第26話 二人の鬼の子

 あれがミノタウロスか!


 よく見るとその手にはもう一人の女の子が捕まっている、早く助けないと!


「あ、あ、あ……!」


 巨体のミノタウロスを前に薄桃色の短い髪をした女の子が顔面蒼白になっているところに、僕が颯爽と飛んでいく。


「フェザーニードル!」


 僕がミノタウロスの顔めがけて羽根を飛ばすと、奴は豪腕で振り払うようにもがいた。


「ギュムオオオオオ!!」


 するとミノタウロスが握っていたもう一人の女の子が解放されて落下する。


「ユキ!」


 落ちてきた水色髪の女の子を薄桃色髪の女の子が駆け込んでキャッチすると同時に、少し遅れて駆けつけたパールがミノタウロスから二人を庇うように割って入った。


「パール、あれがミノタウロスだ!」

「分かった、エリオス!」


 飛んで戻った僕の呼びかけでパールが剣ジークフリートを抜く。


「二人ともこっち!」


 その間にジーニーさんが小さな女の子二人をこの場から逃がした。


「ギュムオオオオオ!!」


 怒り狂って雄叫びをあげるミノタウロスが巨体で突っ込んでくる。


「パール!」

「うん!」


 それをパールが最低限の動きで、ミノタウロスの突進をかわし際に背後を斬りつけた。


「てやああっ!」

「ギュムオッ!?」


 斬りつけられて頭に血が上ったのか、ミノタウロスは豪快に鼻息を吹き出して荒ぶる。


「ギュムオオオオオ!!」


 それからミノタウロスが連続で拳を振るうも、パールはそれを紙一重でかわし続けた。


 だけどこの勢いじゃ反撃の隙がない!


「うおおおお! ウインディトルネード!!」


 とっさの機転に僕が翼で巻き起こしたつむじ風で、ミノタウロスが怯む。


「今だ、パール!」

「うん! うおおおおおお!!」


 その隙にパールが高く跳び上がり、空中で剣を振り上げ。


「ブレイブスラーーーーッシュ!!」


 そしてパールが全力で剣を振り下ろしたことで、ミノタウロスの巨体が斬りつけられた。


「ギュムオオオオオ……!」


 胸部を切り裂かれたことで、崩れ落ちるミノタウロスの巨体。

『お見事ですマスター』

「やったーーーー!! いえーい!」

「よくやった、パール」


 腕を振り上げて嬉しそうに跳ねるパールの肩に止まって、僕は労を労う。


「そうだ、あの子達は!?」

「ちょっと、エリオス~!?」


 思い出した僕があの娘たちが逃げた方に飛んでいくと、そこでジーニーさんに介抱を受けていた。


「ジーニーさん、その娘たちは……」

「大丈夫よ、ちょっと痩せてるけど大きな怪我はないわ」


 そう言いながらジーニーさんは手持ちの干し肉とパンを小さい女の子二人に分けている。


 そこへパールもすぐに駆けつけてきた。


「あれ、その子たち角があるよ~?」

「パールちゃん、恐らくこの娘たちは鬼人種族よ」

「きじん?」


 ジーニーさんの説明で頭をかしげるパールに、僕は補足する。


「亜人種族の一つで、頭に生えた角と強靭な肉体が特徴の人種だよ」

「そうなんだ、わたし初めて見たよ~!」


 興味津々に見つめるパールに、鬼人の女の子二人は怯えた様子で身を寄せあっていた。


「パールちゃん、この子達怖がってるでしょ」

「あ、ごめんね。怖がらせるつもりはなかったんだ」


 爽やかに謝るパールを前に、女の子二人はお互い顔を見合わせてから口を開いた。


「あ、あのっ!」

「ボクたちを助けていただき、ありがとうございます……!」


 小さい鬼人二人に感謝されて、パールははにかむ。


「えへへ、どういたしましてだよ~。――そういえば二人のお名前は? わたしはパール、こっちがエリオスとジーニーさんだよ」

「フブキ……だゾ」

「ユキ、です」


 なるほど、薄桃色髪の方がフブキで水色髪の方がユキか。


「フブキちゃんとユキちゃんか~! それにしても可愛い服着てるね!」


 パールのいうように二人が着ている服は特殊な生地の服に帯を巻いたような珍しい装いで、確か鬼人種族の一部に伝わる【キモノ】だったと思う。


 にこやかに笑うパールの言葉に、フブキとユキはまた顔を見合わせてから口を開いた。


「まあ、フブキは可愛いからナ! 何を着ても似合うんだゾ!」

「姉さんは世界一可愛い、これ覚えておいてください」

「んもー、ユキの奴お世辞が過ぎるゾ~!」


 照れ隠しにユキの背中をバシバシと叩くフブキ。


「そういえばこんなところにいたのはどうして? 子供二人じゃ危ない場所だけど」

「「それは……」」


 僕の問いかけにフブキとユキの二人はうつむいて押し黙ってしまう。


 すると代わりにジーニーさんが首輪の残骸みたいなものを手にこんなことを。


「エリオスさん、これなのだけど……」

「それは隷属の首輪じゃないか! どうしてここに!?」

「れいぞくって?」

「パール、隷属の首輪は奴隷の首にはめるものでね。これをつけられると主の命令に一切逆らえなくなるんだ」

「この子達の首にはめられていたものなの。私が解呪魔法で外してあげたのだけれど……」

「それって……!」


 ジーニーさんの説明でパールの顔が青ざめる。


 そう、この鬼人の女の子たちは恐らく奴隷だったんだ。

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