第15話 剣術指導とフクロウの気まぐれ
それからパールは騎士見習いとして騎士団の宿舎に泊まることになった。
女性の騎士も少なからずいるためか、女子寮もしっかりあってそこは安心である。
「ふーっ。今日は疲れちゃったよ~」
簡素な白いベッドに飛び込むなり、パールが疲労困憊といった様子で突っ伏した。
そんな彼女の顔のそばに僕はちょこんと佇む。
「確かに初めての旅で大変だったよね。ここまでお疲れ様」
「えへへ、ありがとうエリオス~」
へにゃっとした笑みを浮かべるパールが、僕の頭を優しくなでてくれる。
「明日から剣術の指南が始まるよ、頑張ろうね」
「うん! ……すぅ~」
返事をするなりパールはそのまま寝息を立てて寝てしまった。
「駄目じゃないか、女の子なのに身体をきれいにしないで寝たら。……しょうがないか」
軽くため息をついた僕は、嘴で毛布を引っ張ってパールにかけてあげる。
完全に寝ついたのを見届けたところで、僕もそばで休息に入った。
翌日、パールは早速騎士団長のブラストさんから剣術の指南を受けることに。
「太刀筋が甘い! もっと相手をよく見て剣を振るうんだ!」
「はい! 師匠!」
互いに木刀をバチバチとぶつけ合う二人を見ていると、僕も昔のことを思い出すよ。
……あれは僕が旅立つ前のことだったなあ、まず剣の師匠がビシバシとしごいてくれたっけ。
あのときはめちゃくちゃキツくて何度も挫けそうになったけど、あの体験があったおかげで僕は最後まで戦い抜くことができたんだ。
あ、そうだ。そろそろパールの防具ができる頃かな。
ふと思い立った僕は、特訓に集中するパールを置いて町の鍛冶屋に飛んでいく。
空から見るとルースシティーの賑わいと大きさがよく分かる、僕の時代からまた立派になったなあ。
そんなことを感慨深く感じた僕は、すぐに鍛冶屋の近くまで来る。
宙を羽ばたきながら足で窓をカツカツ引っかくと、主人のスナフ君が気づいて窓を開けてくれた。
窓から入る僕に、スナフ君がこんなことを問いかける。
「おう、今日は勇者様だけか。パールちゃんはどうした?」
「パールなら今騎士団で剣術の指南を受けてるところ。ていうかその勇者様ってやめてくれるかな? 今の僕はただのフクロウでしかないから、勇者って呼ばれるとむずがゆいんだ」
「そうか、悪い悪い。それじゃあエリオスって呼ばせてもらおうか」
「頼むよ。それで、パールの防具はできてるかい?」
僕が訊ねるとスナフ君は得意気に力こぶをつくって答えた。
「おうよ! パールちゃんのために俺が全力注いで作ったんだ!」
そう言ったスナフ君が差し出したのは、見た感じ鉄でできたシンプルな胸当て一つ。
「これがパールの防具? 胸当てだけじゃ装備として物足りないんじゃ……」
「心配ご無用さ。見た目はただの胸当てかも知れんが、特殊な鉱石をちょびっと混ぜることで鎧として覆われてる部分以外も同等の強度を発揮するんだ!」
「それはすごい! さすがスナフ君!」
僕が素直に褒め称えると、スナフ君は照れ隠しに頭をさすった。
「へへっ、エリオスにそんな素直に誉められたら照れるじゃねえか。お代は昨日頂いたから、そいつをパールちゃんに持っていきな」
「うん! ありがとうスナフ君、お邪魔したね」
胸当てを足でがっしりと掴んだ僕は、そのまま窓から飛び立つ。
騎士団の訓練場に向かう途中、僕はこんな場面を目撃した。
「あれは……」
上空からでも分かる、修道女の装いで牛の角が生えた獣人のお姉さんが柄の悪そうな男数人に絡まれているところが。
「よう、俺たちと遊んでかねえか?」
「牛獣人はそんだけデカい乳だからお盛んなんだろ? ちょっと相手してくれよ」
あいつら、あのお姉さんに不埒なことをしようとしてるな?
彼女も嫌がっているじゃないか。
「いえ、そういうわけには……」
「ああん? 獣人風情が俺たちに逆らおうってのかー?」
「痛い! やめて!!」
男に腕を乱暴に引っ張られるお姉さんの様子に、僕は放っておけなくなる。
乱暴を働いているあの男たちにちょっとお仕置きをしないと。
そう思った僕は掴んでいた胸当てを離して、男の頭上から落とす。
「あたっ!?」
おお、予想以上の硬さだ。頭に落としただけで大の男が気を失ったよ。
「な、何だ!?」
「あいつだ!」
残った男二人に存在が気づかれてしまうも、僕は急降下して攻撃を仕掛けた。
「クエエェ!!」
「痛っ、痛たたた!!」
空を飛びながら僕は男の顔を引っかいてやる。
「この鳥がぁ!!」
おっと、後ろからもう一人が殴りかかろうとしてるな?
「ひっ!?」
柔軟な首で真後ろを向くと、男はビックリして勢いのままにつんのめる。
「クエエエエエ!!」
「ひ、ひいいいい!?」
すごい剣幕で一声鳴いてやると、男たちはそのまま逃げ去っていった。
「ホホロホっ」
「あのっ、もしかして私を助けてくれたのかしら……?」
わざと落とした胸当てを回収したところで牛獣人のお姉さんがお礼をいってくれたけど、僕は何も言わずにそのまま飛び去る。
フクロウの気まぐれってやつさ。
そうして僕は改めてパールのもとに向かうのであった。
訓練場に向かって飛ぶと、パールが一人の騎士と木刀をかち合わせているところだった。
「てやっ! このっ!」
どうやらあれも鍛練の一環らしい。
ちょっと離れたベンチに止まった僕は、一声鳴いてパールを呼んだ。
「ポホーーーウ」
「あっ、エリオスだ! ――ちょっと失礼します」
一言断ったパールがこっちに来るなり、僕と目を合わせる。
「どこ行ってたのエリオス?」
「ごめんね、鍛練に集中してるみたいで声をかけられなかったんだ。それよりこれ、スナフ君からもらってきたよ」
「わーっ、これがわたしの防具!? ありがとう!」
真新しい胸当てを見るなり、パールは目をキラキラと輝かせてそれを装着した。
「すごーい! これ全然重くないよ!?」
「それだけじゃないよ。実はね、かくかくしかじか……」
それからスナフ君に言われたことをそのまま伝えると、パールのテンションは最高潮に。
「本当にすっごい防具なんだね! 嬉しいな~!!」
「スナフ君にとっておきの防具を作ってもらったんだ、鍛練も頑張るようにね」
「うん! ありがとうエリオス、わたしがんばる!!」
気合い満々のパールは再び鍛練に戻っていく。
いやー、僕もパールの力になれてるようで何よりだよ。
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