第25話 私の見てみる?
先ほど彩芽と夕食を共にし、三人の件についての相談にのって貰っていたのだ。
三人の件というのは、
ナギ。
――の事で、その彼女らとは複雑な関係の状態であり、一刻も早く解決しないといけない事だった。
しかしながら、特にこれといって大きな改善策を見つけられたというわけでもなく。これ以上、深い話については明日また話すということになった。
「良樹、何かテレビでも見る?」
食事は終わったが、これからの事は決まっていない。
一応、自宅に帰宅しようと考えてはいたが、リビングの窓から見える景色は暗くなっていて殆ど何も見えなかった。
そこまで遠い距離ではないが、彩芽からは今日泊っていきなよと言われた。
幼馴染曰く、両親が今日は帰ってこないから、一人でいるより一緒にいてほしいと言われていたのだ。
今日は相談にのって貰ったわけで、彩芽の意見を尊重し、今日は一緒に過ごしてみることにした。
「彩芽が好きな番組があるなら、なんでもいいよ」
良樹は返答した。
彩芽の家に泊る事にはなかったが、今から特にやることはない。
二人はリビングのソファに隣同士で座り、何となくテレビをつけて見ている。
今見ているのは、バラエティー番組だった。
普段と変わり映えしない内容。
昔と比べ、面白いとは感じなくなっていた。
自分の趣味が昔と比べ、変わってしまっただけかもしれない。
「……この頃、面白い番組がないよね」
「そうかもな」
「良樹はこの頃気になってる番組ってある?」
「今はないかも。俺、スマホの動画サイトしか見ていないしな」
「そっか……今は、ネットとかの動画しか見ないよね」
「彩芽は動画サイトって見る?」
「私も見てるけど。久しぶりにはテレビとか見たいなって。でもね、音楽番組があれば、よく見るんだけどね」
彩芽はテレビのリモコンを片手に、番組をコロコロと変えていた。
「……今日は音楽番組もないね……良樹はお風呂でも入ってきたら?」
「俺が先でいいのか?」
「別に、私はあとでもいいし。まあ、他にやることあるしさ。私はね」
「なら、行ってくる」
良樹はソファから立ち上がり、リビングの扉へと向かう。
「良樹!」
「なに?」
扉を開ける直前で立ち止まって振り返る。
「脱衣所のさ、洗面所の隣に棚があるのわかる?」
彩芽はソファで立膝をついて、良樹の方へ顔を向けて話しかけてきていた。
「わかるけど」
「その棚にタオルとか入ってるから。それを自由に使いなよ」
「わかった。じゃ、先に入るな」
良樹は背を向け、気兼ねなく返答した後、リビングを後にした。
なんか、色々なことがあったな……。
まあ、仕切り直して、明日からやっていくしかないか……。
人生には苦行が付き物だと思う。
久しぶりに彩芽と過ごせた。高校二年生になってからは別々のクラスになり、昔と比べ殆ど関わっていなかったことを踏まえると良い機会だったのだろう。
あともう少ししたら、体でも洗ってお風呂からあがろうと思った。
お風呂に入って、一〇分ほど経過したはずだ。
彩芽もお風呂に入るだろうし、自分一人で長居するのはよくない。
「じゃあ、そろそろ……」
良樹が体を洗おうと湯船から出た時だった。
お風呂場の扉が開いたような音が聞こえたのだ。
何事かと思い、視線をそちらへと向かわせると、そこには人影があった。
お風呂の湯気でハッキリとわからなかったが、よくよく目を凝らしてみると、彩芽であることが分かった。
「……え?」
「ねえ、体を洗ってもいい?」
突拍子のないセリフ。
「え? ……ん⁉ な、なんで、ここに入ってきてるの?」
良樹は驚き慌ててしまう。
「だって、背中の方は洗いづらいでしょ? だから、私が洗ってあげようと思って」
「いや、いいよ。そういうのは」
良樹は咄嗟に、手にしていたタオルで下半身を隠す。
「結構さ、成長してるじゃん」
色々と遅かったようだ。
「それよりさ……その、勝手にさ、ノックもなしに入ってくる事はないだろ!」
「いいじゃん。昔からの仲なんだし」
「そうかもしれないけどさ」
良樹は恥ずかしい感情もあるのだが、呆れた感情も混在していた。
「昔は一緒に洗いっこしてたじゃん」
「そ、それは、昔の事だろ」
良樹はチラッと彩芽の体を見てしまう。
「やっぱり、私の体に興味がある感じ?」
「違うから」
良樹の視線が、自身の体に向けられていることに気づいていたようだ。
彩芽は自身の制服に手をかけていた。
その上、彼女は自身の胸を触っていたのだ。
「別に見せてもいいけどね」
「いいから、そういうの」
「私の見れば、もっとおっきくなるかもね」
「別に彩芽のは気にしてないから。それより一旦、出てくれないか」
彩芽なら、この場で制服を脱ごうとしているのは明白だ。
「でも、背中は普段から洗えてる?」
「そ、そりゃ、まあ、洗えているから。というか、それは昔の事だろ。いいから、一旦出てくれ」
良樹は少々強い口調で言い放ってしまった。
そして、彼女を強引にお風呂場の外へ押し出そうとする。
しかし、その直前で良樹は足を滑らせてしまったのだ。
体の態勢を崩してしまい、彼女を押し倒す形となった。
「結構、大胆じゃん」
「俺、そういう目的で押し倒したわけじゃないからな……」
彩芽は今、お風呂場と脱衣所の扉の境で仰向けになってる。
それを良樹は覆いかぶさっている状態だった。
彩芽の顔が自分の近くにある。
キスでもしてしまいそうな距離だ。
今まで普通に友達として関わっていたが、不思議と女の子として見てしまう。
彼女は元から女の子だが、ここまで意識して彩芽の顔をまじまじと見つめたことなどなかった。
「そんなに見つめられたら、逆に気まずいんだけど」
「……べ、別に彩芽の事をそういう風に見てないから」
良樹は咳払いをし、その場で態勢を整え、彩芽に手を差し伸べ、その場に立たせてあげた。
「それで、どうする? 私が洗う?」
「……今回だけなら」
良樹は彼女と顔を合わせることなく呟いた。
「本当の事を言えばいいのに。もう少し素直になれば?」
彩芽から笑われてしまった。
からかわれているだけかもしれないが、なぜか、そこまで嫌な気分はしなかった。
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