第23話 俺が蒔いた責任という種

 高橋良樹たかはし/よしきは彼女らを呼び出すことにした。

 それから数分後、良樹と由梨がいるファミレスにやって来た。


 彼女らは店内にいる二人の存在に気づくなり、テーブルの方に近づいてくる。


 その二人は、テーブル近くのソファに座った。


 五華は良樹の隣に、ナギは由梨の隣に腰を下ろしたのだ。


 今から重要な事を話す事になっている。

 だが、良樹の心の中では焦りが生じていた。


 やはり、緊張する。


 ただ、事の経緯を話すだけなのに。

 あらかじめ、一人の子に選ぶことが、四人の中で交わされていたが、彼女らを前にすると緊張が加速するのだ。


 良樹は深呼吸をして、グッと自身を勇気づけることにした。






「話したいことがあるんですよね?」


 まず初めに、ナギから問いかけられる。


「ああ、そのために二人を呼んだんだけどな」

「誰にするか決まってるんですか?」


 隣にいる五華から言われた。


「決まっているからさ。だから、これから、その件について話そうと思って」


 良樹は隣や正面にいる女の子らを確認するように様子を伺う。


 緊迫した空間の中――


「俺、由梨さんと付き合うことにしたから。それについて話すつもりだったんだ」


 良樹は言い切った。


 その発言を口にしてしまった以上、後戻りはできないと思う。




「由梨と付き合うことにしたの? 私とは?」


 ナギは物凄く驚いた顔を見せている。


「私にあんなことをしておいて。この子を選んだの?」

「ごめん」

「あなたは、無責任ですね」

「それはそうかっもしれないけど……一人に決めるって約束だったから」

「だとしても、私を指しおいて……この子を選ぶなんて」


 ナギは、隣にいる由梨を横目で見やっていた。


「私はまだ、納得がいかないですね」

「え? でも、誰を選んでもいいって、そういう約束だったはずじゃ?」

「そうだけど。事後報告ってことですよね?」

「そ、そうなるね」

「それは話が違いますから」

「え、でも……」

「でも、とかじゃなくて!」


 ナギは思いっきり怒っていた。


 確かに、ナギとは観覧車の中でキスをした。

今でも彼女の感覚が口元には残っているが、どうしても爆乳には目がなかった。

 だからこそ、一緒に過ごすなら由梨の方がいいと自分の中で結論付けたのだ。


 今さら、それを変えることは出来ない。

 そんなことをしたら、由梨に嫌われてしまう。






「良樹先輩って、やっぱり、おっぱい目的なんですよね?」


 隣の席に座っている後輩の宮崎五華みやざき/いつかから、確信を付かれた言葉を投げかけられていた。


「ち、違うけど」


 良樹は五華の方から視線を逸らす。


「でも、それだけで付き合う子を選ぶのはよくないと思いますけどね」


 五華から睨まれていた。


 この前の休日。五華とは二人っきりで過ごせなかった。


 その不満も含めた視線を今、良樹に向けているのだろう。


 それに関しては本当に申し訳なかったと思っている。


「私、良樹先輩からまだ責任をとって貰ってないですから! だから、藤井先輩と付き合うことは受け入れられないから!」


 五華から必死さを感じた。




「私、全然認めてないので、もう一回、考え直してくれませんか?」

「私からも」


 五華に続くように、ナギからも言われた。


 やっと念願の恋人ができたと思ったのだが、呼び出した彼女らからの不評の嵐が収まることはなかった。


「確認だけど、一人を選ぶって、四人が集まってから話し合う流れで想定していたのか?」

「そうです!」

「私はそう思ってましたけど」


 五華とナギからは、当たり前ですからといわれる始末。


「由梨さんは、どう考えていたの?」


 念のため、良樹は彼女にも聞いておくことにした。


「私はどちらでもよかったと思っていたけど。でも、決まったことだから、これでいいんじゃないかな?」


 終わったことだから気にしなくてもいいのではといった、楽観的な表情を見せている。


「あなたからしたら、余裕があるから言えるかもしれないですけど……私、まさか、こうなるとは思ってもみなかったわ」

「良樹先輩は最低ですね!」


 現状、二人から恨まれている。


 アレ……もしかして、俺の勘違いだった?

 告白してから二人を振るっていうのは、四人で集まってから告白し、それから振るという流れだったのか?


 自身の汚点だったと改めて思い、絶望した。


 後の二人とは友達という間柄で話に決着をつけるつもりでいたのだが、ただ嫌悪感を抱かれるだけになった。




「だったら、今からもう一度決め直すっていうのは?」

「はい、そうしてください!」

「私も、その方がすっきりするので」


 二人の彼女らからまじまじと見られ、期待されている。


 しょうがない。

 もう一度決め直すしかないかと思い、ため息をはいた。


 だが、ただ嫌われるだけの展開にならなくてよかったと思う。


 一番悪い方向性で終わりを迎える前に、ギリギリ耐えた感じがする。




「えー、でも、私とは付き合うって。良樹君、あんなに期待させていたのに」

「そうなんだけど」

「どっちなの?」


 視界に映るテーブルには、藤井由梨ふじい/ゆりの爆乳がのっている。

 そのデカさに唾を呑み。困惑していた。


 このまま由梨と付き合い、二人に嫌われるか。

 振り出しに戻し、由梨との関係性が悪化させるか。

 究極の二択だった。


 爆乳も捨てがたいし。

 二人の女の子から嫌われるのも辛い。


「振り出しに戻すから……」


 勇気を持って言い切った。


「そう来なくちゃね」

「良樹先輩なら、そういう判断を下すと思ってました」

「良樹君って、そんなに優柔不断だったの? 他の子の圧力に負けて考えを変えるなんて」


 由梨からの評判は最悪だった。

 そして、彼女から睨まれてしまったのだ。


 爆乳は捨てがたかったが、どうしても後輩を敵に回したくなかった。

 後輩とは普段から学校で会う上に、彼女に弱みを見せると何をされるかわからないからだ。


 自分はなんてダメな人なんだと改めて思う。


 付き合うと約束を交わしたのに、周りの子に流され、意見を変えるなんて……。


 そもそも、物事の発端である責任を取ることになったのも、すべて自分の不注意によるものだった。


 自分が蒔いた種は、今後もまとわりついてくるのだろう。


 良樹は真剣に、今後の人生について考えようと思った。

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