第32話 グリフォン襲来


 翌日パロットシティーを出た僕たち一行は、王都エリスに向けて再び馬車で進み出した。


「それにしても昨日の出来事は何だったんだろう~?」

「もしかしたら王都での魔物騒動と何か関係があるかもしれないわ」

「え、そうなのジーニーさん!?」


 あごをなでて考え込むジーニーさんに、パールが驚いたような声をあげる。


「確かなことは分からないわ、でも何か胸騒ぎがするの」


 そう言ってジーニーさんは、豊満な胸の前に両手を添えた。


『……エリオス様、やはりあなたは女性の胸が……』

「毎度のことだけど、そんなんじゃないからね!?」


 僕がムキになって否定した時だった、突然嫌な気配を感じたので馬車から飛びだす。


「エリオス?」


 馬車の幌に留まって辺りを見渡すと、西の空から大きな何かがこっちに向かって飛んでくるのが見えた。


 猛禽のような頭と翼に獅子のような胴体、間違いない。


「グリフォンだ!!」


「グリフォンですって!?」


「ジーニーさん、知ってるの!?」


 問いかけたパールに、ジーニーさんが鬼気迫る口調で説明する。


「鳥の頭と獣の胴体を併せ持った空の魔物よ。腕利きの騎士が束になって勝てるかどうかの強敵なの、それがどうしてこんなところに……!」


 ジーニーさんの言う通り、グリフォンは本来人里離れた山岳地帯に多くいた魔物だ。


 それがこんな町のすぐ近くに来てるなんて!


「来る!」


「クァーーーー!!」


 僕の呼び掛けとほぼ同時に、金切り声をあげたグリフォンが馬車に向かって急降下してきた。


「みんな! 馬車から降りるんだ!!」

「う、うん!」

「ボクたちも降りましょう」

「そ、そうだナ!」


 慌ててみんなが馬車から飛び降りた瞬間に、グリフォンの鋭い爪が馬車を真っ二つに切り裂いたんだ。


「ああ、馬車が!」

「クルルル……!」


 馬車を壊されて顔面蒼白のジーニーさんに、グリフォンの鋭い眼光が向く。


「クァーーーー!!」


 それからグリフォンが間髪いれずに地面を蹴ってこっちに飛び込んできた。


「ジーニーさん危ない!!」


 即座にジークフリートを抜いたパールが、刀身でグリフォンの爪をすんでのところで食い止める。


 その瞬間飛び散る火花!


「うっ、ぐぎぎ……っ!」


 だけど彼女の不完全な筋力で、グリフォンの前足を受け止め続けるのは無理があった。


「クァーーーー!!」


「パール!!」


 慌てて飛んでいった僕が、グリフォンの目前にまで迫り。


「食らえ、フェザーニードル!」


 針のように鋭く尖らせた羽根を飛ばして、奴の片目を潰した。


「クァアアアアアア!!」


 その途端にグリフォンが振るった前足に弾かれて、僕は地面を転げてしまう。


「ぐっ!」

「エリオスーー!!」

「パール! 僕のことよりも今は目の前のグリフォンに集中するんだ!!」

「わ、分かった!」


 すぐに立ち上がって肩に留まった僕の命令で、パールがジークフリートを構える。


「フブキたちも助太刀するゾ!」

「はい、姉さん!」


 フブキとユキの二人も形成した氷のハンマーを手にして、背中合わせで備えた。


「クァーーーー!!」


 するとグリフォンは大きな翼を羽ばたかせて突風を起こし始める。


「ううっ!」

「なんて力なの!?」

「吹き飛ばされるゾ……!」

「姉さん、こらえてください……!」


 その強烈な風圧に、パールたちは懸命に踏ん張るのがやっと。


 僕もパールの肩に爪を立てて吹き飛ばされないようにするのが精一杯だった。


「クァーーーー!!」


 死に物狂いで翼を羽ばたかせるグリフォン、その背後の樹上に人影が見え隠れしている。


 あれは……?


「――ストライクショット!!」


 その時、背後から放たれた一閃の矢がグリフォンの脳天を貫く。


「クァアアア……!」


 急所を射抜かれたグリフォンは、力なく倒れ付した。


「……あれ?」

「一体何があったのかしら?」


 キョトンとするみんなの前で、何者かが木から飛び降りる。


「そこの皆さん、大丈夫ですか?」

「キミは……!」


 そう告げて歩み寄る麗しい少女の姿に、僕は心当たりがあった。


 横に長い木の葉のような耳に、リボンで可愛く結ばれた黄緑色の長い横髪。

 狩人よろしく身軽な装いをしたエルフ娘の名前を、僕は思わず口にしていた。


「サレン、なのか……!?」

「え、なんでアタシの名前知ってんの!? ヤッバ~!!」


 口許を押さえる彼女の華奢な肩に、僕は柔らかな翼を羽ばたかせて飛び乗る。


「サレン。僕だよ、エリオスだよ」

「え、ウソっ! エリオスなの~!? ……だけどなんでそんな姿してんの? チョーうけるんだけど~!!」


 やたら砕けた口調になったサレンにワシワシと頭をなでられて、僕も目を細める。


「僕も嬉しいよ、まさかまたキミと会えるなんて思っても見なかった」


 時を超えた再会の喜びを分かち合う僕とサレンに、控えめに口を挟んだのはパールだった。


「あの~、そのヒトは?」

「ああ、パールたちにも紹介しないとね。彼女はサレン、二百年前の僕に力を貸してくれたエルフの女の子だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔王と刺し違えた勇者、フクロウに転生す。~辺境の村で次世代の勇者を育成します 月光壁虎 @geckogecko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ