第30話 パロットシティーでの出来事


「……というわけなの」


 服を着直したジーニーさんの説明をよそに、同じくスカートを着直したユキが部屋の隅っこでふてくされている。


「まさかユキちゃんが男の子だなんて思わなくて、悪いことしちゃったわ……」


 そう語るジーニーさんは申し訳なさそうに顔をかしげていた。


 するとここで口を開いたのはフブキである。


「ユキ、なんで男であることを隠していたんダ?」

「姉さん……。ボクが男であると皆さんに知られたら、姉さんといつでも一緒にいられなくなると思いまして……」

「ユキ、おまえ……」


 そう告げるユキの顔は切実に見えて、フブキは言葉を失っていた。


 そんなフブキの腕にしがみついたユキがこんなことを頼みだす。


「お願いです皆さん、男のボクであっても姉さんから引き離さないでください!」

「ユキ……。フブキからも頼む、ユキとはこれまで通り接してほしいんだゾ」


 そんな二人のお願いを、僕たちは受け入れることにした。


「分かった、僕もキミたちを引き裂くのはやぶさかではない」

「わたしも気にしないよ。だからこれからも仲良くしようね、ユキちゃん」

「エリオスさん、パールさん……!」


 涙ぐむユキに、ジーニーさんは腰を落としてこう言う。


「ユキちゃん、男の子であってもユキちゃんはユキちゃんよ」

「ジーニーさん……はい、どうやらボクの考えすぎだったみたいですね」


 こうして僕たちはフブキとユキの二人と、より絆を強めたんだ。



 翌日、僕たちはパロットシティーを出発する前に、冒険のための買い出しに出掛けることにした。


「はわ~!」

「おお……」


 フブキとユキの二人が市場の賑わいに目を丸くしている。


「もしかして二人とも、こう言う場所は初めてかしら?」

「はい。ボクたち故郷の里から出たことがほとんどなかったもので……」

「そうだったんだ……」


 ユキの口から語られた双子の事情に、パールは難しそうな顔をした。


「パールもちょっと前までは似たようなものだったでしょ」

「そういえばそうだった、てへっ」


 ペロッと舌を出しておどけるパールに、僕は苦笑する。


 そうかと思えばフブキがジーニーさんの手を引き始めた。


「なあジーニー! あっちにうまそうなのがあるゾ!!」


 ボクたちは串肉を焼いてる屋台の前にやってきた。


「へいらっしゃい!」

「串肉を四本頼むわ」

「毎度あり! 連れは妹たちかい? 牛の姉ちゃん」

「いいえ、旅の仲間よ。でも可愛い子たちなの」

「そうかい。――はいお待ちどう!」


 屋台のおっちゃんからこんがり焼けた串肉を受け取ったジーニーさんは、フブキたちにも一本ずつ配る。


「これ食っていいのカ!?」

「もちろんよフブキちゃん」

「わーい!」


 ジーニーさんから受け取った串肉にかぶりつくなり、フブキは目を星空のようにキラキラと輝かせた。


「むう!? これすっごくうまいゾ!!」

「こんな美味しいの、ボクも初めて」

「うんうん、こういう味も旅の醍醐味だよねっ」


 いつになく難しい言葉を使うパールは、多分フブキたちの前でお姉さんぶりたいのだろう。


 僕から見たら三人とも等しく子供みたいなものだけど。


『エリオス様もすっかり思考が老人になりましたね』

「誰がおじいちゃんだ!?」


 頭の中に届いたジークフリートの辛辣な物言いに僕が独りツッコミをいれると、ユキが不思議そうな顔をする。


「どうしたんですかエリオスさん?」

「ううん、なんでもないよユキ」


 そうだ、僕とパール以外にはジークフリートの声が聞こえないんだ。


「エリオス、はいこれっ」

「いただくよパール」


 そう思っていたらパールがよく焼けたお肉を差し出してくれたから、僕も嘴で受け取って飲み込む。


 うん、やっぱりお肉はうまいっ。


 串肉を食べながら町の中心に来たときだった、見上げた空の様子が少し変わってくるのを僕は察知した。


「ん、どうしたのエリオス?」

「見てパール、あそこっ」


 僕が目線で示した上空、そこにはいくつもの動く点が見てとれる。


 目を凝らすとそれは、旋回する小型の飛竜の群れだった。


「あれはレッサーワイバーンだ!」

「ワイバーンって、空飛ぶドラゴンのこと?」

「そうだよパール。腕の代わりに翼が付いてるのがワイバーン、そう教えたよね」


 僕の教えにパールがうんうんとうなづくそばで、町行く人々が上空のレッサーワイバーンを見上げてざわざわとどよめく。


 小型とはいえ、人の大人と同じくらいの背丈であるレッサーワイバーンが群れなして飛んでいたら目を引くだろう。


「だけどなんでこんなところにワイバーンが? 小型とはいえゴブリンなんかよりもよっぽど強いわよ」

「「来る(ゾ)!!」」


 フブキとユキの指摘と同時に、レッサーワイバーンたちが急降下してきた。

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