第16話 騎士見習いとしての日常

 パールが騎士団で剣術を習うようになってから三ヶ月が経った。


 僕とパールも騎士団に馴染んできて、ここでも何不自由なく暮らせるようになっている。


 この日もパールは騎士団の訓練場で剣術の指南を受けていた。


「ようやく剣術も様になってきたな! 今度からは実戦も考慮したステージへと突入する!」

「はい! 師匠!」


 うんうん、騎士団長の指導がパールに身についてるようで僕も嬉しいよ。


 パールの鍛練を見届けることが、僕の日課であり大きな楽しみとなっていた。


 一方でそんな僕もまた騎士団の女性騎士たちに人気が出ているみたいで、こうしていると時々触れあいに来るんだ。


「おお、モフモフ……!」

「これは癒されるわ~」

「こっちを向いてくれ~!」


 僕の頭をなでたり、こっちを見て目が合うたびにキャーキャー騒いだり。


 まるで見世物みたいになってる感じもするけど、特に害もないので気にしないことにしている。


 そんな女性騎士たちに代わる代わる構われていると、鍛練でクタクタになったパールが戻ってきた。


「は~、疲れたよエリオス~」

「お疲れ様、パール」


 ベンチに突っ伏すパールの目の前に僕がちょこんと佇むと、彼女はにへらと笑みを見せる。


「えへへ、わたしがんばったよ。だからナデナデするね~」

「どうぞ」


 やっぱりパールに優しくなでられるのが一番気持ちいいなあ。


 それだけじゃない、幼い頃パールキアと慣れ親しんだ思い出が甦るようだよ。


「……むぅ、またわたしじゃなくてパールキアとして見てたでしょ」

「あら、バレた? ――むぐぅ」


 ジト目のパールに身体をむぎゅっと挟まれてちょっと苦しい。


「だ~か~ら~わたしはパールだよ、パールキアじゃないんだよ」

「わ、分かってるよパール……」

「ならよしっ」


 ふぅ、やっと解放された。


 ちょっぴり乱れたフワフワの全身を羽繕いしていたら、パールが僕に肩へ乗るよう促す。


「エリオス、お昼行こっ」

「うん」


 パールの華奢な肩に飛び乗ると、彼女に連れられて僕は騎士団の食堂へ向かうことに。


 そこでパールはいつものようにサンドイッチを注文して、僕と一緒にテーブルで待機する。


 ……食堂でも騎士の皆さんの視線をチラチラと感じるな。


 僕を見る女性騎士とパールを見る男性騎士ってところか。


 前者はともかく後者はちょっといただけない。


 この前はキザな騎士がパールにナンパしてきたこともあったし。

 そのときはもちろん僕が追い払ってやったけどね。


 そんなわけで今回も僕がパールを遮るように翼を広げると、男性騎士たちは揃いも揃って舌打ちをしながら目をそらした。


 パールは渡さないからね!


 そうこうしているうちにサンドイッチを食堂から持ってきたパールが、夢中でそれを食べ始める。


「ん~! 今日も美味しい~!!」


 こうして美味しそうにパールが頬張るところを見るだけで、僕の心は満たされるよ。


 そう感じていたら、パールがいつものようにハムの切れ端を差し出してくる。


「エリオスもどうぞ」

「ありがとっ」


 ハムの切れ端を嘴でついばむ僕を、パールもまた愛おしそうに見てくれている気がした。


 この後みっちり指南を受けてこの日は終わりを告げることになる。


「ふ~、今日も疲れた~!」


 着の身着のまま簡素なベッドに飛び込むパールに、僕は嘴を酸っぱくして言った。


「いつもそうだけど身体をきれいにしてから寝るんだよ?」

「分かってるよエリオス~」


 口を尖らせるパールは、少ししてお湯の入った桶をもらってくる。


 それからパールが服を脱ごうとするので、僕は首をぐるっと後ろに回して視界をそらした。


「ふ~、気持ちいい~」


 柔肌がゴシゴシと擦れる音を聞いているだけで、僕の劣情がくすぐられてしまう。


 フクロウの姿でなら今パールの方を見ても彼女は何も言わないだろう、だけどそれに甘えてはいけない。


 なにせ僕は元勇者、年頃の女の子の湯浴みを覗くなんて不埒なことをするわけにいかない!


 天井のシミを数えて気をそらしていると、湯浴みを終えたパールが声をかけてくれる。


「エリオス、もういいよ」


 その言葉で僕が正面を向き直ると、パールはいつものシンプルな寝間着に着替えていた。


「それじゃあお休み~」


 そう告げるなりパールは秒で眠りに落ちてしまう。


 今日もお疲れ様。


 そんな思いを込めて僕は嘴で毛布を引っ張ってパールにかけてあげる。


 寝息をたてるパールのそばで、僕は窓から夜空を眺めていた。


 今日もきれいな星空だ。


 そういえばジークフリートが言ってたっけ、魔王の復活が近づいているかもって。

 満天の星空を見ていると、そんなの間違いだと思いたくなるよ。


 気持ち良さそうに眠るパールを見つめて、僕もまたこの夜を過ごすのであった。

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