第19話 俺は、彼女の爆乳を――

 高橋良樹たかはし/よしきは帰りの電車に乗る前。由梨と共に遊園地近くにある街中へと足を運んでいた。


 由梨は、この街中で立ち寄りたいところがあるらしく、今、その店内にいたのである。


 辺りを見渡せば、良樹からしたら気恥ずかしくなるところだ。


 視線を逸らしたいが、逆に変に思われてしまうかもしれない。

 男性からしたら、普段は訪れる事のない場所。


「どれがいいかな……」


 藤井由梨ふじい/ゆりは目の前にある下着を見ながら考え込んでいる。


 そんな中、良樹は一人で考え込む。


 今って、ほぼほぼ、女性しかいないんだよな……。


 もう一度辺りを見渡しても女性しか視界に入らない。


 緊張に押しつぶされそうになるが、これは、逆に考えれば楽園かもしれなかった。




「ねえ、良樹君はどういうのがいいと思う?」


 楽園に身を委ね始めていた良樹がボーッとしている際、由梨から突然問われた。


 良樹は体をビクつかせ、隣にいる彼女の方を見やった。


「私、いつも迷うのよね。でも、今日は良樹君と二人っきりになれたから決めてもらおうと思って。だから、ここに誘ったの」


 由梨が手にしているのは、大きめのブラジャーだった。


 普通、異性に下着を見られるのは恥ずかしいと思う。

 以前も学校で、由梨の下着を目撃してしまい、その時だって思いっきり赤面していたくらいだ。


「俺が選ぶの?」


 良樹は戸惑い、声が震えていた。


「お願いしたいの」

「けど、恥ずかしくないか?」

「それは……うん、恥ずかしいけどね」


 由梨は、隣にいる良樹に対し上目遣いで見やり、頬を真っ赤に染めている。彼女は本気で恥ずかしがっているのだ。

 勇気を持って発言している彼女の誘いを断るのも気が引けてきた。


「わ、わかった。選ぶよ」

「ありがと! それで、私に似合いそうな下着ってあるかな?」

「えっと……そうだな……」


 由梨が購入しようと思っている下着のタイプは物凄くデカい。


 太っているとかではなく、とにかくおっぱいが規格外すぎて、それに合わせた下着になっているからだ。


 ここまでデカいサイズのブラジャーは見たことがない。

 故に、気恥ずかしい感情と、驚きの感情が入り混じっている心境だった。


「でも、殆どデザインが似ているね」

「だって、大きすぎて種類が少ないからね。しょうがないよ」


 平均を上回る大きさだと生活もし辛いだろう。

 特に下着だと普段から身に着けるものであり、色々と成長する度に買い換えるならば、それは大変だ。


「毎回買い換えていたら、お金もかかるでしょ?」

「そうだよ。私の場合、少しずつ大きくなっているから。また、数か月後に買い換えないといけないんだけどね」


 口ぶり的に、由梨も苦労しているのだと察しがつくほどだ。

 デカいといって、すべてがいいとは限らない。


 見ている側からすれば、目の保養になるかもしれない。が、当の本人からしたら、大きな重りを抱えて生活しているような状況であり、毎日が試練の連続だと思った。


「……すぐに変えることになるなら、こっちの方がいいんじゃないかな……」


 良樹は、比較的安めな値札がついたシンプルな黒色のブラジャーを指さす。

 ブラジャーといっても一般的には他人に見せびらかすモノではないのだ。

 デザインも気にする必要性はないと思う。


「これ?」


 由梨はハンガーにかかってある黒色のブラジャーを手に取る。


「見た目よりも、機能性を重要視した方がいいと思うし」

「良樹君は、本当にこれでいいと思う?」


 彼女はブラジャーを胸元に当てていた。


「え?」

「だから、私が身に着ける下着で、良樹君の目の保養になれるかなって……」

「え? いや、そういうのは気にしなくてもいいんじゃない?」


 良樹は焦りながら、身振り手振りで目を丸くしながら反応する。


「私ね、本当はね、良樹君のために下着を購入しようと思って。だから、良樹君と、このお店に誘ったの」




「私、良樹君からもっと注目されたいから。だからね、恥ずかしいとか、私、気にしてないから……」


 一瞬、由梨の声が緊張のあまり小さくなるが、それでも彼女から自身の気持ちを伝えたいという想いが強く伝わってきたのだ。


「私、良樹君が選んだ下着なら、なんでも着るから!」


 由梨はグッと距離を詰めてきた。


「そ、そういうのは、無理しなくてもいいよ」


 なんか、ヤバい事になりそうだ。


 しかも、由梨の瞳がハートマークになっていて、いつもと何かが変わり始めていると思った。


「私、別に無理はしてないよ。だから、良樹君がエッチな下着を着てほしいなら、それでもいいし♡」


 由梨は冷静さを見失っているのか、次第に暴走をし始めていたのだ。




 そんな中、嫌な予感が脳裏をよぎる。


 パッと視線を遠くへ向けると、クラスメイトである陽キャ寄りの女子二人が、良樹の瞳に映ってしまったからだ。


 この場所でやり取りを続けていたら、遅かれ早かれ気づかれてしまうだろう。


 良樹が由梨と、下着エリアにいるところを目撃されたら、すべてが終わる。


「こ、こっちに来て」


 冷静さを失っている由梨の手を取り、試着室へと誘導する。


 彼女らの視界から消えるように身を隠したものの、良樹も試着室に入ることになったのだ。

 すぐに逃げられる場所がなかったからである。






「良樹君って、強引系?」

「そうじゃないよ。気づかなかった? さっき近くに同じクラスメイトがいて。それで、逃げようと思って」


 二人は蜜室空間にいる。

 そんな中、良樹の視界には、物凄くデカいおっぱいが映っていた。


 一人専用の試着室だったこともあり、少しでも動けば、そのおっぱいに接触してしまうほどだ。


「別に問題ないんじゃない?」

「いや、色々困るだろ」

「私はいいよ。他人から、そういう関係だと思われても♡」


 由梨は今まさに変にテンションが上がってるせいか、本当に冷静な判断が出来ていないようだ。


「私ね、良樹君になら、見せてもいいよ♡」

「ここで? いいよ」


 拒否するのだが――


「いいって、見たいってことだよね♡」

「そうじゃなくて」


 もはや、良樹の力では、由梨の暴走を止める手段はなかった。


 どうしちゃったんだ、由梨は……。


 しまいには、二人っきりの試着室内で、由梨がブラジャーまで外すことになったのはいうまでもない。


 今日はとんでもない日だと思った。

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