魔王と刺し違えた勇者、フクロウに転生す。~辺境の村で次世代の勇者を育成します

月光壁虎

第1話 フクロウになった勇者

 魔王の根城で今、世界の運命を左右する戦いが繰り広げられていた。


「フハハハハ、貴様の力はその程度か勇者エリオスよ!」


 無傷で高笑いする魔王に対し、勇者エリオスとただ一人生き残った仲間のパールキアは共に満身創痍で膝を着いている。


「まだだ、命ある限り僕は諦めない……!」


 竜血剣ジークフリートの赤い刀身を支えに立ち上がろうとするエリオス。


「……さすがにここまでしぶといと煩わしいな。死ね」


 魔王は顔をしかめて手を突きだし、膨大な暗黒の魔力を放った。


「エリオス――っ!」


 そこへエリオスを庇うように割って入ったのは、仲間の少女パールキアだった。


「ああああっ!」


「パールキア!」


 暗黒の奔流をその身に受けるパールキアに、エリオスは悲鳴を上げる。


「……あなたの好きにはさせないわ、魔王ダースモルト……! ――エクセレント・リヒト!!」


 致命傷を被りながらも、パールキアは力を振り絞り最上位の聖なる魔法で魔王に抗った。


「ぐぅ、馬鹿な……!」

「……今よエリオス、……あなたの力で魔王にトドメを刺し……て……」


 力を使い果たして崩れ落ちるパールキアを見届けたエリオスは、歯をギリッと噛み締めて剣を握る力を強める。


「最後まで守れなくてごめん、パールキア。すぐキミの元に行くから、待っててくれ。――ブレイブ・デストラクション!!」


 頬を伝う涙を拳で拭い、エリオスは魔王に剣を突き立てて最後の奥義を繰り出した。


 その途端放出される勇者の膨大な魔力に、魔王はなす術もなく呑み込まれる。


「馬鹿な、この我輩が人間風情に負けるなどおおおおおお!!」


 根城もろとも消滅させる勢いで膨れ上がる魔力。


 勇者の命を賭けた一撃によって、世界は魔王の支配から解放されたのだった。



 ん、んん……っ。


 あれ、なんだか頭がボーッとする……。


 静かに目を開けると、視界に入ったのは誰かの部屋みたいな空間だった。


 周りを見渡してみる――不思議なことに一度首を回しただけで四方を見ることができた――と、木彫りの人形や桃色のベッドなど可愛らしい装いが見てとれる。


 ここはどこだ……? それと僕はあの時魔王と刺し違えて死んだはず……。


 湧いて出てくる疑問の数々に首をかしげたら、ふと鏡に信じられない姿が写り込むのが目に飛び込んだ。


 つぶらな黒い瞳に小さく曲がった嘴と白く平らな顔。

 フワフワの茶色い羽毛に包まれた丸い身体に、ちょこんと生える足には鋭い爪が伸びている。


 この姿には見覚えがあった。


 紛れもなくフクロウそのものの姿、でもなんで鏡にそんなのが……?


 試しに手を挙げてみると、代わりに翼が開く。

 それから一通り身動きしてたどり着いた結論は一つだった。


 この愛くるしい一羽のフクロウこそ、今の僕なんだ!


 信じがたい事実に、僕は目の前が真っ暗になる思いに。


「な、なんてことだ……!」


 ついでに判明したことだけど、どうやらこの姿でも言葉を話すことができるみたいだ。


 結局僕はパールキアの魂と再会できないまま、またこの世に生を受けてしまったのか……。


 落胆していると目の前の扉が勢いよく開けられて、その向こうから一人の女の子が飛び込んできた。


「あーっ、フクロウさん! 気がついたんだね!」

「あ、あ……」


 年齢としは十くらいだろうか。

 頭の横で一つに結ばれた真珠色の髪に、ぱっちりとした深紅の瞳。


 格好こそよくいる村娘のものではあるが、彼女の顔は死に別れたはずのパールキアと瓜二つだった。


「あれ、どうしたのフクロウさん? ていうか今しゃべった~!?」


 そうかと思えば女の子は一人で混乱に陥っている。


「あ、あの……。ちょっと落ち着こうか」

「落ち着いてなんかいられないよ! だって助けたフクロウがしゃべったんだよ~!?」


 あんまり彼女が取り乱すものだから、僕は大きめに咳き込んで無理やり止めた。


「とりあえずっ、キミのお名前は何て言うのかな?」

「え? パールだけど……」

「パール、か。――可愛らしい名前だね、よく似合ってるよ」

「えへへ、そうかな~?」


 僕のお世辞を真に受けたのか、パールと名乗った女の子はデレデレと身をくねらせる。


 僕の知るパールキアはもっと聡明だったはず、……似てるのは見た目だけか。


「コホン。僕の名前はエリオスだよ」


 あれ、僕が名乗ったらパールが深紅の瞳を真ん丸にしちゃったよ。


「え、エリオスって勇者様の名前だよね?」

「僕を知ってるの!?」

「知ってるも何も、二百年前に世界を救った勇者様だって、おばあちゃんがそう言ってた!!」


 え、二百年前……?


 それはつまり、今はあれから二百年経った未来の世界ってこと!?


 さらっとパールが口にした衝撃の事実で、僕は目の前がチカチカしてしまうようだった。

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