第18話 嫌な予感

 しばらく学舎の子供たちに付き合っていた時だった、僕は微かな気配を感じた。


 この気配はまさか魔物? でも町に魔物が出ればすぐ騒ぎになると思うんだけど。


 現実には学舎も平和そのものだし、見る限り外も異常はない。


「ねえジークフリート、さっき何か感じなかったかい?」

『いえ、ワタシは何も感じませんでしたが』

「そっか……」


 ジークフリートもこう言ってるし、やっぱり気のせいだったかな……?


 そんな心配を抱えつつも僕は、子供たちやジーニーさんと楽しそうに話すパールを眺めている。


 僕から見ればまだ子供なパールも、ここではちょっとだけお姉さんみたい。


 それからパールは学舎の給食もいただくことになる。


 パールも遠慮はしたけど、ジーニーさんが一緒に食べようと言って聞かなかったのだ。


「んん~! この野菜スープ、すっごく美味しいよ~!?」

「うふふ、そう言ってもらえて嬉しいわ」


 子供たちと一緒にパールは、ジーニーさんの作った野菜スープをいただいている。


 素直なパールの感想にジーニーさんも嬉しそうに微笑んでいた。


 ……みんなが食事をしているうちに、ちょっと町を見回りしよう。


 思い立った僕は開けられた窓から外に飛び立った。


 もちろんパールにも一言伝えてあるよ。


 町の上を飛んでみるけど、やっぱり特に異常はなさそう。


 そう結論付けて引き返そうとしたその時、僕はまた嫌な気配を感じた。


 この気配……あっちだ!


 町の外れに隣接する森へ飛んでいくと、そこには何匹かのゴブリンの姿がある。


 こんな町の近くにゴブリンがいるなんて。


 どうする、僕が倒すか?

 いいや、これは一応騎士団に報告すべき案件だろう。


 そう判断した僕は、パールのもとにとんぼ返り。


 学舎に戻ると僕はパールの肩に止まってささやいた。


「パール、町の近くにゴブリンがいる」

「え、そうなの!? ――ジーニーさん、お邪魔しました~!」

「あら、急用かしら? またいらっしゃ~い」


 ジーニーさんに一言断って学舎を飛び出すパール。


「ゴブリンはどこ!?」

「町の北側にある森の方だよ」

「分かった!」


 僕の言葉を聞き入れるなり、パールは町の北側に一直線。


「……ちょっと待って、そのまま直行するの!?」

「だって魔物だよ! 放ってなんておけないよ!!」

「それにしたってまずは騎士団への報告が必要でしょ!? 一人で突っ走っちゃいけない!」

「へーきへーき! だってわたしは勇者だもん、ゴブリンくらいへっちゃらだよ!」

「そう言うことじゃないんだってば……、って聞いてないねこれ」


 僕の意見も聞かずにパールは北側に隣接する森へ急ぐ。


 そしてそこでたむろしているゴブリンたちと対面した。


「てやああああっ!!」


 出会い頭にパールが剣を抜いてゴブリンの一匹を頭から両断すると、残りのゴブリンが粗末な木の棒を構えて臨戦態勢に。


「奴ら武器を持っている、気をつけてパール!」

「ゴブリンなんて楽勝だよ!」


 僕の警告にも関わらず、パールはにっと笑って余裕綽々。


 ……駄目だ、僕のことなんて全然聞いちゃいないよ。


「クキャキャキャ!!」

「クギャーーー!!」


 一斉に向かってくるゴブリンを、パールは楽々切り伏せていく。


 パールってばすっかり得意気になっている、全くもう!


 仕方なしに僕も戦いに加わることにした。


「フェザーニードル!」


 針のように尖らせた羽根を僕が飛ばすと、ゴブリンたちは怯んで動きが止まる。


「クギャッ!?」

「クギギッ!?」


「今だよパール!」

「ありがとうエリオス! はあああっ!!」


 僕の助太刀で勢いづいたパールは、あっという間にゴブリンたちを殲滅した。


「楽勝ラクショー! ……うっ」

「パール!?」


 急に膝を庇ったパールに歩み寄る僕。


「もしかして痛いの?」

「ちょっと打っちゃったみたい。でもこれくらいすぐ治るから平気だよ、エリオス。……痛っ!」


 僕がパールの膝をつつくと、彼女は痛そうにうめいた。


「駄目だよパール! 怪我を甘く見ちゃいけない、たとえ軽くても怪我ひとつが命取りになるんだよ!?」

「は、はあい……」

「分かればよろしい。それで、歩けそう?」

「うん、なんとか……ううっ!」


 立ち上がろうとして苦痛にうめくパールに、僕はため息をついて言い聞かせる。


「それじゃあ手当てができそうな人を呼んでくるから、ちょっとそこで待ってて」

「うん、分かった……」


 渋々了承したパールをしり目に、僕は三度みたびジーニーさんの元に飛んでいった。


 学舎に着いたところで、僕はジーニーさんの肩に止まってささやく。


「ジーニーさん、怪我の手当てができそうな人知らない? パールが怪我をして動けないんだ」

「まあ!? それは大変! 私が行くわ。エリオスさん、案内お願い!」

「分かった!」


 ジーニーさんを導くように、僕はスピードを調節しながら森に向かって飛んだ。


「パールちゃーん!」

「あ、ジーニーさん!」

「私が来たからもう大丈夫よ。――ヒール」


 ジーニーさんが手をかざすと、パールの膝に光が灯される。


「あれ、痛くない……」

「もしかしてそれ、回復魔法かい?」

「ええ。言ったでしょ、私も聖職者だって。だからこういうことは得意なの」


 豊満な胸を張って誇らしげなジーニーさんに、怪我を手当てしてもらったパールが抱きついた。


「ありがとうジーニーさん!」

「いいのよ、困ったときはお互い様でしょ」


 パールの怪我も無事に治ったようで何よりだよ。


 ……それにしても変だな、こんな町の近くで魔物が出るなんて。

 何かの前触れでなければいいんだけど……。

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