第13話 鍛冶屋のドワーフ

 馬車に揺られること半日、僕たちの前に大きな町の外壁が見えてきた。


「次の町だね!」

「間違いない、あれがルースシティーだ」


 パールが口を開くそばで僕は懐かしさに耽っている。


『エリオス様が故郷を出て初めて立ち寄ったのが、このルースシティーでしたからね』

「そうなんだ、ジークフリート」

「だけどずいぶん立派になったなあ。僕が知るルースシティーはもう少し規模が小さかったと思うけど」

『エリオス様が一度お亡くなりになられてから二百年経ちましたからね』


 ジークフリートとも思い出話をしているうち、僕たちを乗せた馬車は町の入り口で止まった。


 入り口の両脇では、鎧に身を包んだ二人の衛兵が槍を交差させている。


「身分を証明するものを見せよ」


「はい、こちらになります」


 フリットさんが慣れた様子で衛兵に身分証明を提示すると、衛兵の目は続いてパールの方に向いた。


「お前もだ」

「えーと、これでいいんだよね?」


 パールが差し出したのは、ウィードタウンの冒険者ギルドで発行してもらった会員証。


「よし、入れ」


 そう告げて槍を下げる衛兵二人。


 どうやら町の中に入るのを許可されたようだ。


 町に入って行商人のフリットさんと別れたところで、僕たちはまず鍛冶屋に向かうことにした。


 パールの防具を作ってもらうためである。


 鍛冶屋に向かう最中も、パールはウィードタウンを超える人並みに夢中だった。


「うわ~! こんなに人がたくさん!! ねえエリオス、あの人頭に猫の耳がついてるよ~?」

「あれは獣人だね。人種にもよるけど獣の身体能力も兼ね備えた、強力な亜人種族なんだ」

「あじん~?」


『ヒューマン種族でない人種族の総称でございます、マスター。獣人の他にもエルフやドワーフなどが比較的メジャーかと』

「へ~。じゃあわたしはヒューマン種族ってこと?」

「そうなるね。ヒューマン種族は多分一番数の多い人種族になるんじゃないかな。僕もそうだったし。……って、パール!?」


 話していたらいつの間にかパールが、通りすがった若い猫獣人に話しかけていた。


「あの~。お兄さんって獣人なんだよね、そのお耳って本物~?」

「ああ、そうさ。俺はニータっていうんだ、よろしくな」

「わたしはパール、よろしくねっ」


 パールと握手をした猫獣人のニータは、続いてこんなことを。


「この猫耳、動かしてみよっか?」


 そう言ったニータが猫耳をピクピク動かしてみせると、パールは感嘆の表情になる。


「わ~すっごーい! 本当に動くんだ~!」

「へへっ。この耳と尻尾は猫獣人のシンボルだからなっ」


 自慢げなニータ背後で、細長い尻尾がゆらゆら揺れていた。


「それよりパールちゃんの肩に止まってるのはフクロウか?」

「うん! わたしのししょ……じゃなかった、ペットのエリオスだよ」

「ホロロッ」


 パールの紹介で僕はあくまでもフクロウとして、鳴き声で返事をする。


「へえー、珍しいペットを連れているんだな! それじゃ、また会おうな~」

「またね~!」


 つかの間の会話をしたところで去っていくニータに、パールは大きく手を振った。


「獣人か~、面白い人たちなんだねっ」

「パールには亜人への差別意識がないみたいでよかったよ」

「さべつ?」


 キョトンとした顔のパールに、僕は亜人種族を取り巻く現実の一部を教える。


「亜人は少数派であるうえヒューマンとは違う面があるから、一部のヒューマンはまだ差別的な意識を持ってるんだ。少なくとも僕が勇者として生きていた時代ころはそうだった」

「差別意識があるとどうなるの?」

「同じ人として見てないから、女子供を捕まえて奴隷にしたり、ひどいと遊びで殺したりすることもあったんだ」

「ひっどーい! そんなのあんまりだよ!」

「パールがそう言ってくれる優しい女の子で僕は誇りに思うよ」

「えへへ、それほどでも~」


 称賛にパールがくねくねしてるところで、僕はこうまとめた。


「とにかく、亜人とはいえ彼らも同じ人種族なんだ。差別で非人道的なことはするべきじゃないと僕は思う」

「それはそうだよ!」


 そんなことを話してるうち、僕たちはルースシティーの鍛冶屋にたどり着いた。


「ここが鍛冶屋さんなんだね~」


 大きな煙突がついたレンガ造りの古びた建物に、パールも興味津々。


「あの~すいませーん」

「おう、入れ」


 控えめに声をかけたパールに、鍛冶屋の主人が手短に入るよう促す。


 小柄ながらも筋骨粒々な体躯に、三つ編みにした豊かなひげ。

 あれ、ドワーフなんだろうけどこの人どこかで……?


「あれ、ちっちゃい?」

「口を開けばいきなりそれか」


 パールの何気なく口にした言葉に、主人はむすっとしてしまう。


「パール、あの人はドワーフなんだ」

「ドワーフって確か小柄な人たちのことだよね、もしかしてドワーフも亜人なの?」

「そうだよ。ドワーフは小柄だけどパワフルで、その上器用だ。だから鍛冶仕事にも精通してるドワーフが多いんだよ」

「へ~。それにしてもなんか暑いね~」


 手でパタパタと仰いで暑そうにするパールに、ドワーフの主人が問いかける。


「こんな小娘がここに何の用だ?」

「小娘って……ぷぅ」

「パール、彼に悪気はなさそうだしそこは気にしないでいこうよ。それにパールだってさっきはあんなことを言ったんだ、お互い様だよ」

「それもそうだけど……」


 耳元で僕がフォローしたところで、パールは気を取り直して鍛冶屋の男に要望を告げた。


「この服に合う動きやすくて固い防具を作ってほしいんですけど……」

「ふむ。……む? ちょっとその背中の剣を見せてみろ」

「は、はい」


 パールが竜血剣ジークフリートを差し出すと、男は目を皿のようにしてそれを見定める。


「……この剣は竜血剣ジークフリート、勇者様の剣じゃないか! お嬢ちゃん、これどこで手に入れた!?」

「ふえっ!? その~……。――エリオス~、どこまで話していいかなあ?」

「うーん……」


「――そこのフクロウさん、もしや勇者様でないか!?」


 主人のまさかの言葉に、僕は目を見開いてビックリ仰天。


 このドワーフ、僕を知ってる……!?

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