第12話 勇者としての前進

 朝になって僕がうとうとしていると、パールに身体を揺さぶられて起こされた。


「おはようエリオス! 朝だよ~!」

「ん、んん……っ。もうそんな時間かー」


 目をぱちくりさせる僕の前にいるパールは、既に普段着に着替えている。

 どうやら朝から元気みたいだね。


「よーし、せっかくだから朝の散歩といこうか」

「うん!」


 僕を肩に乗せたパールは、朝食をとってから宿を出てこのウィードタウンをぐるっと一周し始めた。


「朝だから静かだね~。なんか村とあんまり変わんないかも」

「そうだねパール、だけどあっちではもうお店を開いているよ」


 僕が翼で差し示したのは町のパン屋。


「いい匂い~」


 気がつくとパールは香ばしい香りに誘われて、パン屋のそばに行く。


「いらっしゃい! 焼きたてのパン食べていくかい?」

「うん!」

「それじゃあこれどうぞっ、サービスしとくよ」


 パン屋のおばさんがパールに渡したのは、大きめのバケットパンが二つ。


「こんな大きいパンを二つもいいの~!?」

「いいさいいさ、たくさん食べて大きくなるんだよ~」

「ありがとう、おばさん!」


 バケットパンをお得に買ったところで、僕とパールは宿屋に戻った。


「ん~! これ何もつけなくても美味しいよ!」


 パールは早速香ばしく焼けたバケットパンを美味しそうに頬張っている。


「バターもあるし、干し肉も挟むと美味しいよパール」

「ありがとっ、エリオス。――これも美味しい!」


 僕がアイテムボックスから取り出したバターを塗ったパンに干し肉を挟んで食べるなり、パールはさらに目をキラキラと輝かせた。


 やっぱり美味しそうに食べるパールを見るだけで幸せな気分になるよ。


「ん、どうしたのエリオス? なんかボーッとしてない?」

「あ、いや。ちょっと昔のこと思い出しちゃってね」

「わたしとそっくりなパールキアのこと?」

「す、鋭いね」


 図星を突かれて僕は全身の羽根をボフッ!と逆立ててしまう。


 それは本当だ、だって幼い頃のパールキアとそっくりなんだから。


「パールキアに似てるのは分かるけど、わたしはパールだからね?」

「分かってるよパール、うん」


 何だろう、パールの目がちょっとじとーっとした感じになっている。


 ちょっと時間が過ぎた頃、僕たちは昨日の服飾屋に見繕ってくれた服を取りに行くことにした。


「すみませ~ん、服を取りに来ましたー!」

「あらいらっしゃい。服はちゃんとできてるわよ、早速着てみるかしら?」

「はい! 着てみたいです!」


 リップさんがパールを試着スペースに案内しようとしたので、僕はまた手近なところにちょこんと止まって待つことに。


 少しすると新たな装いを身にまとったパールが姿を見せてくれた。


「えへへ、どうかな~エリオス?」


 赤と白を基調とした厚手の上衣に、下着が見えないように黒いタイツと合わせた白く短いスカート。


 ちょっとはにかむパールは、着の身着ままだった服装から勇者として遜色ない動きやすそうな服装になっていた。


「似合ってるよパール、見違えたよ」


 その肩に止まって耳元に僕がささやくなり、パールは照れ臭そうにくねくねし始める。


「いや~それほどでもないよ~」

「気に入ってもらえたみたいで何よりだわ。その服なんだけど、持ち主の成長に合わせてサイズも更新していく魔法をかけておいたわ」

「ありがとうございます、リップさん!」


 パールもまだまだ育ち盛りの女の子だからね、そういう補正もつけてもらえるとはありがたい限りだよ。


 料金を支払って店を出たところで、僕とパールは早くもこのウィードタウンを出発することにした。


 本当は防具も揃えておきたかったけど、この町にはさすがに鍛冶屋まではないみたいだからね。


 今回は運良くルースシティーに向かう行商人を見かけたので、護衛も引き受けがてら馬車に乗せてもらえることになったんだけど。


「うう……っ、気持ち悪いよ……」


 この通りパールは馬車の揺れで乗り物酔いを起こしてしまったようだ。


「もしかして馬車も初めてだったりする?」

「うん……」


 やっぱりか。慣れないうちは結構酔うもんね。


 気休め程度に僕がパールのきれいな髪を嘴ですいてあげることしばらく、森の道を進んでいたところで柄の悪い男たちが道を塞いできた。


「待ちな!」

「おっと。その積み荷と有り金を置いていけば命までは取らねえぜ?」

「ひいっ、盗賊です~!!」


 行商人のフリットさんが腰を抜かす相手は、どうやら盗賊の集団のようで。


 盗賊かあ、魔王を倒すまでの道のりで何度もそういう奴らと会ってきたっけ。


 おっと、懐かしさに浸ってる場合じゃない。


「パール、盗賊だ! キミの出番だよ!」

「う、うん! ――おっと」


 立ち上がろうとしてよろめくパールに、剣のジークフリートが偶然支えになる。


『大丈夫ですかマスター?』

「うん。わたしは平気だよ、ジークフリート」


 気を取り直したパールが表に出ると、盗賊たちが下卑た笑みを浮かべた。


「おおっ、この馬車には女もいたか!」

「ちょっとばかし幼いが、結構可愛い顔してんじゃねえか」

「うう、気持ち悪っ!」


 パールがそう漏らしたのは乗り物酔いのことではないだろう。


 そんなパールに鼻の下を伸ばす盗賊たちに、僕は我慢ならなくて飛びかかった。

 パールをそんな汚い目で見るな!


「ウインディスラッシュ!!」

「あぎゃす!?」


 僕の起こした風の刃で、盗賊の首をはねる。


「わわっ、何だこの鳥!?」

「今こいつ魔法使わなかったか!?」


 僕の風魔法でパールの闘志にも火が着いたようで。


「てやあああっ!」


 赤い魔力のオーラをまとってからパールが剣を振るうと、盗賊の一人が切り伏せられる。


「あぎゃっ!?」


「な、なんだこのアマぁ!!」


 仲間がやられて激昂する盗賊たちだけど、仮にも次期勇者としてジークフリートに認められたパールの敵ではなかった。


「バカな、俺たち盗賊がこんな小娘に~!?」

「に、逃げろ~!!」


 逃げていく盗賊たち。


「守っていただきありがとうございます! いや~、お強いのですね!」

「ふふーん、まあね!」


 フリットさんに誉められて得意気に胸を張るパール。


 今はまだジークフリートの力任せなところがあるけど、ルースシティーで剣術を学んだらもっと強くなるぞ。


 そう思うと僕は楽しみでならなかった。

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