 ナギを選ぼうと心に決めていたのに、由梨と一緒にいるだけで志がぶれ始めてきているからだ。


 いや、浮気みたいな事はダメだって……。


 一度決めたことを変えるなんてよくないと思う。


 それはわかっているが、どうしても心にズレが生じ始めてくるのだ。


 ようやく、三人の女子らと関係性が安定し始めているのに、また浮気とか面倒事にはなりたくない。


 それに、来週の月曜日に三人の内一人に告白すれば、責任という枷から一旦解放されるのだ。


 ここでしくじったら、確実に自分の日常生活は終焉へと向かう嵌めになる。だから、それまでは穏便に、平穏な生活を心がけるべきだろう。




「今は二人っきりだし、手を繋いでもいい?」

「え?」


 良樹は挙動不審な態度を見せてしまう。


「嫌かな?」


 彼女から首を傾げられた。


「そ、そんなことはないけど……」


 二日後に告白しようとしている子がいる中で、由梨と手を繋ぐのは勇気がいる。


 でも、彼女の手に触れてみたい。

 そんな思いもあり、葛藤し始めていた。


 良樹の思考がハッキリとする直前、由梨が良樹の右腕に、その崇高なる爆乳を押し当ててくる。


 推定Oカップとされる、その豊満なモノを使い、誘惑されているのだ。


 本気で誘惑する気でいるかは定かではないが、女の子が持つ最大級のモノを利用しているところを鑑みれば、そうである可能性が高い。


 で、デカいな……。


 やはり、Oカップとか、それ以上かもしれないと思う。


 神が作った崇高なモノを前には、いかなる事情があっても逆らえないと思い知らされるのだった。


「ねえ、顔赤くない?」

「そ、そんなことはないけど……少し熱くてさ。それに、由梨さんが体を近づけてくるから」


 良樹はたじたじになっていた。

 反応に困るシチュエーションだ。


 今、腕に接触している爆乳の事が気になってしょうがない。


 それだけが脳を支配し始める。


 ナギの件もあるが、ナギへ告白し、正式に付き合う前に、由梨のカップ数を知りたい。


 誰もしない、由梨の情報を知りたいと強く願ってしまうのだ。


「手を繋いでくれるよね?」

「……うん……」


 良樹は軽く頷いた。


 ナギへの想いもあるものの、それ以前に爆乳には勝てそうもない。


 自身の考えそのものが根底から覆されるほどに、その爆乳さによって圧倒され、従う結果となった。


「良樹君。今から時間あるかな?」

「一応は……」

「じゃあ、この街にね、私が立ち寄りたいところがあってね。そこに一緒に来てほしいの」

「どういうところ?」

「それはね、行ってから教えるよ♡」


 由梨は良樹の耳元に顔を近づけてきて、こっそりと伝えてきた。


 意味深すぎるというべきか、彼女は以前と比べ、少し雰囲気が変わってきているような気がした。


 落ち着いたイメージのあった彼女なのだが、妙に積極的になりつつあるような気がしてならない。


 やっぱり、俺、誘惑されているのか?




「ここから何分かかるの?」

「歩いてね、十五分くらいかな?」

「十五分か……」


 良樹はスマホで時間確認をする。


 今は午後四時になる直前であり、その程度なら問題はないと思った。


 ……だ、大丈夫だよな……。


 今はナギも五華もいない。

 誰にも見られていないのなら、由梨と一緒に行動してもバレないと、自分の中で結論付けた。


 そもそも、この場所自体が、普段から生活しているところから大幅に離れているのだ。


 休日だといえ、他の知り合いと接触することもないだろう。




「良樹君は私と一緒に来てくれるよね?」

「ああ、それはもちろん」


 迷いなどなかった。


 ナギにしようと結論づけていたが、もう一度振り出しに戻し、明日考え直せばいいという思考になっていた。


「決まりだね!」


 由梨から、さらに爆乳を押し付けられ、下半身も興奮してくる。


 彼女らに想いを告げるのは、二日後なのだ。


 誰も見ていない今、由梨との時間を堪能しようと思う。


 良樹は自分の欲望のまま、彼女と手を繋いで、その場所へと向かうのだった。

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