第4話 新たな勇者に選ばれし少女


「はあ、はあ、はあ……!」


 わたし、パールはがむしゃらに森の中を走っていた。


 魔物って、勇者がやっつけたあの怖いのだよね……?


 そんなのが本当にいるなんて!


「はあ、はあ……!」


 無我夢中で走っていたら、突然わたしの頭にだれかの声が届いたんだ。


『ああ、エリオス様……!』


「ふえっ、この声は~!?」


 わたしがビックリしていると、声が頭に直接語りかけてきた。


『もしやワタシの声が聞こえるのですか!?』

「うん、聞こえるよ! あなたはだれ?」

『説明は後です、とにかくこちらへ来てください!』

「う、うん!」


 不思議なことにわたしは迷うことなくある地点を目指していたんだ。


 あの声が導いてくれているんだよ、きっと。


 このまま走り続けていると、森の中でぽっかりと開けた場所に赤い剣が刺さってた。


「もしかして、あなたがわたしを呼んだの……?」

『はい。ワタシは竜血剣ジークフリート、勇者エリオスの剣でございます』

「ジーク、フリート……!」


 そうだよ、勇者様は血のように真っ赤な剣で魔王と戦っていたって、おばあちゃんが話してた!


「でもどうして勇者様の剣がここにあるの? なんでわたしを呼んだの?」


 質問攻めにするわたしに、ジークフリートはあせって答える。


『一つ一つ答えている時間はございません』

「それってどういうこと?」


 首をかしげるわたしにジークフリートは宙に何かを映しだした。


「え、エリオス!?」


 そこではゴブリン、だったかな。三匹の魔物とフクロウのエリオスが戦っていたんだ。


『クキャキャキャ!』

『クキャーーッ!』

『クキャキャキャ!』


 だけどエリオスはゴブリンたちによってたかっていじめられていて苦しそう。


「なんで、なんでエリオスはこんなことを……?」


 わたしは見ていられなかった、エリオスが傷ついて、苦しそうな顔で戦うのを。


『――それはアナタを逃がすためです』

「わたしを?」

『はい。アナタを無事に逃がすためにエリオスは無謀にも立ち向かっているのです、勇者の生まれ変わりとして』

「そんな……! だけどこのままじゃエリオスが死んじゃうよ!!」


 わたしが焦る間にも、エリオスはゴブリンに足を掴みあげられて乱暴に振り回されている。


『く……っ!』


「エリオス!」


 もう見てられないよ!!


「ねえジークフリート、わたしにエリオスを助けられないかなあ!?」


 わたしが質問すると、ジークフリートはそれを待っていたかのように答えた。


『よくぞ言ってくださいました。さあワタシを抜くのです、次期勇者様・・・


 え、勇者? わたしが……!?


「そんな! わたしが勇者だなんてあり得ないよ!!」

『そのようなことはございませんお嬢様、現にワタシの声が聞こえているではないですか』

「それは……そうだけど~」

『時間がありません、早くワタシを抜くのです!』

「う~~~っ、分かった!」


 決めた、わたしがエリオスを助ける勇者になるんだ!


 決心したわたしは、ジークフリートの柄を掴む。


「ううっ!?」


 その途端ジークフリートからわたしの身体にものすごい力が流れてくるように感じたんだ。


 だけどイヤじゃない、逆に身体に馴染むみたいだよ!


「うおおおおおお!!」


 わたしが全力を込めた瞬間、ジークフリートが地面から抜けた。



「はあ、はあ……っ!」


 どうやらパールは無事に逃げてくれたみたいで良かったよ。


「クキキキキキ……っ」


 だけどこれはどうしたものか、僕は足をゴブリンに掴まれていた。


 餌として品定めしているのか、ゴブリンは口からだらだらとよだれを垂らして僕を見つめている。


 そんな汚い顔で僕を見てくれるな。


 悪態もつきたくなるけど、か弱いフクロウの僕にはもうどうしようもない。


 魔力も体力も初動で使い果たして、これ以上ゴブリンに抗うことができなくなっていた。


 そのうち僕は足を掴まれたままゴブリンに振り回され、地面に叩きつけられたりする。


 全身フワフワの羽毛に包まれてるからそれほどダメージはないけど、今の僕に待っているのが死の運命であることは明白だった。


 ああパール、想い人の生き写しのキミに少しでも出会えて本当に良かったよ。


 愛しのパールキア、今度こそそっちに行くから。待ってるよね……?


 全てを諦めて死を受け入れた次の瞬間、とてつもない魔力の奔流が迫ってきた。


「クキャアアアアア!!」


 赤く強力な魔力の奔流に、僕を掴んでる奴の隣にいたゴブリンが呑まれる。


 一瞬で魔力が収まった後には、ゴブリンの痕跡は消し炭一つ残らなかった。


 この魔力、覚えがある。


 他でもない僕が使いこなしていた、竜血剣ジークフリートの力だ。


 でもどうして?

 剣である以上誰かが抜いて振るわなければその力は発揮されないはず。


 その謎はすぐに解けた。


「はあ、はあ、はあ、はあ……!」

「キミは……パール……!?」


 なんとジークフリートを構えていたのは、少女のパールだったんだ。


 まさかパールが次期勇者に選ばれたというのか……!?


「どう……して……?」

「はあ、はあ……エリオス、助けにきたよ……!」


 華奢な肩を上下させながらパールは、深紅の瞳に確固たる闘志の炎を宿らせている。


「クギギギ……!」


 これにはゴブリンも怖じ気づいたのか、ジリリと後退り。


「エリオスを……いじめるなあああああああ!!」


 パールの怒号と共に放たれた膨大な魔力によって、残っていた二匹のゴブリンも跡形もなく消し飛ばされた。


 不思議なことに僕だけは魔力に呑まれても無事だった、きっとジークフリートが加減してくれたんだろう。


 ゴブリンから解放されてポテッと地面に落ちた僕は、よろよろと歩み寄るパールに抱き上げられた。


「エリオス、大丈夫~!?」


 先ほどまでの殺気が嘘だったかのように、パールの顔は涙でグシャグシャになっている。


「うん、キミが助けてくれたおかげで僕は平気だよ」

「よかった~~!!」

「ほふっ!?」


 すると今度はパールが涙まみれの顔を僕の腹に押しつけた。


「はははっ、しょうがないなあ」


 泣きじゃくるパールを慰めるように、僕は翼で彼女の頭をさすってあげる。


 ……しかしジークフリートがこんないたいけな女の子を次の持ち主マスターに選ぶなんて。


 後でジークフリートを問い詰めなくちゃ。

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