第17話 俺は君のことが好きかもしれない…
ナギと時間を共にしてから数分ほど経過していた。
先ほどのデザート店を後にし、二人は遊園地内を歩いているわけなのだが、ナギは良樹の腕にべったりとくっ付いている状況だ。
デザート店では、イチャイチャした感じに、パフェの食べ合いをしていた。
かなり恥ずかしかったが、程よく胸の内が温かくなっていたのだ。
傍から見たら、普通に付き合っていると思われてもおかしくないだろう。
そういったことも相まって、店屋を後に、遊園地内を移動しているだけでも、周りからの視線を強く感じてしまうのだ。
気まずいというのは確かだが、女の子と恋人らしい経験をしたことのない良樹からしたら、内心嬉しかったりする。
自分が普段から見ているアニメと似たシチュエーションを今、この現実世界で経験でき、興奮していたのだ。
二次元に登場する主人公とヒロインがくっ付いて歩いているようなアニメのワンシーンを思い出す。
物語の主人公もこんな気持ちなのだろうか。
そんなことをモヤモヤと妄想を膨らませていると。
ナギからの体の温もりも感じ、香水の匂いも程よく漂い、良樹の鼻孔が擽られるのである。
非現実的な日々を送れているような高揚感にも浸れてくる。
こういうのも悪くはないかも。
そう思ってしまうほどだった。
もしも、三人の内、ナギを選んだ場合、恋人のようなイチャイチャとしたスキンシップを普段から積極的にしてくれるかもしれない。
毎日違うメイド服やアニメキャラのコスプレをしてくれたりもする可能性だってある。
ナギは良樹同様に、アニメや漫画などの二次元作品が好きな傾向にあるのだ。
恋人にするなら、ナギしかいないと思った。
胸の膨らみを考えれば、確実に
そうなってくると、
二人と比べると、どっちつかずの感じに思えてくる。
恋人にするなら、趣味で決めるか、爆乳で決めるか。その二種類の項目からになるだろう。
「良樹?」
刹那、ナギから問われる。
「私、アレに乗りたいんだけど」
「アレとは?」
「観覧車だけど。あっちの方にあるじゃん」
ナギは
「観覧車か。それもいいね。でも、待ち時間って大丈夫そう?」
「多分、問題はないと思うよ。ほら、こっから見る限り、空いてそうだし。そうと決まったら、急ご!」
ナギから腕を引っ張られ、強引にも観覧車エリアへと駆け足で向かって行くことになった。
観覧車は今の時間帯、奇跡的に待ち人が少なかった。
パンフレットを見る限り、この遊園地の観覧車は一周あたり二〇分らしい。
良樹はスマホ画面を見、時間を確認する。
ナギと二人っきりで遊べるのは、丁度二〇分程度であり、これが本日最後のアトラクションになるだろう。
「では、次のカップルのお客様はこちらのゴンドラへ」
遊園地スタッフの丁寧な呼びかけもあり、すんなりと二人は観覧車のゴンドラの中へ移動し、隣同士で長椅子に腰かける。
扉が閉まったと同時に、ゴンドラが弱時計回りに動き出す。
「さっき、カップルって間違えられたね」
「ま、まあ、そうだね」
「良樹は嬉しい?」
「ま、まあ、どうだろうね」
良樹は気恥ずかしく、遠まわしに違うといったニュアンスで返答していた。
若干素直になれないところがあるのだ。
そんなやり取りをしていると、次第に地面から浮き上がっていき、みるみる内に景色が変わっていく。
「結構、上にあがって来たね!」
「そうだな」
「ねえ、ここからだと、遠くの方がハッキリと見えるね。街中の方とかも!」
ナギはテンションを上げていた。
そんな彼女の姿を見ていると、良樹も嬉しくなってくる。
恋人といえども、やはり、一緒にいて楽しい方がいいと思う。
爆乳を持つ由梨もいいのだが、女の子はおっぱいの大きさだけでは決まらないと。その事を今、ゴンドラの窓から外の景色を見ているナギの横顔を見、良樹は思っていた。
「……ねえ、えっとさ、良樹ってさ、私の事さ、どう思ってる感じ?」
「どうって……まあ、何だろうな……」
急に真面目な話題をふられ、良樹は困惑した。
女の子と恋愛的に二人っきりの密室空間で、時間を共にするのは緊張する。
意識すると、なおさら、体が熱くなっていくようだった。
「私、本気だから! だから、良樹の本当の気持ちを知りたいの!」
少し口調が強かった。
本当の本気なのか?
「……でも、どうして、俺の事をそんなに」
「だって、今まで出会ってきた中で、一番話しやすかったの」
「そういう男性は他にもいるんじゃないかな?」
良樹はナギがいる左側をチラッと見て言う。
「でもねッ」
ナギは突然、良樹の手を触ってきた。
「他の男性もいるんだけど、私の趣味と同じ異性の人ってなかなかいないから。それに、この前のバイトの時も、女装してでも頑張って接客してくれていたし。どんなことでも頑張る人は好きというか、まあ、そんな感じだから」
女装か……。
変なことを思い出してしまった。
アレは、もう自分でも忘れたいと思うほどの黒歴史だ。
「それに、あなたに触られてから、ちょっと意識するようになったの……」
「え……」
おっぱいを触られてから意識するようになったと、呟くように言い、ナギはさらに距離を詰め、互いの腕と腕を接触させてくる。
「私、良樹とならいいんだけど」
「待って、それはちょっと、ここでは」
「でも、誰も見てないよ?」
「見ては……」
確かに誰も見ていないのだ。
現状、二人だけの関係になっても問題はないだろう。
まさか、ナギはそういうことを想定した上で、最後に観覧車を選んだのか?
ナギは瞳を潤ませている。
良樹を求めているようだ。
逃げられる状況でもなく、今は受け入れた方がいいのだろうか。
ナギの事は好きかもしれない。
そんな思いが自分の中にもある。
ナギと正式に付き合うことになれば、同じ趣味を共有し、楽しい日々を過ごせるに違いない。
「……」
良樹は唾を呑み、現状を受け入れる覚悟を決めるのだった。
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