魔王と刺し違えた勇者、フクロウに転生す。~辺境の村で次世代の勇者を育成します
月光壁虎
第1話 フクロウになった勇者
魔王の根城で今、世界の運命を左右する戦いが繰り広げられていた。
「フハハハハ、貴様の力はその程度か勇者エリオスよ!」
無傷で高笑いする魔王に対し、勇者エリオスとただ一人生き残った仲間のパールキアは共に満身創痍で膝を着いている。
「まだだ、命ある限り僕は諦めない……!」
竜血剣ジークフリートの赤い刀身を支えに立ち上がろうとするエリオス。
「……さすがにここまでしぶといと煩わしいな。死ね」
魔王は顔をしかめて手を突きだし、膨大な暗黒の魔力を放った。
「エリオス――っ!」
そこへエリオスを庇うように割って入ったのは、仲間の少女パールキアだった。
「ああああっ!」
「パールキア!」
暗黒の奔流をその身に受けるパールキアに、エリオスは悲鳴を上げる。
「……あなたの好きにはさせないわ、魔王ダースモルト……! ――エクセレント・リヒト!!」
致命傷を被りながらも、パールキアは力を振り絞り最上位の聖なる魔法で魔王に抗った。
「ぐぅ、馬鹿な……!」
「……今よエリオス、……あなたの力で魔王にトドメを刺し……て……」
「パールキア!!」
力を使い果たして崩れ落ちるパールキアを見届けたエリオスは、歯をギリッと噛み締めて剣を握る力を強める。
「最後まで守れなくてごめん、パールキア。すぐキミの元に行くから、待っててくれ。――ブレイブ・デストラクション!!」
頬を伝う涙を拳で拭い、エリオスは魔王に剣を突き立てて最後の奥義を繰り出した。
その途端放出される勇者の膨大な魔力に、魔王はなす術もなく呑み込まれる。
「馬鹿な、この我輩が人間風情に負けるなどおおおおおお!!」
根城もろとも消滅させる勢いで膨れ上がる魔力。
勇者の命を賭けた一撃によって、世界は魔王の支配から解放されたのだった。
*
ん、んん……っ。
あれ、なんだか頭がボーッとする……。
静かに目を開けると、視界に入ったのは誰かの部屋みたいな空間だった。
周りを見渡してみる――不思議なことに一度首を回しただけで四方を見ることができた――と、木彫りの人形や桃色のベッドなど可愛らしい装いが見てとれる。
ここはどこだ……? それと僕はあの時魔王と刺し違えて死んだはず……。
湧いて出てくる疑問の数々に首をかしげたら、ふと鏡に信じられない姿が写り込むのが目に飛び込んだ。
つぶらな黒い瞳に小さく曲がった嘴と白く平らな顔。
フワフワの茶色い羽毛に包まれた丸い身体に、ちょこんと生える足には鋭い爪が伸びている。
この姿には見覚えがあった。
紛れもなくフクロウそのものの姿、でもなんで鏡にそんなのが……?
試しに手を挙げてみると、代わりに翼が開く。
それから一通り身動きしてたどり着いた結論は一つだった。
この愛くるしい一羽のフクロウこそ、今の僕なんだ!
信じがたい事実に、僕は目の前が真っ暗になる思いに。
「な、なんてことだ……!」
ついでに判明したことだけど、どうやらこの姿でも言葉を話すことができるみたいだ。
結局僕はパールキアの魂と再会できないまま、またこの世に生を受けてしまったのか……。
落胆していると目の前の扉が勢いよく開けられて、その向こうから一人の女の子が飛び込んできた。
「あーっ、フクロウさん! 気がついたんだね!」
「あ、あ……」
頭の横で一つに結ばれた真珠色の髪に、ぱっちりとした深紅の瞳。
格好こそよくいる村娘のものではあるが、彼女の顔は死に別れたはずのパールキアと瓜二つだった。
「あれ、どうしたのフクロウさん? ていうか今しゃべった~!?」
そうかと思えば女の子は一人で混乱に陥っている。
「あ、あの……。ちょっと落ち着こうか」
「落ち着いてなんかいられないよ! だって助けたフクロウがしゃべったんだよ~!?」
あんまり彼女が取り乱すものだから、僕は大きめに咳き込んで無理やり止めた。
「とりあえずっ、キミのお名前は何て言うのかな?」
「え? パールだけど……」
「パール、か。――可愛らしい名前だね、よく似合ってるよ」
「えへへ、そうかな~?」
僕のお世辞を真に受けたのか、パールと名乗った女の子はデレデレと身をくねらせる。
僕の知るパールキアはもっと聡明だったはず、……似てるのは見た目だけか。
「コホン。僕の名前はエリオスだよ」
あれ、僕が名乗ったらパールが深紅の瞳を真ん丸にしちゃったよ。
「え、エリオスって勇者様の名前だよね?」
「僕を知ってるの!?」
「知ってるも何も、二百年前に世界を救った勇者様だって、おばあちゃんがそう言ってた!!」
え、二百年前……?
それはつまり、今はあれから二百年経った未来の世界ってこと!?
さらっとパールが口にした衝撃の事実で、僕は目の前がチカチカしてしまうようだった。
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