第2話 俺の瞳には爆乳が映っている!

 高橋良樹たかはし/よしきの前には、おっぱいがあった。


 ブラジャーという下着に隠れてはいるものの、その谷間が良樹の瞳には力強く映っていたのだ。


 まさか、学校の図書館という場所で、美少女のあられもない姿を目撃する事になるなんて想定外だった。


「ねえ、先輩って、そういうの好きなんです?」


 背後から後輩――宮崎五華みやざき/いつかの声が軽く響いた。


 ブラジャーからでもわかるほどの爆乳に気を取られ、五華への反応が遅れてしまっていたのだ。


 そもそも、おっぱいが嫌いな男性なんていない。

 魅了されてしまうのはしょうがないとして。

 まさか、こんな事態に囲われる人生になるとか、とんでもないと思う。


 背後から後輩の胸の膨らみが制服越しに伝わってきているのだ。

 今まさに心が揺れ動いている状況だった。


 魅力的なモノが背に接触しているのに、自身の興奮を押し殺すのは不可能なのだ。

 冷静さを保とうと思っても、それは難しかった。




「ちょっとッ、外に出てくれないッ!」


 図書館内にいた、下着姿の彼女から怒鳴られる。


 藤井由梨ふじい/ゆりは本気で怒っているよりかは、恥ずかしく頬を真っ赤に染めながら、声を荒らげている感じだった。


 良樹は現状を把握したのち、背後にいる五華と共に、図書館という空間から立ち去るのだった。






 良樹は扉を閉め、部活棟二階――階段近くの壁に背をつけ、胸の鼓動を抑えるように深呼吸をした。


 未だに、心臓の鼓動が収まる気配などなかった。

 今は冷静になるべきだと思う。


 そう思い、ゆっくりと深呼吸をしている間に、気が楽になってくるのだ。


 それにしても、デカかったな……。


 今、脳内で再生するように思い出しても、デカいというのが、容易に想像ができる。

 それほどに印象に残るほどの大きさだった。


 制服越しでも大きいというイメージがあったが、あれほどまでとは衝撃的だ。


 また、ブラジャー姿の彼女の姿が脳内再生されてしまう。


「先輩? もしかして、さっきの妄想をしてるんですか?」

「い、いや、そんなことはないから」


 左隣にいる五華に対し、良樹は首を横に動かして誤魔化したのだ。


 本当は妄想していた。

 だがしかし、こんな生意気な後輩に対し、さらなる弱みを見せることは出来ないのだ。


 この後輩には弱みというアドバンテージを与えてはならない。

 そんな思いで、全力で感情を隠す事にしたのである。




「じゃあ、先輩は大きいのと小さいの。どっちがいいんですか?」

「それは……」


 良樹は言葉を濁すように言い。唇を軽く噛みしめた。


「……先輩?」


 妙な間があったことで、左隣にいた五華から疑われていた。


「え?」

「なんか、視線を感じるんですけど」


 後輩から言われてしまっていた。


 良樹は自然と、五華の胸をまじまじと見ていたようだ。


 脳内に残っている爆乳と、目先にある後輩の胸を見比べていたらしい。


「やっぱ、大きい派ですよね?」

「そんなことは……」

「でも、そういう風にしか考えられないですけどね。先輩の視線的に」


 五華から的確にかつ、心を見透かされるような感じにツッコまれてしまっていた。


「変態ですね、先輩って」

「だ、断じて違う。変態ではないからッ」

「本当に?」


 五華からジト目で見られている。


 後輩には、すでにスカートの中のパンツを見たという有利な情報を与えてしまっているのだ。


 アレはわざとではないにしろ、世間的には変態行為だろう。


 これ以上、発言しても空回りしかしないような気がした。


「まあ、変態なのは分かりました」

「いや、それは」

「そもそも、私のこともエロい目で見ていたんですよね? それと昨日の件ですけど、早く返答を欲しいんですけど」

「それは、もう決まってるから」

「じゃあ、言ってください」


 五華は良樹の正面へ移動してきて、彼女から問われる。


 そんな中、図書館の扉が開かれたのだ。

 そこには普段通りの恰好をした由梨の姿があった。






「では、これから少し話したいんですけど。いいですよね?」


 三人は図書館内にいた。


 良樹は面接を受ける受験生のように、二人と向き合うようにテーブルを挟み、座る羽目になっていたのだ。


「さっきの件ですけど。どういう風にけじめをつけてくれるのかな? 話によれば、この子の下着も見たんですよね?」

「そうですね……でも、それは誤解で」


 良樹は説明するように言葉を発しようと思った。


 だが、しかし――


「けど、悪いことをしたという認識はあるんですか?」

「……はい」


 良樹は力なく返答した。

 怒っている由梨に対し、反論できないと、彼女の瞳を見て、察したからだ。


「それでは、責任を取ってくれますよね?」

「はい」


 良樹は由梨に対して頷いた。


 質問攻めにされている良樹の存在を、涼しい顔つきで五華はニヤニヤとした視線で眺めていた。


 どうにかして、この状況を穏便に済ませたい。

 そんな一心で良樹は口を開いたのだ。




「えっと、で、でも、なんで藤井さんは下着姿だったの?」

「それはね……少しブラジャーの位置がおかしくなってたから直そうとして。良樹君もまだ来ないと思っていたから」

「そうか……だとしたら、藤井さんにも落ち度があると思うよ。そもそも、部活棟にも着替えする場所があるわけだし」


 良樹は一応、伝えたのである。


「そんな発言をするってことは、本当は謝罪する気はないってこと?」


 五華から横やりを入れられてしまっていた。


「え、違うよ。ただ、俺だけがおかしいわけじゃないって」

「じゃあ、藤井先輩の方がおかしいって事を言いたいんです?」

「そうじゃなくて」


 また、良樹の方が確実に不利になったような気がする。


 心がキュッと閉まる。


 そもそも、藤井由梨の事は嫌いじゃない。

 むしろ、好きな人だった。

 これ以上、彼女とのやり取りで、ややこしくさせたくはなかった。

 だから良樹の方から折れることにしたのだ。


「わかった。謝罪の件を込めて、今日は二人ともどこかのお店に連れて行くから」

「先輩の奢りですよね? ね?」

「え? まあ、そうだな」


 その予定だった。


 本当は五華だけなのだが、今回は色々と諦めるしかないから二人に奢るつもりだ。


 二人の女の子と言え、そこまで大きな出費にはならないだろう。


 そんな想いを抱き、今日の放課後の予定を、朝から図書室内で話し合うのだった。

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