第20話 不可解

「なにぃ!?」


 騎士の報告に目を見開く騎士団長。


 やはりあのゴブリンたちか……!


 騎士の報告は続く。


「現在町に出ていた我々が総出で住民に教会への避難を促しております」

「そうか、それなら住民の安全はひとまず保たれる。なら我々は侵入したゴブリンを掃討するまでだ! 総員出撃!」

「はっ!」


 騎士団長の一声で駐屯所に待機していた騎士たちも出撃を始めた。


「――パール、お前も協力してくれるな?」

「はい! もちろんです!」


 騎士団長の確認をパールが待ってましたとばかりに応える。


「それでは頼んだぞ、パール」

「はい!」


 騎士団長に命じられたパールもまた、ゴブリンたちを倒しに町へ繰り出した。


 もちろん僕も彼女の肩に止まってお供する。


 町の至るところで騎士とゴブリンが交戦している、僕たちも頑張らねば!


「パール、確かにゴブリンは弱い。だけど数の多い奴らは決して侮れないよ!」

「うん、分かってるよエリオス!」


 僕と目配せしたパールは、町の広場でうろつくゴブリンたちに突撃を仕掛ける。


「うおおおおおおお!!」


 まずは勢いのままにゴブリンを一匹、頭から剣で一刀両断。


「クギャッ!?」


 一匹が倒れるのを見てから、残りのゴブリンたちが猛り狂ったように声をあげる。


「クキャキャキャ!」

「クキャーーー!!」


 粗末な木の棒を手に臨戦態勢のゴブリンたちに対し、パールは落ち着いて奴らを見据えた。


「クキャーーー!!」


 一斉に突撃するゴブリンたちを巧みな足裁きでいなしつつ、パールは奴らを一匹ずつ切り伏せていく。


「クキャキャキャ!!」

『マスター、後ろです!』

「僕に任せて! ウインディトルネード!」


 僕が翼で巻き上げたつむじ風で、パールの背後から襲いかかろうとしたゴブリンたちを巻き上げた。


「ありがとう、エリオス!」

「お互い様だよ、パール!」


 パールと背中合わせになってから、僕もゴブリンを攻撃しにかかる。


「ウインディカッター!」


 風の刃で正面に立ちはだかるゴブリンの首をはねてから、僕はパールの援護に向かった。


「フェザーニードル!」


 頭上から鋭く尖らせた羽根を降らせることでゴブリンを怯ませ、そこをパールに斬らせる。


「すごいよエリオス! おかげですっごくやりやすい!」

「それはどうもっ!」


 パールと協力してゴブリンを討伐していた時だった、突然ゴブリンたちが聞き耳を立てるように立ち止まった。


「あれ、どうしたんだろう?」

「妙だな」


 僕とパールが訝しんだのもつかの間、今度は残ってたゴブリンたちが一斉に踵を返して一方向に駆け出していく。

 あの方向はまさか、教会!?


「マズい! あっちには教会がある!!」

「そういえばそうだった! ……町のみんなが危ない!!」


 事の重大さにすぐさま気づいたパールが駆け出すのに、僕も空を飛んで続く。


「こ、これは……!」


 教会で目の当たりにしたのは、教会の前に集まる千を超える数のゴブリンたちだった。


「ふええ~! ゴブリンこんなにいるの~!?」


 百だなんてとんでもなかった、実際はあちこちからゴブリンが集まってきてたんだ。


「あれ、でもゴブリンたちなんにもしてないよ?」

『教会には退魔結界が張られているのですよ、マスター』

「たいまけっかい?」


 どうやらパールは結界のことを知らないみたいなので、肩に止まった僕が教える。


「結界はいざというときのために、魔物を寄せ付けない結界が発動するようになっているんだ」

『ゴブリン程度の魔物であれば、結界に触れた途端焼き尽くされて消滅します』

「へ~、そんな仕組みがあるんだ~!」

「だから騎士の皆さんも最初に町の住民を教会には避難させたんだ。ここが一番安全だからね」


 そんなことを話しながらパールと一緒に結界を潜り抜けて教会に行くと、そこには多くの町の住民が集まっていた。


 みんながみんな不安そうな顔で、教会の関係者がどうにかなだめているところで。


 もちろんそこにはジーニーさんの姿もある。


「あ、ジーニーさ~ん!」

「あら、パールちゃんじゃない! 無事だったのね、良かったわ~!」

「むぐっ!?」


 ジーニーさんに抱きしめられて、パールは顔面を豊満な巨乳に埋められた。


 それにしてもすごい胸だ、あんな大きいの僕も他で見たことがない。


『……エリオス様?』

「ううん、何でもない」


 なんでだろう、剣のジークフリートにじとーっとした目を向けられたような……。


「ぷはーっ! 苦しかった~!」

「あらごめんなさい。私ったらつい……!」

「いえいえ! ジーニーさんこそ無事で何よりだよ!」

「ここは結界があるから安全なのよ」


「――パールか。ここにいたのだな」


 そこへやってきたのは騎士団長。


「あ、騎士団長!」

「どうやら無事のようで何よりだ」

「あの、今ゴブリンをやっつけないんですか?」

「それなんだがな、奴らの様子がおかしいんだ。奴ら集まってはいるが何もする気配がないんだ」


 騎士団長の言う通りだ、ゴブリンたちはただ集まっているだけ。


「ん?」

「何か裏があるかもしれないってことだよ、パール」

「あ~、なるほどー」


 僕の解説で理解したパールは手をポンと叩く。


「もっとも、ここには結界が張られているから奴らも中までは入ってこれまい」

「ですね」

「このまま何も起こらないようであれば、たむろしているゴブリン共を殲滅にかかる」

「はい! 騎士団長!」


 そう意気込んだその時、騎士の一人が報告に駆けつけてきた。


「騎士団長! ゴブリン共が動き出しました! 結界に向かって全員で特攻しています!!」

「なんだって!?」

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