第31話 やっぱり、私の方がいいとか?
「良樹先輩……話って何ですか?」
午後の授業が終わった直後、
その日の放課後。
二人っきりの空間で、五華と話しておきたいことがあるからこそ今、とある一室で向き合っているのだ。
朝方の校庭で、彼女には嫌な思いをさせていた。
だからちゃんとやってくるとは思っていなかったが、時間通り、約束した場所に顔を出してくれていた。
現状、部活の時間帯ということもあり、部活棟には殆ど人がいない。
皆、校庭や体育館で部活動をしている。
グラウンドの方からは練習の声が聞こえていた。
文化系の人らは、一応部活棟内にはいるものの、各々の部室からは出てくることはない。ゆえに、部活棟自体が比較的静かだった。
今のところ、本校舎ではない空き教室が誰の視線も感じることなく、気楽にやり取りができる状況が整っているのだ。
空き教室にいると、後輩の
注目されても、特に大それたことを話すわけじゃない。
過度な期待をされても、少々困るのだ。
「えっと、今後の話なんだけど」
良樹は言葉を選びながらも発言する。
「はい、それから」
「誰と付き合うかについて……その、もう一度考え直す件なんだけどさ」
昨日、選び直すと言って、今日の朝、
今のところ、後輩の様子を伺う限り、そこまで嫌そうな顔つきをしているわけではなかった。
「もう一度、考えてくれるんですよね?」
「ああ……今日の朝はごめん。色々と説明不足で。俺もちょっと悪かったと思うから」
「良樹先輩がもう一度考えてくれるなら、私、別に朝の事は忘れてあげますけどね」
五華はすんなりと受け入れてくれた。
「それで、今度こそは私を選んでくれるってことですよね? だから、私だけを一人だけ呼び出したんですよね?」
五華は目を輝かせながらも距離を詰めてくる。
「それは……まだ考え中でさ」
「でも、私を選ぶとかじゃないの?」
後輩は不安そうな顔つきになる。
「それはさ。昨日もあったと思うけど、先にそれを一人だけに伝えてしまうと面倒になるじゃんか」
「ですけど。本命は誰なんです?」
今、聞かれたくない発言をされ、ドキッとし、心が震えていた。
言葉に詰まる。
「それは……今のところは内緒だ」
「勿体ぶらなくてもいいのにー」
「言ってしまうと、俺が後々困るんだ。そこはわかってくれ」
「私は別に、内緒にしておきますけどね」
五華は大丈夫、安心してくださいと、堂々とした立ち振る舞いをし、胸を張って元気な顔を見せている。
だとしても、昨日の二の前にはなりたくなかった。
「私は期待してますから。絶対に選んでくれるって」
「考えておくよ……」
自分の中では前回同様、由梨にしようと心の中で決めている。
けど、五華をそのまま切り捨ててしまうのも申し訳ない気分になる。
毎回悩んでばかりだから、後々面倒事に発展するのだ。
誰か一人に決めたら、絶対に考えを揺るがしてはダメだと思う。
――とは言いつつも、毎回、揺らいでしまい、失敗に終わる。
だが、今回だけは絶対に――
優柔不断な自分が苦しくなったが、これは自分の人生において絶対に必要な事だからこそ、ハッキリとさせたいと思う。
「一応、確認として聞いておくけど。誰にも言っていないよな?」
良樹は五華に聞きたい事して、パッと思いついたことがあった。
「ある事ない事ですか?」
「朝の事な」
「それは言っていないですけど?」
「じゃあ、午前中に噂されていた事って」
廊下での出来事を思い出し、独り言を呟く。
「それは、朝方に校庭のところで、あんなに話し合っていたら聞かれていてもおかしくないですからね」
「だよな」
「今後は人前でイチャイチャしないでくださいね。できれば、私とだけにしてください」
後輩から注意深くも、優しく言われた。
同時に、告白を求められている気がする。
さっきよりも彼女との距離感が狭まっているからだ。
「そもそも、良樹先輩が、ハッキリとしないのがいけないんですから。最初っから、私にしておけば、こんなことには」
五華の考えも合っている。
けど、色々な女の子に迷惑をかけてしまっている以上、すぐには結論に辿り着けなかったのだ。
「私、本当に何も言ってないですからね。それと朝の件に関しては私も嫌だったですけど、だからといって本気で悪口とかは言いませんから」
彼女なりの優しさを感じた。
「一先ず話を戻すけど、四人でもう一度話して、それから誰と付き合うかハッキリと決めさせてもらうから。だからさ、一応、日時を決めておきたくて」
「私はいつでもいいですけど」
「そうか。じゃあ、平日とかでも良いってこと?」
「そうだね。今週中は予定を入れていないので」
「だったら……でも、ナギにも話をつけておかないといけないしな」
現在、ナギとは出会っていない。
五華と会話を終わらせたら、その後でナギにも話をつけてこうと思っていた。
今は話を切りのいいところで終わらせるべきである。
「俺はここで」
五華から距離を取る形で、その空き教室の扉へ向かおうとする。
「良樹先輩は、どこかに行くんですか?」
「これからナギのところに」
「私、良樹先輩と一緒に帰りたかったんですけど」
「じゃあ……だったらさ、途中までならいいけど」
「本当ですか。では、ちょっと話したいことがあったので」
五華は腕に抱きついてきた。
朝。校庭で、彩芽から良樹がされた行為である。
五華の胸が当たっていた。
フワッとした感触が腕に伝わる。
だが、爆乳じゃなくても、貧乳にも良さがあるのだ。
「どうしたんですか?」
「なんでも……」
「もしかして、私に関心を持ってる顔をしてますけどね」
「それは……ないから」
おっぱいの感触を感じただけで、心なんて靡くなどない……と思いたい。
良樹は後輩から弄られながらも共に部活棟を出て、本校舎の廊下を歩き始めた。
放課後の四時四五分過ぎくらいだと、廊下を歩く人はほぼいない。
静かな空間を移動し、本校舎の昇降口で外履きに履き替え、学校を後にするのだった。
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