第21話 俺の意思はもう揺ぎ無いと思う…

 高橋良樹たかはし/よしきは由梨の事について、月曜の朝から考え込んでいた。


 由梨に関しては、入学当初から気になっていたのは事実だ。

 だからこそ、今日の告白は成功させたいと思っている。


 今日学校に登校し、教室で普段通りの生活が始まった頃合いから。自身の席に座る良樹の視界には、席に座って友人らと会話している由梨の姿が映っていた。


 普通に友人同士でやり取りをしている彼女は、他の子と比べて可愛らしく思える。


 確かに、おっぱいがデカいというのも魅力の一つだけど、それ以上に、普段の人柄にひかれているのかもしれない。


 いつも同じ空間で生活しているわけだが、自分からは積極的には話しかけられずにいた。

 やはり、土曜日の夕暮れ時、試着室で彼女のブラジャーの先を見てしまったことが大きな原因だろう。


 由梨に視線を向けても、彼女からも視線を不自然に逸らされてしまう。

 ぎくしゃくした関係性は、この前から変わっていないようだ。


 だが、彩芽が昨日、協力すると言い、何とか仲介役として裏の方で立ち回っているに違いない。


 それにしても、彩芽の方から連絡がないな……。


 そう思っていた時、スマホに連絡が入る。


 中野彩芽なかの/あやめ曰く、由梨に告白するタイミングは、今日の放課後にしてほしいとの事だった。


 一応、由梨の方にも、彩芽から連絡がいっていると思われる。


 どうしても告白を成功させたい。

 そんな思いを抱いたまま、朝のHRが始まるまで、一人で過ごすのだった。






 朝のHRが終わると、一時限目の授業になる。


 授業中は静かであり、面倒なところを学んでいる時期だからこそ、時間の流れが遅く感じるのだ。


 普段と変わらない雰囲気があるのはいいことだけど、面倒な授業は早く終わってほしいと思う。


 真面目にやるか……。


 藤井由梨ふじい/ゆりと同じクラスであり、放課後までは何事にも真剣に取り組もうと思った。


 良樹は普段通り、机に広げられたノートに対し、黒板に書かれた文字をシャープペンで書き込んでいく。


 しかし、静かな空間に対し、気難しい空気感が漂っていると、余計に色々なことを思考してしまう。


「……」


 でも、どういう風に告白するかだけど、どうすればいいのだろうか。


 授業中なのに、空想の中に思考が閉じこもってしまう。


 一応、考えはあった。

 昨日の内に、告白する流れを決めていたからだ。

 だが、普通に告白するだけでいいのかと、今、改めて静かな授業時間中に考え込んでしまう。


 ストレートに告白するというのが、事前に考えていた事。

 そもそも、今まで告白した経験もなく、どういう立ち振る舞いが正解なのだろうか。


 告白というのは想いを伝える事であり、あまり深く考えない方がいいのかもしれない。


 考え込めば考え込むほどに、緊張が加速していくからだ。


 複雑な伝え方よりも、すんなりと伝えた方がいいと、良樹は自分の中で勇気づけるように、シャープペンを握り締めるのだった。






 元々、由梨の事を知ったのは、入学当初。

 実際に会話したのは、一年生の頃の学園祭が最初だったはずだ。


 その時から由梨に知って貰えていたかは不明だが、良樹の心には学園祭の頃の記憶が残っていた。


 学園祭開催期間中、ずっと彼女と一緒にいたわけではなく、準備する際にたまたま関わる機会があった。

 関わっていた正確な時間は定かではないが、おおよそ、一〇分くらいだったはずだ。


 由梨と一緒に準備をし始めたから比較的すぐに、彼女は別の友人に誘われ、どこかに行ってしまったのである。

 短い時間だったが、彼女の人柄が分かり、それでも楽しかった。


 元々、見た目からして何となく気になっていたのだが、直接会話して、より一層関心を持つようになったのだ。


 由梨は多くの異性から告白されることがある。

 だから、良樹は今まで遠くから彼女を見るだけの生活をしていた。


 今年になってから、同じクラスになり、図書委員会として朝や放課後の三〇分ほど、スケジュールによっては一緒になることが多かった。


 多分だけど、昔よりはある程度の信頼関係もある。


 この前の土曜日だって、積極的に彼女から寄り添われたことだってあるのだ。

 告白は成功するはずだと思う。


 それに、彩芽から準備してもらったチャンス。


 後悔しないようにと――


 絶対に成功させたいと強く、心で念じるのだった。






 今まさに彼女に告白する時である。


「ねえ、別のクラスの彩芽さんから聞いて、ここまで来たんだけど。良樹君から話があるって……」


 由梨は今にも消えそうな声で言う。


 彼女の脳裏には、この前の試着室での件がよぎっているのだろう。


「あの時は、気にしていないというか。他人への想いの伝え方は色々あると思うから」

「……でも、ごめんね、あんなエッチな姿を見せて」

「いいよ」


 本当は嬉しかった。


 あの件で、由梨の事を嫌いになることはない。

 むしろ、彼女のおっぱいを直視できて、考えれば考えるほどに今でも興奮してくる。


 制服の中には、あんなにもデカいモノが隠れていると思うと、余計ムラムラしてくるのだ。


 ヤバい……由梨さんの事を意識しすぎて、緊張してきたんだが……。




 現在、校舎の屋上。

 誰もいないはずなのに、二人っきりと思うと、心が震え始める。

 だが、ここで言わないといけない。


 そう勇気づけるように念じ、良樹は男らしく彼女の方へ顔を向け。真正面から向き合い、告白の言葉を口にしたのだ。


 少しの間があったが、由梨は目を丸くしたのち。彼女も、良樹の言葉を理解した後で――




「本当に私でいいの? こんなにもエッチな人だけど」

「いいよ。問題ないっていうか。俺は好きというか」

「本当に?」

「ああ」


 良樹は力強く答えた。


 由梨も嬉しそうに頬を紅潮させていたのだ。


 そして良樹は思う。

 あとの二人にも、何かしらの形で断りを入れないと――


 良樹のやるべき事は、由梨に想いを伝えるだけではなく事後処理も色々とある。


 今までモテた事のない自分が、美少女らを振るというのも心苦しかった。

 だが、これは逆に言えば、浮気しないという絶対的な意思表示になるだろう。


 一度決めた子から心を揺れ動かさないためにも、大切な行為だ。




 良樹は向き合っている由梨に対し、手を差し伸べた。それに応じるように、彼女も手を軽く触ってくれた。

 二人はそのまま屋上から立ち去ることになったのだ。

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