第29話 ユキの秘密
僕が目を覚ますと、夕暮れ空の下で馬車がまたとある町に行き着いていた。
「んん……っ」
「あ、エリオスが起きた」
「やあパール、待たせたね。ところでここはどこだい?」
僕の疑問に答えたのは、馬車を駐車場に置いたジーニーさん。
「ここはパロットシティーよ」
「パロットシティーか。そうすると王都まであと半分ってところだね」
『パロットシティーも二百年前と比べてずいぶん賑やかになりましたね』
僕の頭にジークフリートが語りかけた通り、パロットシティーは二百年前の五倍くらいは人通りが多くなってるように見える。
それだけじゃない、一般的な人族に混じって獣人やエルフといった亜人種族も同じくらい見受けられた。
「それじゃあみんなで泊まれる宿を探しましょう」
ジーニーさんの提案で桃色の瞳をキラキラと輝かせたのは、まだ仲間になったばかりのフブキ。
「お泊まりカ! それは楽しみだゾ!」
「姉さん、ボクたち遊びに行くんじゃないんですよ」
興奮する姉をたしなめるユキ。
やっぱりユキの方が冷静だなあ。
「それじゃあこれから宿を探しに行くぞー!」
「おー!」
そんなフブキと目配せしたパールが、二人で腕を振り上げて盛り上がる。
あの二人も似たところあるよね、もう打ち解けてるや。
「やーどっ、やーどっ」
「やどやどやーどっ」
不思議な歌を口ずさみながらスキップするフブキとパール。
ここまで来ると微笑ましいね。
程なくして僕たち一行が見つけたのは、ウィードタウンでもお世話になった宿屋【星空のハンモック】だった。
「あれっ、この宿屋さんウィードタウンにもあったよね?」
「星空のハンモックならあちこちの町にあるわよ、パールちゃん」
「そうなんだ! なんかすっごーい!」
ジーニーさんの解説にパールが納得したところで、僕たちは宿屋に入ることに。
「ほらユキ、入るゾ」
「だけど姉さん、もしかしたら罠があるかも……」
「そんなわけないだロ! ほら、早く早く~!」
警戒して入るのを渋るユキをフブキが引っ張りいれたところで、宿屋の女将さんが声をかけてくる。
「あらいらっしゃい」
「女将さん、とりあえず一泊頼めるかしら?」
「はいよ。部屋割りはどうするんだい?」
部屋割りかー。仲間も増えてきたし、一部屋じゃ窮屈かも。
そんなことを考えていたら、ジーニーさんがこんな提案をした。
「それじゃあ二部屋用意できないかしら。――パールちゃん、あなただけ別部屋でも大丈夫ね?」
「うん、わたしは平気だよ」
なるほど、まだ幼いフブキとユキにはジーニーさんがついてくれるのか。
そうして僕・パールとジーニーさん・フブキ・ユキの組み合わせで二部屋とることに。
「それじゃあゆっくり休むのよ~」
「はーい」
フブキとユキを連れたジーニーさんが部屋に消えたところで、パールも僕と一緒に部屋へ入る。
「なんか久々に二人きりだねっ」
「あ、うん」
何だろう、パールにそう言われると急に照れ臭くなってきた。
「それじゃあ今日はもう休もうか」
「そうだね、お休みエリオス」
パールが簡素なベッドに飛び込むなり寝息をたてたところで、僕も窓際で休息をとることにする。
しばらくウトウトしてたら、突然甲高い悲鳴が聞こえてきた。
この声は、ユキのか?
この叫び声で目を覚ましたのか、パールも目をパチクリさせている。
「何だろう~?」
「あっちの部屋からだ」
パールの肩に飛び乗って隣の部屋に入ると、そこには湯浴みのため服を脱いでいたジーニーさんたち三人がいたんだけど。
「え、……ふええっ!?」
下半身だけ裸のユキを前にして、瞬時に顔を隠すパール。
「あ、あ、あ……!」
涙ぐむユキの下半身、そこには女の子ならあるはずのないものが……ついていた。
「ユキ、キミ男の子だったの……!?」
僕がそう口にするのと同時に、ユキはそのまま泣きじゃくる。
「……コホン、とりあえず話を聞こうか。一体何があったの?」
「エリオスさん、実は……」
ジーニーさんが遠慮がちに語り出したのは、ちょっと前の顛末だった。
*
ジーニーとフブキとユキの三人は、一つの部屋で思い思いにしていたのだが。
「ふいーっ! ふかふかのベッドだゾ~!」
「姉さん、そんなところで暴れたらベッドが壊れてしまいますよ」
「むーっ、フブキはそんなヘマしないゾ」
双子のユキにたしなめられて、ぷくーっと頬を膨らませるフブキ。
そんな双子のやり取りを、年長のジーニーは微笑ましく見守っていた。
「二人は本当に仲良しなのね」
「ああ! フブキとユキは最高の双子なんだゾ!」
「姉さんとボクは一蓮托生、いえ一心同体ですね」
お互い肩を組み合うフブキとユキに、ジーニーは柔和に微笑んでその隣に座る。
「お姉さんも混ぜてくれると嬉しいな~」
「うむ! ジーニーも仲間だゾ!」
「…………」
快く受け入れて抱きついてきたフブキとは対照的に、ユキはどこか居心地悪そうにジーニーの目には映った。
「どうしたの、ユキちゃん?」
「いえ、姉さん以外の人がそばにいるのが少し慣れなくて……」
うつむくユキ、そこでジーニーはポンと手を叩いてこんなことを。
「そうだわ、こんなときは裸の付き合いが一番よ!」
「はだか?」
「……!?」
「そうよ。人はね、親身な間柄で裸を見せ合うことでより絆が強まるの。ちょっと待ってて、今お湯をもらってくるから」
そう言ってジーニーが部屋を出た後、ユキはフブキと顔を見合わせた。
「どうしましょう……?」
「フブキは何の問題もないと思うゾ」
「だってボクは……」
「――お湯をもらってきたわよ~」
すると程なくしてジーニーさんがたらいを持ってきて、もらったお湯を並々と注ぐ。
「やっぱり一日の終わりは湯浴みよね~」
そう言いながら服をするするっと脱いでいくジーニーから、ユキが顔を背けた。
「あら、どうしたのユキちゃん?」
「…………」
「ユキ! おまえも服を脱ぐんだゾ!」
一足早く服を脱いだフブキがユキのスカートを強引に下ろした瞬間、ユキがけたたましい悲鳴を上げ、
「ひっ、いやああああああああ!!」
「――まあっ」
ジーニーもまた
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