第19話 集いしゴブリン

「馬鹿もーーん!! 町に魔物が出たならば騎士団に報告は必須だろうがあ!!」


 あの後騎士団に戻ったパールは、騎士団長から大目玉を食らっていた。


 あまりの怒号で頭がガンガン痛むので、僕は部屋の片隅に避難している。


「でも……っ、魔物が町のみんなを襲うかもと思ったら放っておけなくて……!」

「でもじゃない、パール! 今回は独りで殲滅できたから良かったが、もし手に負えなくなっていたらどうなっていたことか!」


 恐る恐る反論するパールに対して騎士団長が放った気迫に、さすがの彼女も引き下がる他なかったようで。


「……ごめんなさい」

「全く、勝手なことをしおって。今後はこのようなことがないように頼むぞ」

「……はい」


 ほっ、思ったより説教が早く終わって良かった。


 僕が安堵の息をついたのもつかの間、パールはうつむいたまま事務室を駆け出す。


 僕も慌てて追いかけると、パールは自分の部屋のベッドに突っ伏していた。


「どうして? わたしは間違っていたの……?」


 枕に顔を押し付けて泣き言を漏らすパールに、僕は歩み寄って声をかける。


「パール、確かにキミがゴブリンを倒したこと自体は間違いじゃない。問題はキミが騎士団に報告することなく独断で戦ったことなんだ」

「エリオス……?」


 涙でくしゃくしゃになった顔をあげるパールに、僕は昔のことを語った。


「僕も昔はそうだった。敵や危険があると見るや僕は周りも見ず一直線に向かってった、今のキミみたいにね」

「エリオスにもそんな時があったんだね」

「今思えばそれでたくさんの人に迷惑をかけていたかも知れないし、知らず知らずに反感を買っていたかも知れない。キミにはそんな風になってほしくないんだよ僕は」


 哀愁を漂わせる僕の話に、パールは耳を傾けてくれている。


「エリオス、わたし……」


 うつむくパールに僕はモフモフの身体で寄り添って、こう言った。


「もっとも、僕だってキミと同じくらいの頃はそんなこと分からなかったんだ。キミはこれからいろんなことを学んでいけばいいんだよ、パール」

「エリオス……。うん、わたしこれからは周りもよく見てがんばる!」

「よし、その意気だよパール。大事なのはこれからさ」


 良かった、パールもこれで立ち直れそう。




 それからの数日間、パールはこれまで以上に鍛練を真剣に受けていた。


「てやあっ!」

「くっ!」


 今回は先輩の女騎士相手に剣術の練習をしているようで、パールは勢いと習いたてのテクニックで相手を圧倒している。


「はあああっ!」

「何っ!?」


 パールの木刀が、女騎士の木刀を弾いて天高く打ち上げた。


 おお、パールが勝った!


「そこまでっ!」


 審判を勤めてた先輩に止められて、パールは相手になってくれてた女騎士に手をさしのべる。


「お相手ありがとうございました!」

「いや、例を言うのはこちらの方だ。後輩にここまで押されて、慢心などしていられないということを思い知ったからな」


 女騎士と固い握手を結んでから自由時間に入ったパールは、フクロウの僕も連れて続いてあの学舎に足を運んだ。


「すみませ~ん、お邪魔しまーす!」


 パールが扉を叩くと、出迎えてくれたのはすっかり顔馴染みとなったジーニーさんである。


「あら、今日も来てくれたのね。いらっしゃい」

「えへへ、どうも~」


 毎日のように学舎へ通うパールは、子供たち全員ともすっかり仲良くなっていた。


「パールおねえちゃーん!」

「きょうはなにみせてくれるのー!?」


「えへへ、どうしようかな~」


 キャッキャと歓声あげて集まる学童たちに、パールも楽しそうに接している。


 もちろん僕も子供たちと遊んでいる、というかベタベタ弄くられて遊ばれているような……。


「いつも来てくれてありがとう、パールちゃん」


 ジーニーさんからの感謝にも、パールはにこにこ笑って応える。


「ううん、こちらこそだよ。だってわたしもすっごく楽しいもん!」


 お互い持ちつ持たれつで、いい関係だと僕は思うな。


『マスターも着実に成長されてますな』

「そうだね、ジークフリート。僕を超える日もそう遠くないかも」

『まさか、エリオス様ったら下手な冗談を』

「下手とは何だい、下手とはっ」


 剣のジークフリートに茶化されて、僕は悪態をちょっとだけつく。


 そんな時だった、どこからか怪しげな気配を僕は察知した。


『エリオス様』

「ジークフリートも気がついたんだね。北の方だ、また何かいるっ」

『マスターにも伝えますね。――マスター、敵の気配がします』


 ジークフリートの報告で、ワイワイ遊んでいたパールがハッと立ち止まる。


「大変! ジーニーさん、失礼しました~!」

「ジーニーさんはここをお願いします!」

「パールちゃんにエリオスさん!? ……行っちゃった」


 訳も分からず手を伸ばすジーニーさんをしり目に、僕とパールは学舎を飛び出した。


「まずはどこに向かうか、分かるねパール?」

「うん! まずは状況を確認してから騎士団に報告、だよね!」


 うんうん、分かってるみたいだね。


 急いで現場に向かうと、そこにはこの前に輪をかけて大勢のゴブリンたちがたむろしているのが目に飛び込んだ。


「またゴブリン!」

「だけど様子がおかしい、みんな静かだ」


 集まったゴブリンは普通、狂乱したように暴れることが多いのだけど。


 目の前のゴブリンたちは軍隊のように整列しているようにも見える。


「とにかくこのことを報告だ、パール」

「うん!」


 続いて騎士団の駐屯所に戻ったところで、パールは騎士団長に今見たことを報告した。


「騎士団長! 北側の森に大勢のゴブリンが!」

「なに、ゴブリン? どのくらいの数だ?」

「んーと、百匹は軽く超えてたような……」

「うーむ、百匹か。多いな」

「しかも様子が変なんです。どのゴブリンも統率がとれてるみたいで……」

「そうか」


 パールの報告に騎士団長が重々しくうなづいた時だった、別の騎士が報告に駆けつけてきたんだ。


「騎士団長、大変です! 百を超えるゴブリンが町に侵入してきました!!」

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