第10話 なぜか、俺は彼女らに囲まれているのだが…
休日になっていた。
そして本日、元々の約束通りに、後輩とは遊園地にやってきていた。
今日を乗り越えれば、五華との責任を果たせるのだ。
何が何でも全力で対応していくしかないだろう。
昨日の夜。バイトで稼いだ分のお金を計算し、今日使う範囲で計画を立ててきていた。
メイド喫茶という場所で、女装をしてまでも稼いだお金なのだ。
無駄なことにお金を使いたくないのだ。
脳内で予定を組み立てつつ、良樹は遊園地までの道を歩いている最中。
五華とは地元の駅で合流を果たし、そこから一〇コ先へと到着していた。
そして今、遊園地の最寄り駅から徒歩で横に並んで歩いているのだ。
「本当に二人っきりなんですね!」
「そうだけど。藤井さんには何も伝えていないから、そこは気にしなくてもいいから」
「はい。なら、大丈夫です」
五華は嬉しそうだった。
学校にいる時は意地悪な態度を見せたり、ちょっとした悪戯をしてくるのだが、今日はそういう言動などの素振りはなかった。
ごく普通に、そして純粋な笑みを見せてくれている。
自然体な態度であり、好感を持てた。
「良樹先輩って、好きな人っていないんですよね?」
「その話か……」
以前も問われた質問である。
「いないなら、今日はデートしてる感じに関わりたいんですけど」
「え……」
「やっぱり、いるんですか?」
「……いないさ」
実のところ藤井由梨に対し、好意を抱いているが、そういう自分の感情をこのタイミングで晒したくなかった。
恥ずかしいという思いもあるのだが、五華に伝えてしまうと先回りされた作戦を打たれてしまいそうな予感があった。
「だったら、手を繋ぐことくらいはしてくれますよね?」
隣にいる後輩から手を指し伸ばされたのだ。
差し出された手を握るというのも悪くはないと思う。
手を繋がないと逆にいると思われそうな気がする。
本格的に付き合っているわけでもなく、手を繋いだくらいで恋人という関係性にはならないはずだ。
それに今日は、周りには知っている人がいないのである。
今は自然と手を繋いだ方がいいのかもしれない。
五華の方はどう思っているかはわからない。
手を繋ぎたいということは、好意を抱いているという裏返しなのだろうか?
いや、待てよ……五華の事だ。
何かあるかもしれない。
今まで弄られてきたことも相まって、裏を疑ってしまう。
「どうしたんです? 緊張してるんですか?」
「いや、そんなことないから」
五華からニヤッとした笑みを浮かべられ、少々煽られている感じだった。
「できるから、そういうことくらい!」
良樹は、右にいる五華の手を軽く触るように握った。
柔らかかった。
昨日も触ったのだが、じっくりと触れた事で、その柔らかさと温もりをさらに具体的に感じとることができていたのだ。
「ボーッとしてますけど? 私の手をまじまじと触りたかったんですか?」
「そ、そんなわけないだろ……」
変に考えては駄目だ。
五華のペースに持っていかれたら、色々と面倒になる。
今は冷静を保つのが最優先だろう。
良樹は自分の心に暗示をかけるように語り掛けていたのだ。
数分ほど歩いて、目的地となる遊園地に到着する。
入口のところで、数日前に幼馴染から貰ったチケットを見せ、入場することになったのだ。
遊園地という場所には殆ど来たことはないが、普段見る事のない光景がそこに広がっていて、新鮮さを感じることができた。
「良樹先輩は、どこから行きます?」
「だったら昨日、五華が言っていたメリーゴーランドでもいいけど」
「では、早速行きましょう」
「えッ」
急に後輩は走り出した。
手を繋いでいたことで、良樹は一瞬、こけそうになったが、すぐに態勢を整える。
普通に無邪気というか。
学校でも、こういう風に明るく立ち振る舞ってほしいと内心、考えていた。
メリーゴーランドにはまだ数える程度しか人がいなかった。
つい先ほど営業が始まったばかりで、そこまで人がいないのである。
逆に考えれば、多くの人が来場するまでの間は、自由にどんなアトラクションでも乗れるということになるのだ。
五華と共にメリーゴーランドで遊ぶことになったわけだが、一人専用であり、後輩の後ろの馬にまたぐ。
全員が馬に乗った状態で、三分ほど逆時計回りに回るのだ。
周りの大半が小学生くらいの子ばかりで、恥ずかしい気持ちもある。が、初めて、メリーゴーランドというものに乗り、意外と楽しめている自分がいたことに驚きだった。
責任を取るという名目で遊園地に訪れ、良樹はこの環境に溶けこめていたのだ。
「他にも色々ありますし、次はどこにします? 私、もっと行きたいところがあるんですけど」
「五華はどこかがいいか決まってる?」
「私は、良樹先輩が連れて行った場所であればいいですから」
「そうか」
自分の方に全振りされている。
どこにしようかと悩んでいると、殺気を感じたのだ。
その視線は、五華のモノではなかった。
え……?
何か怪しいと思い、その視線を明らかにするべく、そちらへと顔を向けた。
遠くの方に佇んでいたのは――
藤井さん……?
今いるところからではハッキリとはわからないが、瞼を擦り、何度か確認するように見やる。
やっぱり、藤井さんにしか見えないんだけど……。
その爆乳具合からして、
でも、どうして彼女が……?
次第に由梨が近づいてくる。
そして、別の方からも不思議な視線を感じ、そちらの方にも視線を向けた。
ナギさん……?
昨日、メイド喫茶で一緒働いていた女の子である。
これはどういうことなんだ⁉
「ねえ、なんで二人っきりでいるの?」
「ねえ、私と付き合うって言っていたのに、これはどういうこと?」
藤井由梨と、メイドのナギ。
彼女らが、五華と手を繋いでいる良樹のところまで到達すると、急に問い詰めてきたのだ。
「良樹先輩? これはどういうこと?」
先ほどまで明るかった五華の表情には闇があった。
睨まれているのだ。
これ、どうなってんだ⁉
意味が分からず、良樹はこの現状を前に、どうにかなってしまいそうだった。
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