第17話 牛獣人のジーニー
この日は鍛練もお休みということで、僕とパールは町中を改めて散策することにした。
「やっぱりきれいな町だよね~」
「うん、これが僕の守った平和だと思うと誇らしいよ」
町行く人々は種族問わずみんな笑顔で、なんか嬉しくなる。
……三ヶ月前のことは何かの間違いだったんだ、きっと。
市場に足を運ぶと、野菜売りを前に見覚えのある人が何やら悩んでいるようだった。
「困ったわ、どれにしようかしら~」
修道女のような服装に牛の角。
間違いない、三ヶ月前に僕が助けた牛獣人のお姉さんだ。
「ポホーーーウ」
「ん、どうしたのエリオス?」
僕が一声鳴くと、牛獣人のお姉さんがこっちに気づいて歩み寄ってくる。
「あら~、あなたはこの前私を助けてくださったフクロウさんじゃな~い!」
「え? どういうことなのエリオス?」
「実はねパール――」
訝しげなパールに僕が説明しようとしたら、牛獣人のお姉さんが耳をピン!と立てて驚いた。
「まあ! フクロウさん喋れるの!?」
しまった、パールに説明をするつもりでうっかり喋っちゃったよ!
好奇心の光を灯すお姉さんの柔和な瞳を、僕は誤魔化すことはできそうにない。
それにしても胸が大きい。さすがは牛獣人ってところか。
「こほんっ。僕はエリオス、今はただのフクロウさ」
「わたしはパール! ……それとただのフクロウは喋ったりなんかしないよ、エリオス」
「それもそっか」
パールのツッコミに僕が照れ隠しに笑うそばで、牛獣人のお姉さんはあごをなでて考え込む。
「エリオス……確か伝説の勇者様と同じ名前だわ」
「ギクッ」
「牛のお姉さん! エリオスはね、勇者様の生まれ変わりなんだよ~!」
「ちょっとパール!? それを言っちゃ……!」
パールの失言であたふたする僕は、牛獣人のお姉さんにガシッと掴まれた。
「まあ! やっぱりそうなの~! あの時助けてくださったのは偶然ではなかったのね!」
目をキラキラと輝かせる牛獣人のお姉さんは、手をパンと叩いて自己紹介を始める。
「申し遅れたわ。私はジーニー、この町の学舎で先生をやってるの!」
「がくしゃ~?」
「子供たちが平等に学問を学ぶところよ、パールちゃん。そうね、基本的な読み書きや計算なんかを先生が教えたりするの」
「へ~、そんな場所があるんだね!」
いつものように深紅の瞳を好奇心で光らせるパールに、ジーニーさんは指を立ててこんな提案をした。
「よかったら
「え、いいの!? やったー!」
そうしてパールと僕はジーニーさんの勤める学舎をお邪魔することに。
「ところでジーニーさん、さっきは何悩んでたの?」
「それがねパールちゃん、お昼の買い出しを頼まれていたのだけど、どのお野菜を買うかちょっと迷っちゃって……」
「そうなんだ~」
そう言うジーニーさんだけど、迷った末に選んだのが人参だった。
「ところでエリオス、さっきはジーニーさんと初めましてじゃなかったみたいだけど?」
「あー、実はね……」
僕が三ヶ月前に起きたことを話すと、パールは深紅の瞳を丸くする。
「そんなことがあったんだ!」
「ええ。あの時は助かったわ、エリオスさん」
「礼には及ばないよ。僕が救った世界であんな真似が横行してほしくなかったからね」
「まあ。やっぱり勇者様なのね、頼りになるわ~!」
そんなことを話しながらジーニーさんに連れてこられたのは、十字架のオブジェが目立つ教会のすぐ隣に立てられた小さな掘っ建て小屋。
「教会の近くにあるってことは、運営も教会が行ってるってこと?」
「よく分かったわねエリオスさん! その通り、この学舎は教会の庇護で成り立っているの。私だって教会の修道女でもあるのよ」
「それでそんな感じの服装なんだね」
「そういうことっ。それじゃあ入って入って」
ジーニーさんに促されて中に入ると、背の低い長机がいくつも置かれた部屋に子供たちが思い思いの振る舞いでいるのが目につく。
「あ、ジーニーせんせ~!」
「おかえりなさーい!」
元気よく挨拶をする子供たちに、ジーニーさんはにこやかに微笑みながら手を振った。
「ただいま~。みんないい子で待ってたかしら?」
『はーい!』
ハキハキと手をあげて返事をする子供たちの笑顔が、僕にも眩しく映る。
やっぱり無邪気に笑う子供は好きだ。
微笑ましく思っていたら、一人の男の子がジーニーさんにこんな質問をする。
「せんせー、この人は~?」
「この子はパールちゃん、確か……騎士見習いとして剣術を習っていたんでしたっけ?」
「うん! そうだよ!」
「へ~! パールおねえちゃんのけんってどんなの!?」
「それはね~、ほいっ!」
パールが背中の剣ジークフリートを抜いて見せると、子供たちが丸くした目をキラキラ輝かせた。
「すっげ~!」
「ほんもののけんなんてはじめて~!」
「ふっふ~ん、どう? すごいでしょ~」
子供たちの称賛の目に、パールもすごい得意気になっている。
「それからパールちゃんの肩に止まっている鳥さんは、フクロウのエリオスさん。とってもお利口さんで、先生もこの前助けられたの」
「ポホーーーウ」
僕が一声鳴くと、子供たちの歓声が再びあがった。
「すごーい、ほんものだ~!」
「かわいい~!」
「ねえ! ナデナデできるの!?」
「できるよ~。やってみる?」
『やりた~い!』
パールが許可を下ろしたということで、僕は子供たちから代わる代わるナデナデされることに。
子供たちの遠慮ない扱いはちょっと痛いかも、でも我慢我慢……。
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