第26話 俺の目の前にいる幼馴染の様子がおかしいんだが…

 今日の夜は、幼馴染と過ごすことになった。

 幼馴染の両親は帰ってこないらしい。

 明日の朝までは実質、二人っきりという事だ。


 そう思うと、不思議と緊張してくる。


 余計に意識してしまうのだ。

 幼馴染である中野彩芽なかの/あやめの事を――


 何事もなければいいのだが……。


 平穏に過ごしたいと思っているが、なぜか、自分の思い通りにはいかないような気がしてならなかった。




「ねえ、良樹はもう休む?」


 丁度、彼女がリビングに入ってきた。

 ドライヤーの音が聞こえ始める。


「特にやることはないしな」


 良樹は考え込みつつも、軽く返答した。


 今から一時間ほど前にお風呂から上がり、高橋良樹たかはし/よしきはテレビをつけ、リビングのソファに座っていたのだ。


 彩芽は良樹がお風呂から出てから一人で入り、さっきお風呂おから上がったようで、ドライヤーで髪を乾かしていた。


「だったらさ、やることないなら休んでもいいけど?」

「じゃあ、ここで休むよ」

「そこのソファで?」


 彩芽は手にしているドライヤーの電源を止めると、良樹の近くにやってきて言う。


「それ以外にどこがあるんだよ」

「私の部屋とか」

「……いや、さすがにそれはないだろ」


 良樹は驚くように彩芽の方を見、パッと視線を逸らす。


 別に彼女の事を意識しているわけではないけど気になってしょうがなかった。

 さすがに、そういう関係になるために今日、泊まろうとしたわけじゃない。


「俺はここでいいから」

「でも、休みづらくない?」

「そんなことはないよ」


 良樹はソファで試しに横になる。

 リビングの天井を見上げるような態勢になっていると、上の方が急に暗くなった。

 彩芽が近づいてきたからだ。


「本当にそこでいいの?」

「ああ、問題ないよ。逆に聞くけど、仮に彩芽の部屋で休むとして、俺はどこで寝る事を仮定して言ってたんだ?」

「私のベッドだけど」

「それなら、彩芽は床で寝ることになるだろ」

「別にそういうわけじゃないし」

「……」


 嫌な予感しかしない。


「私と一緒に休めばいいじゃん……」


 ⁉


 話の流れ的にそうなるよなと、良樹はドキッとしながらも胸元を熱くさせた。


 三人の女の子に関しての問題すらも解決していないのに、幼馴染と同じベッドで過ごすなんてありえないだろう。

 あの三人に、今、幼馴染と一緒にいることがバレているわけじゃないが、疚しい気分になってくる。




「それでどうするの?」


 彩芽との距離がさらに短くなる。

 ソファで横になっている良樹の顔の近くに、彼女は顔を近づけてきたのだ。


「やっぱり、俺はここでいいから」


 良樹はソファに正座するように座り直し、軽く瞼を閉じて咳払いをした。


 気まずすぎるって。


 元々は相談にのってもらうだけだった。

 なのに、今では変な関係になりつつある。

 幼馴染と、そんな関係になるつもりなんてない。


「ねえ、良樹って、本当にあの子らの中から選ぶつもり?」

「そ、そうだけど。だから、彩芽に相談してたんだろ」


 良樹は瞼をゆっくりと見開いた。


 すると、彩芽は軽く頬を紅潮させていたのだ。

 その上、彼女は瞳を潤ませている。


「彩芽……?」

「私の事はどう思ってるのかなって事」


 彩芽はか弱い口調で、ボソッと呟いていた。


「……普通だけど」

「普通って、どういう事?」


 彼女は首を傾げる。


「えっと、友達としてって事だけど」

「友達か……良樹からしたら友達って認識なのね」


 彼女は悲し気なため息をはいたのち、その場で背筋を伸ばして態勢を整え直していた。




「でも、どうして伝わらないのかな……」

「な、何が?」

「私、良樹がいつになったら、気づいてくれるのかなって、ずっと待ってたんだけど」


 彩芽は良樹を軽く睨んできた。

 しかし、彼女の瞳を潤んだままだったのだ。


「良樹ってさ、高校生になってから恋人が欲しいとかさ。恋人の作り方とか、そういうの相談してきてたじゃん」

「そ、そうだね」

「本当は嫌だったの」

「なんで……」

「そ、そんなの、私が最初から良樹の事を好きだったからに決まってるでしょ。だから、いつになったら、振り向いてくれるのかなって。ずっと、考えていたの」

「そうだったのか? いや、でも、彩芽って、そんな素振りなんて見せたこともないし。俺と彩芽は友達みたいな間柄だとばかり」


 良樹は早口で言い訳みたいな事を、彩芽の目を見ながら言った。


「本当、鈍感だよね。昔から、親切にしてたじゃん」

「それも友達だからとばかり」

「それは好意を抱いていたら普通するでしょ。優しくするとか、相談にのってあげるとかさ」


 それだけではわからない。

 良樹からしたら、昔と同じく、友達のような関係性で接してくれているのばかり思っていた。


「それで、私の事は、対象じゃないの?」

「それは……」


 そんなのすぐには答えられるわけがない。


 まさか、彩芽からそういう想いを寄せられていたなんて知らなかったからだ。


 けど、さっきお風呂場で背中を焦って貰い、少しだけ彩芽を意識してしまっているのは事実だった。


「良樹は私のことが好き? 嫌い?」


 その二択しかないのか。


「どっちか言わないと、今日、そこのソファで休ませないから」

「え、それはちょっと」

「だったら、ハッキリと言ってよ。どうなの?」


 彩芽のことが嫌いなわけがない。

 そう考えると、必然的に好きという単語した脳内に浮かばなかった。


 どちらかを答えないと、結果として彩芽の部屋で就寝する事だってある。


 ああ、そうか。

 どちらかを伝えれば、ソファで寝られるのだと思い、良樹は勇気を持ち、好きというセリフを彼女から視線を逸らしつつも言った。


「本当⁉」


 若干の間があったが、彩芽は驚きつつも、満面の笑顔を見せてくれたのだ。

 その頃には、瞼を濡らしてはいなかった。


「じゃあ、一緒に休んでくれるって事なんでしょ!」


 彩芽はソファに座っている良樹に抱きついてきた。


「お、俺はそんなつもりじゃなくて」


 その時、位置的に、良樹の顔のところには、彩芽のおっぱいが接触していた。


「じゃあ、嘘なの?」

「そ、そうでもなくて……」


 今まさに、彩芽のお風呂上りの匂いと、薄着に隠れたおっぱいの感触を頬で感じていたのだ。


 ほぼ、素のおっぱいの感じであり、どうにかなりそうで、上手く返答も出来なくなっていた。


 こういう時、どうすればいいんだ。


 今日の夜は、意外と長くなりそうだと思った。

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