第27話 新たな仲間

 ミノタウロスは討伐したので、奴隷だった鬼人の女の子二人を連れて僕たちは山を降りることにした。


 下山がてら話を聞いてると、どうやら二人は魔族に故郷を追われた後奴隷商に捕まっていたらしい。


「ひどい話だよね! こんな小さな女の子が奴隷になるなんて!」

「全くだわ!」


 二人の境遇にパールとジーニーさんの二人が腹を立てていると、水色髪のユキがこんなことを訊いてきた。


「そういえばエリオスさんでしたっけ、あなたフクロウなのにしゃべれるなんて不思議ですね」

「ギクウッ!?」


 しまった、二人を助けるのに夢中でつい普通に喋ってたよ……!


 目を白黒させる僕に代わってフォローをいれたのはパールだ。


「エリオスはね、二百年前に世界を救った勇者様の生まれ変わりなんだよ~!」

「こほんっ、まあそういうことになるかな」

「ふ~ん」


 僕の正体に興味なさそうなユキ、それとは対照的にフブキは羨望で目を光らせる。


「ゆーしゃ!? おまえ世界でさいきょーのゆーしゃなのカ!?」

「ま、まあね。今は最強とは程遠いけど……ぎゅむっ!?」


 そうかと思えばフブキが両手で僕の身体をガシッと掴んだ。


「すごいゾ! フブキ、さいきょーのゆーしゃと会えて感激だゾ!!」

「あ、うん」


 パールとジーニーさんの時もそうだったけど、この反応は未だに慣れないな……。


「だけどそれならエリオスさんが真っ先にボクたちを助けに来てくれたのは納得ですね」


 相変わらず冷静なユキの華奢な肩にフブキが腕を回して上機嫌。


「ゆーしゃのおかげで首輪もはずれたし、フブキたちは自由だゾ!」

「ですけど姉さん、これからどうするんですか? ボクたちにはもう帰る場所がないんですよ」

「あ……っ」


 ユキの指摘でフブキはガクンとうなだれてしまう。


 そんな二人に手を差しのべたのは、ジーニーさんだった。


「それならとりあえず私たちと一緒に来ないかしら?」

「いいのカ?」

「ええ。私たちならあなたたちを守れるわ」

「あ、ありがとう……だゾ」


 ジーニーさんの優しい手をフブキが取るのに続いて、ユキもためらいながら手を伸ばす。


「本当に信用しても大丈夫、なんですよね……? ボクたちのことをだまそうとしてませんか……?」


「――キミたちを騙すなら、ジーニーさんが隷属の首輪を外すと思う?」

「……それもそうですね」


 僕の一声で背中を押されたのか、ユキもジーニーさんの手をぎゅっと握った。


「それじゃあ一緒に山を降りましょう」

「わたしも大歓迎だよ!」

「うん!」

「……はい」


 僕たちはひとまずこの二人を連れていくことにしたのであった。


 山を降りたところで、アイテムボックスに収容してたミノタウロスの死体を村のみんなに見せたら大層喜ばれた。


「みんなよっぽど怖かったんだね」

「ええ。だけどこれでもう安心ね」

「お二方、山の魔物を退治していただき誠にありがとうございます。どうお返ししたらよいものか……」

「お気になさらなくてもよろしいですよ。私たちの意思でやったことなので」


 ジーニーさんが謙遜しても村長さんは頭を上げようとしないので、僕たちは顔を見合わせてちょっと困ってしまう。


「ところで、その子たちは?」

「実はね、かくかくしかじか……」


 話題が向いた鬼人の二人をパールが説明すると、村長さんは難しそうに顔のシワを寄せた。


「なるほど、そのような事情が……」

「相談なのですが、この子達を保護していただくことは難しいですよね……?」


 ジーニーさんの問いかけに、村長さんは黙してうなづく。


 すると反論したのはパールだった。


「こんなに小さい女の子を放っておくんですか!?」

「パール、亜人種族は地域によって未だ差別の対象になってたりするんだ。そうでなくても素性の知れない亜人の子供を保護する余裕がこの小さい村にあると思う?」

「それは……」


 僕の補足でパールはうつむいてしまう。


 そんな彼女をフブキとユキの二人は心配そうに見つめていた。


「フブキたちは保護なんていらないゾ」

「ボクも同感です。知らない村に迷惑をかけたくないので」

「フブキちゃん、ユキちゃん……。二人とも強いんだね」

「フブキたちは鬼人族なんだゾ、人間の子供なんかよりもずっと強いから心配ご無用だゾ!」


 強がってるのか本心か分からないけどそう言うフブキとユキを、パールはまとめて抱きしめる。


「そうだね。でも二人だけじゃわたし心配だよ。――ねえエリオス、この子たちを仲間にいれることってできないかなあ!?」


 むむ、そうきたかパール。


「うーむ、だけど幼い子供を連れていくのは足手まといに……」

「フブキたちは足手まといになんかならないゾ! 氷雪の鬼人族の力をみせてやるゾ!」


 そう告げるなりフブキが力を込めると、周囲に冷気が立ち込めたのか寒気がしてくる。


「――それっ!」


 そしてフブキの手にはいつの間にか大振りな氷のハンマーが形成されていた。


「これを使えばどんな敵にも負けないゾ!」

「さっきまでは首輪のせいで力を使えませんでしたが、今ならボクたちも戦えます」


 いつの間にかユキも氷のハンマーを手にして、やる気十分といった様子。


「これなら心配はいらなそうね。これからよろしくね、フブキちゃんにユキちゃん」

「うん!」

「はい」


 こうして僕たちはこの二人を仲間に入れて、改めて王都に進み出すのであった。

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