第7話 二年の成長
パールが勇者の力に目覚めてから二年の歳月が経った。
「てやっ! はあっ!」
屋根に止まる僕の前で、少し成長したパールが木の棒を手に素振りを繰り返している。
真珠色の髪と背が少し伸びたのはもちろんのこと、毎日の筋トレとランニングそれから素振りのかいあって、今では様になった素振りができるようになっていた。
「そこまでっ」
「はーっ、もうクタクタだよ~!」
僕の合図でパールは木の棒を放り出して大の字に寝そべる。
「今日も頑張ってるねパール。日に日に体力がついてるのが見てとれるよ」
「ホントに!? えへへ、やった~」
僕の評価で微笑むパール。
するとそこへ念話で口を挟んできたのは、今はパールの剣であるジークフリートだ。
『エリオス様、もういい加減ワタシをマスターに使わせていただいてもよろしいですよね?』
「うん、待たせたねジークフリート。今のパールならキミを少しは使いこなせると思う」
「それじゃあジークフリートで練習だよ! ――あ」
ジークフリートの柄を握ったところで、パールのお腹からキュルル~と可愛い音が鳴り響く。
「あはは、お腹空いちゃった~」
「そういえばそろそろお昼だもんね。それじゃあまたあとで」
そう告げた僕は、一旦ねぐらの小屋に飛んで戻った。
「基礎的なことは今後も継続としてっと、ここから先どうしよう……」
僕が頭を悩ませるのは、パールへの剣術の教え方だ。
僕が直接教えようにも、フクロウの自分ではいろいろと無理がある。
「誰か剣術を教えてくれる人がいればいいんだけどな……」
よく回るフクロウの首をかしげて考え込んでいると、突然膨大な魔力の気配を感じた。
この方向はパールの家だ!
慌てて飛び出すと、パールがジークフリートを掲げて力を込めているところだった。
「ふおおおおおおおお……!」
『その調子でございますマスター、これならもっと大きな魔力を使っても問題ないでしょう』
これよりももっと大きな魔力だって!?
今でさえ吹き飛ばされそうな熱気が吹き荒れているのに、さらに強い魔力を使わせたら……!
「ちょっと待ったーーー!!」
「ふえっ、エリオス!?」
僕に気づいた途端、パールとジークフリートの魔力がすぅ……と立ち消える。
「聞いたよジークフリート! キミ、パールに過剰な魔力を放たせようとしたでしょ!」
『お言葉ですがエリオス様、今のマスターなら問題ないと判断したのですが』
「たとえパールが大丈夫でも、こんなところでもっと大きな魔力を解放したら周りがメチャクチャになってしまう!」
「え、そうなの!?」
「パールも分かってなかったんだね……」
目を丸くするパールと白々しい態度のジークフリートに、僕はうなだれた。
「だいたい魔力ってのは全力で出せばいいものじゃないの! 相手や周りを見極めて必要な力だけ行使する、それがうまい戦い方ってものだよ」
「へ~、そうなんだー」
「それじゃあ今度は魔力のコントロールを教えようか」
これなら今の僕にでも教えられそうだからね。
「うん! よろしくお願いします、
「うむ、よろしい」
師匠って呼ばれるのも悪い気はしないな。
こうして僕はパールに魔力の使い方を教えることにした。
「まずは自分の胸の中にある魔力の源を感じるんだ。目を閉じて胸に意識を向けてみて」
「こう?」
僕の言う通りにパールが目を閉じながら胸に手をやって集中し始める。
それにしてもパールも大きくなったよね、どこがとは言わないけど。
『エリオス様、何をお考えで?』
「なんでもないよジークフリート」
いかんいかん、純粋無垢なパールをそんな目で見てしまうなんて!
首をブンブン振り乱していると、パールも自分の魔力を感じたのかほんのりと赤いオーラを放ち始める。
「これがわたしの魔力……!」
「次は少しずつその魔力を放出するイメージでやってみて。一気にじゃないからね?」
「はい、師匠。ん~っと」
さらに集中するパールから放たれる魔力が、少しずつ大きさを増していき。
「ほう、ジークフリートなしでもこの魔力。さすがは彼女が認めただけはあるね」
「ん、ジークフリートって女なの?」
僕の呟きにパールが反応するなり、彼女の魔力は霧散してしまう。
「ごめんね、集中を途切れさせちゃって。質問の答えだけど、ジークフリートは剣で本来は無生物だ。だけど内に秘めたその自我は女性寄りみたいなんだよ」
「へ~、それで声も女っぽいんだね」
『そういうことでございます、お二人とも』
「質問には答えたよ、また集中して」
「はい、師匠!」
パールに魔力コントロールの初歩を教えていると、この村の村長さんが通りかかった。
「おやおや、やってるのう」
「あ、村長さん!」
白ひげが穏やかな印象を受ける初老の村長さんに、パールがハキハキとした笑顔を向ける。
「わしも駆け出しの頃はそうやって練習をしとったものじゃ」
「村長さんもですか!?」
「うむ、わしも若い頃は冒険者をやっておったからの」
「そうなんだ~!」
「あのっ、村長さんは冒険者として剣を使ったことってありますか?」
僕が声をかけると、村長さんは白い眉をピクッと動かして反応した。
「もちろんじゃ。若い頃はそれなりに腕利きの剣士として稼いだものじゃ。……今じゃ老いぼれてもう剣など握れんがのう」
「そうですか……」
「もしやそこのフクロウ殿、パールのお嬢ちゃんに剣術の師をつけたいと思うておるのかの?」
細い目を開けた村長さんに見透かされて、僕はぷわっと羽を広げて驚いてしまう。
「よ、よく分かりましたね!?」
「それならわしの弟子を紹介しよう。今はルースシティーで騎士団長をやっておるかのう、若い頃のわしに負けず劣らず腕利きの剣士じゃ」
「いいんですか! ありがとうございます!」
「パールのお嬢ちゃんもそれでいいかの?」
村長さんが今度はパールに顔を向けると、彼女は腕をぐっと構えて返事をした。
「もちろんだよ! わたし、もっともっと強くなりたい!」
「まだ若い嬢ちゃんなのに、大したやる気じゃのう。分かった、わしがあやつに紹介状を書こう」
「「ありがとうございます!」」
あ、今パールと声が重なった。
とにもかくにもパールに剣術を教える師が見つかりそうで良かったよ。
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