第16話 彼女はエッチに、舌を出してくる
付き合ってほしいと――
けど、今はその問いには答えられない。
四人で決めたルールがあり、この遊園地で一時間おきに交代して遊び、来週の月曜日までに誰に告白するかを良樹自身が決める。
だから、現時点で五華には告白のようなことは出来なかった。
今はコーヒーカップから降り、近くのベンチにて隣同士で座って会話をしていたのだ。
抜け駆けとかはできない。
勝手にルールを変えたら、それはそれで別の問題に発展するだろう。
「え? でもさ、五華は俺のことが好きではないって、以前言っていたはずだけど?」
「それ、本気にしてたんですか?」
「え、まあ、そうだけど。あんなに違うって言ってたから。そういうことだと」
「そんなわけないじゃないですか……あの時は言いづらかったの!」
右側の席にいる彼女がリスのように頬を軽く膨らましていた。
「そ、そうなのか……」
「そうですから! そういうのはちゃんと察してくださいね!」
五華から注意深く指摘された。
「でも、やっぱりさ、みんな平等に対応しないといけないし。それに、これからナギとも関わらないといけないし」
「そもそも、あのナギさんって人、誰なんです?」
「あの人は、バイトで知り合った人で」
事の経緯を説明する事にした。
「良樹先輩って、バイトをしてたんですか?」
「今は色々あって辞めたんだけどね」
「ふーん」
五華は疑いをかけるような目で、良樹を見やってくる。
これ以上、バイトの件については話したくなかった。
自分がメイド喫茶で女装しながら働いていたとなれば、また弱みを握られてしまうからだ。
「それで、どんなバイトなんです?」
「それは内緒だ」
良樹は即答した。
「何かやましい仕事でも?」
「そんなわけないよ。普通の飲食店っていうか。そんな仕事」
「飲食店? じゃあ、あとでその店に連れて行ってください」
「な、なぜ?」
「だって、良樹先輩の事をもっと知りたいので」
「それ知ってもあまり意味がないと思うけど」
この話題を続けたくないんだが……。
「ねえ、交代の時間じゃない?」
二人の前に突如として現れるナギ。
ナギは腕時計をチラッと良樹に見せてくる。
午後一時になる直前であり、若干早いが、五華との会話を強制終了させるのには適したベストタイミングだった。
「そういうことだから、その話はあとで話そうか」
「約束ですからね」
五華はしょうがないといった表情を見せ、ため息をはいていた。
一先ず、バイトの件については何とか回避できたと思う。
それより、由梨はどうしたのかと思い、辺りの様子を伺っていると――
「今から私との時間ですし、遊園地を楽しみましょうね」
ナギは積極的に話しかけてきており、強引にも良樹の腕を掴んで急かしてくる。
「一時間だけですし、やれることが少ししかないんですから、さ、行きましょ!」
ナギは一度決めたスケジュールを必ず達成するタイプの子にも思える。
高校生の時点で普段からバイトをしていることも相まって、そういうタスク管理的なところはしっかりできているようだった。
「私、一緒に遊びたいところがあって、まず、あっちの方に!」
「え? ちょっと」
ナギに急かされながらも、五華を背後に先へと進むことになったのだ。
「私、こういうことをしてみたかったんです!」
遊園地内の飲食店内。席に座るナギは、スプーンでパフェを掬い、それを隣にいる良樹の口元へと運んできていたのだ。
「……んッ」
ナギから、あ~んをして貰った。
周りの席に人がいる中での、そのような行為は体が熱くなる。
「美味しい?」
「ま、まあ、美味しいかな……」
味よりも緊張感が勝り、自身の心臓の鼓動が加速していくようだった。
「私ね、異性と一緒に食べ合いをしてみたかったの! だから、良樹もこのスプーンを使って、私にも食べさせてみてよ」
「わ、分かった」
スプーンを渡されたと同時にナギの柔らかい手が自身の手に接触する。
それだけでもドキッとしてしまうほどだ。
周りから見たら、ナギとは恋人関係のように思われているのだろうか?
そう思うと、さらなる緊張感に襲われそうになっていた。
現在、遊園地内のデザート店にて、二人は同じソファに隣同士で座り、その時間を過ごしていた。
正面のテーブルには、バナナチョコパフェがある。
六等分されたバナナがクリームの上にのっていて、その上からチョコがかけられてあった。
良樹は彼女の温もりが残るスプーンで、そのクリームやチョコがかけられたバナナを掬う。
彼女の方を振り向くと、ナギは瞼を閉じ、口を軽く開けている。
普段は見る事のない、瞼を閉じた女の子の表情。
その表情に、不覚にもドキッとしてしまう。
その上、今の彼女は無防備であり、ナギの胸元が視界に入る。
近くで見ると、ある程度デカいというのが分かった。
以前、揉んでしまった時の感覚が蘇る。
「ねえ、早くー」
ナギは瞼を薄っすらと開きつつ、良樹の様子を伺ってくる。
メイド喫茶で働いていることもあり、異性の扱いが上手いというか、良樹は変に彼女に対し、意識してしまっているのだ。
良樹はエッチなことを脳内からかき消し、食べさせることに集中する事にした。
「えっとさ、もう少し口を開いてくれないかな?」
「これくらい?」
ナギは口をさらに開け、少しだけ舌を出してきた。
ナギの口内にクリーム付きのバナナの一部を入れる。
彼女は意味深な声を出しつつ、舌で汚れた唇を舐めていた。
変な妄想をしてはいけないのに、なぜか、卑猥なことが脳内を駆け巡ってしまうのだ。
「……あれ? そう言えば」
考えてみれば、今使っているスプーンは良樹の唇にも触れたモノ。
間接キスみたいな状況であると、今気づいて、なおさら気恥ずかしくなった。
「美味しいよね、このパフェ」
ナギは軽く笑みを見せた後、良樹が手にしているスプーンを取り上げ、再度、パフェの一部をそのスプーンで掬って、良樹の口元に当ててきたのだ。
「この味を共有しようよ♡」
と、意味深な表情でナギからの誘惑が始まったのだった。
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