第30話 パロットシティーでの出来事
*
「……というわけなの」
服を着直したジーニーさんの説明をよそに、同じくスカートを着直したユキが部屋の隅っこでふてくされている。
「まさかユキちゃんが男の子だなんて思わなくて、悪いことしちゃったわ……」
そう語るジーニーさんは申し訳なさそうに顔をかしげていた。
するとここで口を開いたのはフブキである。
「ユキ、なんで男であることを隠していたんダ?」
「姉さん……。ボクが男であると皆さんに知られたら、姉さんといつでも一緒にいられなくなると思いまして……」
「ユキ、おまえ……」
そう告げるユキの顔は切実に見えて、フブキは言葉を失っていた。
そんなフブキの腕にしがみついたユキがこんなことを頼みだす。
「お願いです皆さん、男のボクであっても姉さんから引き離さないでください!」
「ユキ……。フブキからも頼む、ユキとはこれまで通り接してほしいんだゾ」
そんな二人のお願いを、僕たちは受け入れることにした。
「分かった、僕もキミたちを引き裂くのはやぶさかではない」
「わたしも気にしないよ。だからこれからも仲良くしようね、ユキちゃん」
「エリオスさん、パールさん……!」
涙ぐむユキに、ジーニーさんは腰を落としてこう言う。
「ユキちゃん、男の子であってもユキちゃんはユキちゃんよ」
「ジーニーさん……はい、どうやらボクの考えすぎだったみたいですね」
こうして僕たちはフブキとユキの二人と、より絆を強めたんだ。
翌日、僕たちはパロットシティーを出発する前に、冒険のための買い出しに出掛けることにした。
「はわ~!」
「おお……」
フブキとユキの二人が市場の賑わいに目を丸くしている。
「もしかして二人とも、こう言う場所は初めてかしら?」
「はい。ボクたち故郷の里から出たことがほとんどなかったもので……」
「そうだったんだ……」
ユキの口から語られた双子の事情に、パールは難しそうな顔をした。
「パールもちょっと前までは似たようなものだったでしょ」
「そういえばそうだった、てへっ」
ペロッと舌を出しておどけるパールに、僕は苦笑する。
そうかと思えばフブキがジーニーさんの手を引き始めた。
「なあジーニー! あっちにうまそうなのがあるゾ!!」
ボクたちは串肉を焼いてる屋台の前にやってきた。
「へいらっしゃい!」
「串肉を四本頼むわ」
「毎度あり! 連れは妹たちかい? 牛の姉ちゃん」
「いいえ、旅の仲間よ。でも可愛い子たちなの」
「そうかい。――はいお待ちどう!」
屋台のおっちゃんからこんがり焼けた串肉を受け取ったジーニーさんは、フブキたちにも一本ずつ配る。
「これ食っていいのカ!?」
「もちろんよフブキちゃん」
「わーい!」
ジーニーさんから受け取った串肉にかぶりつくなり、フブキは目を星空のようにキラキラと輝かせた。
「むう!? これすっごくうまいゾ!!」
「こんな美味しいの、ボクも初めて」
「うんうん、こういう味も旅の醍醐味だよねっ」
いつになく難しい言葉を使うパールは、多分フブキたちの前でお姉さんぶりたいのだろう。
僕から見たら三人とも等しく子供みたいなものだけど。
『エリオス様もすっかり思考が老人になりましたね』
「誰がおじいちゃんだ!?」
頭の中に届いたジークフリートの辛辣な物言いに僕が独りツッコミをいれると、ユキが不思議そうな顔をする。
「どうしたんですかエリオスさん?」
「ううん、なんでもないよユキ」
そうだ、僕とパール以外にはジークフリートの声が聞こえないんだ。
「エリオス、はいこれっ」
「いただくよパール」
そう思っていたらパールがよく焼けたお肉を差し出してくれたから、僕も嘴で受け取って飲み込む。
うん、やっぱりお肉はうまいっ。
串肉を食べながら町の中心に来たときだった、見上げた空の様子が少し変わってくるのを僕は察知した。
「ん、どうしたのエリオス?」
「見てパール、あそこっ」
僕が目線で示した上空、そこにはいくつもの動く点が見てとれる。
目を凝らすとそれは、旋回する小型の飛竜の群れだった。
「あれはレッサーワイバーンだ!」
「ワイバーンって、空飛ぶドラゴンのこと?」
「そうだよパール。腕の代わりに翼が付いてるのがワイバーン、そう教えたよね」
僕の教えにパールがうんうんとうなづくそばで、町行く人々が上空のレッサーワイバーンを見上げてざわざわとどよめく。
小型とはいえ、人の大人と同じくらいの背丈であるレッサーワイバーンが群れなして飛んでいたら目を引くだろう。
「だけどなんでこんなところにワイバーンが? 小型とはいえゴブリンなんかよりもよっぽど強いわよ」
「「来る(ゾ)!!」」
フブキとユキの指摘と同時に、レッサーワイバーンたちが急降下してきた。
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