第14話 騎士団長
「どうしてそれを!?」
僕がすっとんきょうな声をあげた途端、ドワーフの主人が僕の顔を食い入るように覗き込んだ。
「勇者様、俺だよ俺! ほら、二百年くらい前に親父が世話になっただろ!?」
「……もしかしてキミ、スナフ君かい!? よく僕が分かったね!」
「当たり前だろ! 姿は違うみてえだけど、雰囲気は昔のままだったからな!」
「ふえっ、エリオスってこの人と知り合いなの~!?」
ビックリするパールをよそに、僕は
『マスター。この方はスナフ、二百年ほど前に彼の父親が初めてワタシを調整していただいたのでございます』
「ふえ~、そんな縁があったんだ……!」
ナイス解説だよ、ジークフリート。
「それにしてもキミ、ずいぶん立派になったね~! 昔はあんなにやんちゃそうだったのに!」
「やんちゃは余計だろ! そう言う勇者様だってなんでそんな姿なんだよ?」
「いや~、僕もよく分からないんだけどどうやら一度死んでからフクロウとして生まれ変わったみたいなんだ」
「不思議なこともあるんだな~」
そんなこんなで意外な再会の喜びを分かち合ったところで、僕は改めてパールを紹介する。
「この娘はパール、ジークフリートに見初められた僕の後継者さ」
「後継者って、まさかこの娘が次の勇者様ってことか!?」
目をギョロりと見開くスナフに、パールはキョドりながらも自己紹介をした。
「ぱ、パールです! スナフさん、よろしくお願いします!」
「ほう……まさか勇者様に後継者とは……。よし分かった、パールちゃんに合った防具を作ってやるよ」
「ホントですか!?」
「ありがとう、スナフ君!」
「昔の吉身とあっちゃ断るわけにはいかねえだろ!」
こうしてパールはドワーフのスナフ君に防具を作ってもらえることになったんだ。
ヒアリングとパールの採寸をしてもらったところで、僕たちは一旦鍛冶屋を出る。
「まさかエリオスの知り合いと会えるなんて思わなかったよ~。……あれ、エリオスが生きてたのって二百年以上前だよね? あのドワーフさん、なんでそんな昔のことを知ってたんだろう……?」
「答えは簡単さ、ドワーフは割と長命な種族で二百年くらいなら余裕で生きるんだよ」
「そうなんだ! 旅に出てから新しいこと知らないことばかりで楽しいな~」
「そう言ってくれて何よりだよ。旅は楽しむのが一番だからね」
魔物との戦いが続けば、いずれパールも楽しむ余裕なんてなくなるだろう。
それまでは十分楽しむの悪くないと、今なら僕は思うよ。
「あれ、エリオス? お~い」
物思いに耽っていたら、パールに頭を撫でられて僕は我に返る。
「あ、また考え事しちゃってたね。ごめん」
「ううん、わたしは気にしてないよ。それよりも次はどこ行くんだっけ?」
「この町の騎士団を伺うんでしょ。そこの団長に用があって、この旅が始まったんだからさ」
「それもそうだね、あはは……」
全くもう、旅の目的を忘れないでおくれよ……。
町行く人に話を聞きながら、僕たちは騎士団の駐屯所に足を運ぶ。
すると入り口の前では仁王立ちで騎士が待ち構えていた。
「小娘がこんなところに何の用だ」
「あのっ、わたしパールです。村長さんからこちらを預かっているのですが」
パールが門番の騎士に紹介状を手渡すと、彼はすんなりと応じる。
「なるほど、お前がフクロウを連れているという娘か。かのお方の紹介とあらば無下にはできんな。ついてこい」
門番に案内されたのは、騎士団の事務室みたいな部屋だ。
「団長、失礼します。客人を連れてきました」
「入れ」
形式ばった所作で入室する門番に続いて、パールも部屋に入る。
「君がパールか。我はルースシティーの騎士団で長を務めるブラストだ」
「ぱ、パールですっ」
緊張したように背筋を強ばらせるパールに、団長ブラストは堀の深い顔を綻ばせた。
「
「はいっ、よろしくお願いします!」
「ははは、やる気は十分のようだな。しかし我の稽古は厳しいぞ、君みたいな娘がついてこれるか?」
「がんばります!!」
緊張しつつもしっかりとした目を見せるパールに、団長も安心したように息を吐く。
「よし、いいだろう。まずは君の実力を見せてもらおう。ついてこい」
「はい、師匠!」
続いて団長に連れてこられたのは、何人もの若者が鍛練を努める稽古場だった。
「はわ~、すごい熱気だよ~!」
「ああ、みんな真剣だ。僕にも分かるよ」
稽古にいそしむ若い騎士たちを横目に通っていると、団長が木刀を取り出して構える。
「さあ、全力で来なさい」
「はい! ……でもわたしはこの剣でいいんですか?」
「君が気にすることはないさ。――【強化】」
団長がそう唱えるなり、木刀に幾何学的模様が刻まれた。
「師匠がそう言うなら、わたしも全力で行きます! いくよ、ジークフリート!」
『もちろんでございます』
背中から竜血剣ジークフリートを抜いたパールが、早速いつものように力を解放する。
ちなみに僕は少し離れたところで見学だ。
「てやああああっ!」
突進してパールが振り下ろした剣を、団長は木刀で正面から受け止める。
「ぐっっ!! 師匠から聞いていた通りだ、なんて凄まじい力!」
「うおおおおお!!」
それからがむしゃらに剣を振るうパールに、団長は木刀で対処する。
だけどあの太刀筋、パールの動作を完全に見切っている……!
「――なるほどな、確かに素晴らしい剣だ。だがっ!」
「きゃあっ!?」
そうかと思えば団長が軽く振り払っただけで、パールの手元からジークフリートが弾かれてしまった。
「しまった、ジークフリートが! ……あ」
次の瞬間にはパールの喉元に団長の木刀が突き付けられて勝負あり。
「君の力、しかと見させてもらった。確かにポテンシャルはとてつもないものだが、剣術の基礎がまるでなってないな」
「ぷう、そんな……」
うん、僕もそれ知ってた。
厳しい指摘でむくれるパールに、団長が手を差しのべる。
「だがそれでこそ教えがいがあるってものだ。いいだろう、明日から我がビシバシ鍛えてやる」
「ありがとうございます!」
団長と固い握手を結ぶパール。
彼女に剣術の師ができた瞬間だった。
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