第15話 ――だから、私は先輩と一緒に遊びたいんです!

「次は私の番ですからね!」


 外の明るさを感じ始めている最中、後輩の宮崎五華みやざき/いつかが話しかけてきた。


 ついさっき藤井由梨ふじい/ゆりと共にお化け屋敷を出、現在は遊園地内のベンチがある広場にて、ナギとも合流を果たしていたのだ。


「じゃあ、行こうか」

「はい。よろしくお願いします!」


 五華は良樹の横に寄り添うように近づいてきた。

 彼女の胸が少しだけ当たっていたらしいが、先ほどの爆乳が凄まじすぎて、良樹は気にしていなかった。




「その子の次が私ってことね」

「そうなるね。また、一時間くらいしたら交代すると思うから、ナギはそれまで別のところで過ごしていてくれないか?」

「そうするつもりよ。別に、あなた達の事を監視していなくても何ら問題ないと思うから」


 ナギは自ら持っている実力だけで、他の二人を圧倒しようとしている。

 彼女は美少女の中の美少女なのだ。

 普段からメイド喫茶で働いていることもあって、私服の容姿も綺麗に整っていた。


「まあ、楽しんできなよ」


 そう言い残し、現状に不満を見せる素振りもなく、ナギはあっさりとした立ち振る舞いで背を向け、余裕のある口調でその場所から立ち去って行く。


 ナギは温厚なイメージがあるが、意外と芯のある子だと思った。




「私もそろそろ、別のところに行くから。また、一時間後にね」

「うん、またね」


 高橋良樹たかはし/よしきは由梨にも手を振って別れることにした。


 現在、遊園地の広場に五華と共にいる。


 五華とこうして一緒にいるのは、今日の午前中と同じだ。

 由梨と五華がやってくる前と同様であり、この前決めていた通りの状態で遊ぶことになる。

 元々、今日は五華とだけ遊ぶ予定だったから、これが本来の形だろう。


「早く移動しないと時間が無くなっちゃいますから」

「そうだな。それで行き先は決まってるのか?」

「まだですけど。良樹先輩が行きたいところで」

「だったら、どうするかな……」


 良樹は、ちょっとだけ考え込む。


「あの人とどこに行ってきたんですか?」

「お化け屋敷かな」

「そういうの得意なんですか?」

「いや、そこまでではないけど。まあ、あの場所はかなり怖かったけどね」

「やっぱり、そうですよね」

「今から五華も行く?」

「いいですから。私は」


 以前もジェットコースターなどの絶叫系が好きではないと聞いていたし、五華は怖がりなのかもしれない。


 少しだけニヤッとしてしまった。


「なんですか、その顔は?」

「いや、なんでもないよ」


 良樹は彼女と共に、別の場所へ移動しようと一歩前に歩き出そうとする。

 が、刹那――


 あれ?

 そう言えば……。


 少しだけ気になることがあった。


 それは、あのお化け屋敷での出来事だ。


 由梨の手が冷たかった事。

 彼女は元から手が冷たい人だったのだろうか。


 それが気になる。

 考えてみれば、背後から彼女に抱きつかれている状態で、簡単に手を握ることができるのだろうか。


 良樹は手の平を見る。

 今も少しだけ手が冷たかった。

 その違和感が手に残っているようだった。




「どうかしたんですか?」

「いや、なんでもないよ……」


 そう言いつつも、お化け屋敷がある方角を見やった。

 そのついでに由梨の姿を探そうとしたのだが、彼女はすでに別の場所に移動しているようで、その姿はなくなっていた。


 まあ、問題ないよな……。


 何かの気のせいだと思い、良樹は五華と共に遊園地内を歩き始めるのだった。






「良樹先輩が決められないなら、私が決めますね」


 そう言って、少し歩いた先で――


「私、これで遊びたいです!」


 五華が一つのアトラクションを指さしていた。

 アトラクションの中でもかなり大人しめな乗り物――コーヒーカップだった。


「それでいいのか?」

「私は簡単に乗れる方が好きなので」


 最初に乗ったメリーゴーランドと大体似た傾向のあるアトラクションだ。


「次、乗車する方はこちらの列にお並びください」


 遊園地のスタッフからアナウンスが入る。

 良樹と五華は他の一般客がいる列に並び、五分ほど待つことにした。






 遊園地スタッフのアナウンスと共に、二人は隣同士でコーヒーカップの中に座る。

 同じ時間帯から列に並んでいた人らが全員、座り準備が整うと、その数分後にコーヒーカップが動き始めるのだ。


 良樹からしたら、楽しいよりも気恥ずかしい感情の方が勝っていた。


 コーヒーカップは、良樹の中で子供向けだと思っていたからである。


 辺りを見渡せば、コーヒーカップに乗っている人らは、子供や、その親が多い印象。


 なおさら気まずいのだ。




「良樹先輩、コーヒーカップって楽しいですよね?」

「……まあ、そうだな」


 五華は楽しめているようだが、変な空気にさせないために話を合わせておくことにした。


 コーヒーカップはゆっくりと回りながら、移動している。

 激しい系の乗り物ではないからこそ、二人で会話できる余裕もあったのだ。


「でも、楽しんでいる感じがしないですけど?」

「そんなことはないさ」


 上手く誤魔化す事にした。


「だったら、もう少し笑った方がいいんじゃないですか?」


 良樹は五華に言われるままに顔の口角を上げ、楽しそうな雰囲気を醸し出す。


「五華って、なんでコーヒーカップとかメリーゴーランドが好きなんだ?」

「それは、昔から好きだから」

「そんな理由?」

「そんな理由って、何か酷い言い方ですね」

「ごめん。そうだな、何が好きかは人それぞれだからな」


 良樹は五華の表情を見ながら後付けのような話し方をする。


「そもそも、昔、良樹先輩と遊んだ時も、コーヒーカップだったじゃないですか」

「……え?」


 いきなり何を言い出すんだと思い、後輩の顔をまじまじと見やる。


「覚えていないんですか?」

「何を?」

「昔、一緒に遊んだこと」

「どこで?」

「昔、色々な地区の小学生が集まって遊ぶっていうイベントがあったと思うんですけど」


 昔?

 小学生の頃のイベントって、何だろうと思う。


 思考していると、薄っすらとだけ思い出せることがあった。

 昔、そんなイベントに幼馴染の中野彩芽なかの/あやめと共に参加していたと――




「私、元から良樹先輩の事を知っていたから。だから、一緒の高校にしたの」


 五華からの衝撃発言。

 その事に関しては彼女のやり口がストーカー過ぎて、ドン引きしてしまっていた。


「あの時から、良樹先輩の事をもっと知りたいと思って。だから――」

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