第7話 可愛ければ、おっぱいを上回るのか…?
「では、さっそく本題に入りましょうか」
「はい。よ、よろしくお願いします」
バッグルーム内。メイド喫茶店の休憩室であり、
「もしかして、私のメイド服が気になってるの?」
「ごめん。ガン見してたかな?」
「うん。でも、私は別にいいよ。気にしてないから」
彼女はあっさりと受け流す。
不満そうな顔は見せてはいなかった。
彼女は物凄く可愛らしい外見をしていて、メイド服も似合っている。見ない方が逆に失礼に感じるほどであった。
「一先ず、こっちに来てくださいね」
メイドな彼女から導かれ、長テーブルが設置された場所へと向かうことになった。
メイド服姿の彼女の後ろ姿だけでも、可愛らしさがハッキリと伝わってくる。
それほどに、メイド喫茶で働いている子としてはレベルが高かったのだ。
「そっちに座ってね」
「はい」
良樹はテーブルを前にして、隣同士で座る。
こんなにも魅力的な子と一緒の空間にいられるだけでも嬉しいのに隣同士なんて、テンションが極限状態まで上がってしまいそうだった。
しかも二人っきり。
変なことにならないようにしないとな……。
良樹は男性だ。
今のところはメイド服に身を包み、女性らしく振舞わっている。が、男性だとバレてしまったら厄介なことになるだろう。
それだけは避けたかった。
「……あれ? 緊張してる?」
「え、い、いいえ……なんていうか。まあ、そ、そうですね……」
「声とか大丈夫かな?」
隣に座っている彼女は覗き込むように、良樹へと体を近づけてくる。
ち、近いって。
な、何をする気なんだ……この子は……。
メイド服越しであっても、その胸の大きさが強調されているのだ。
今まで見たおっぱいの大きさ的には、藤井由梨がデカいと思う。
だが、メイド姿な彼女の可愛らしさで、余計におっぱいが魅力的に良樹の目に映る。
彼女との距離が狭まれば狭まるほどに、彼女の香水の匂いで鼻孔が擽られる。
変な気分になりそうだ……。
「だ、大丈夫だと思います」
「だったらいいんだけど。でも、念のため、これ上げるね。手を出して」
良樹は彼女に言われるがまま、右手を見せた。
すると、彼女から、とあるモノを渡されたのだ。
それは袋に包み込まれた飴玉だった。
「喉を悪くしたらよくないからね。メイドとして働くんだから、そういうところは気を付けないと駄目だからね」
「は、はい……ありがとうございます」
良樹は女声で礼を言う。
「もう少しリラックスね。そこまで堅苦しい話し方をしなくてもいいよ」
彼女は優しかった。
天使のように見えてしまうほどだ。
心の底から、すべてが癒されるようだった。
「自己紹介から――」
隣に座っている彼女は姿勢を整え、良樹の方へ正面を向ける。
彼女は上目遣いになっていた。
故に、良樹は緊張感が刺激され、彼女の色気具合にやられてしまいそうだった。
「私は、ナギって名前で活動していてね。ここで働いて一年ほどになるの」
「一年違い?」
「そうだね。多分、年齢も同じだと思うけど? そうだねよ。私は、店長からそう聞いていたけど?」
「高校二年生ってことかな? 同じ年ってことは?」
「うん、そうだね。二年なら同じだよ」
何とも意外だ。
雰囲気的に落ち着いていて、真面目そうな印象があり、一、二コほど年上だと勝手に思い込んでいた。
「同い年なら、なおさら、ため口でもいいよ。でも、接客の時は駄目だけどね」
「ですよね」
「今は接客中でもないから。リラックスね」
「はい……」
良樹は軽く頬を緩めながら頷いた。
「えっと、あなたの名前は?」
「よし……」
「え?」
「間違いで」
「間違い?」
ナギから首を傾げられる。
誤って普段通りに自分の名前をストレートに口から出してしまいそうになっていた。
良樹なんて言ったら、すぐに男性だとバレるのだ。
「名前は? 言えない感じ?」
「き、きあら……」
良樹は自信無い声で、ナギに伝えたのだ。
「きあら? きあらちゃんって言うの?」
「……はい」
「そうなんだ。アニメキャラみたいな名前だね」
「まあ、よく言われますね」
すぐに脳内に、普段から見ているアニメの女性キャラの名前が思い浮かんでよかったと、内心、安堵していた。
先ほど、よく言われると言ったが、それは嘘だ。
「きあらちゃんね。今からここで働くメイドとして設定というか。そういうことをして貰うんだけどね」
「設定?」
「うん。ここのメイド喫茶店の世界観が異世界なの」
「異世界?」
「そうなのよ。だから、異世界に関連するキャラになりきって接客するのが、このメイド喫茶の掟なの」
「へえ、異世界キャラか」
良樹は自分が知っているアニメの映像を脳内再生した。
異世界と言えば、色々と知識が豊富なのである。
普段からアニメを欠かさず視聴していることが、現在、功を成しているとも言えた。
「自分が好きなアニメを元に設定してもいいし。完璧に真似ない程度ならいいからね」
「でしたら、あのアニメでもいいですかね? 異世界学園とかの」
良樹の得意分野だった。
だからこそ、口の動きが早くなる。
「それ、私も知ってる! きあらちゃんも好きなんだね」
「まあ、普段から視聴してますから。それとグッズや、漫画とか、それ以外も」
「そうなんだ。意外と気が合いそう」
ナギは満面の笑みを浮かべていた。
今まで見てきた女の子の中で一番可愛らしい顔つきだと思う。
「どのキャラが好きなの?」
次第に話が脱線してくる。
「俺は……」
「おれ……?」
「い、いや、私は」
「もしかして」
やばいバレたのか⁉
終わったと、視界に映る彼女の態度を見て、そう察した。
「別にいいよ。女の子であっても一人称が俺でも」
「い、いいのか?」
まだ、バレていない系か?
ホッと胸を撫で下ろす。
が、内心、焦りまくって体が熱くなっていた。
「はッ! ご、ごめん。時間的にもやってほしいことが沢山あるから趣味の話はあとで。今は、メイドとしての方向性を決めないとね。きあらちゃんは、どういう設定にする?」
「私は……」
ナギはとある一枚のメモ用紙的な白紙をテーブル上に置く。
それから、三〇分ほど共に考えた。
結果として、決まったのだ。
良樹がメイド喫茶で働く時の名前が――
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