ep.2 女王様! 空から白髪の男が…!

 チリンチリ~ン♪

「テリヤキ、しょうゆ。こっちだぞー」


 散歩の道中。

 イシュタが散歩がてら、手に持っているすももサイズの鈴を鳴らし、平地の大きな道の横でばらけているソースラビットたちを誘導していた。


 顔がウサギで、体はシカの、不思議な草食動物たち。

 これから近くでドワーフ達の建築工事が行われるのもそうだけど、安全のため、その人懐っこい子達を1ヶ所の草陰へと纏めたのであった。


「『テリヤキ』に『しょうゆ』って… この子達、まさかみんな同じ人がつけた名前?」


 僕は嫌な予感がしたので一応訊いてみる。サリバが答えた。

「そうだよ。女王様が」

 やっぱり! 僕は僅かに天を仰いだ。

 こんな奇抜なネーミングセンスで国を掌握するなど、あのマニュエルがする訳ないのだからある意味、予想通りすぎて一種の安心すら覚えてしまう。ところで、


「そういえば前に噂で聞いたけど、2人の両親って、実の親じゃないんだってな?」

 僕はここ最近、小人たちの噂を耳にした事でふと思い出し、2人に質問した。

 ソースラビットも一ヶ所に集まったところで、揃って散歩の足を止めるサリイシュ。


 その表情には、少し戸惑いもあるようだが、答えられないほどではないようだ。




 そのころ。遥か上空からは、少しずつ先の流れ星が、僕達の真上へと迫ってきていて――




「そうだな… 僕達の親はともにハーフリングで、それぞれの実の両親は、もうこの世にいないらしいんだ」


 まぁ、そうだろうな。

 同じ両親のもと、同時に育てられてきてお互いを「幼馴染」と言っていた時点で、2人が姉弟でない事は分かっていた。続けて、サリバがこう告げる。


「その事を私達が知ったのは、中学校ミドルスクールに上がってからかな。最初はビックリしたけど、それでも私達を育ててくれた両親には、今も感謝しているの」


「両親はアガーレールが建つ前から、女王様と親しくしていたみたいでね。当時は数少ない女王様の理解者であるとともに、建国祭には、僕達も知らなかった家宝を女王様に預けたのだと聞いて驚いたよ」


「家宝… って、あのアゲハがつけているピンクの雫型をしたアクセサリーのこと!?」




 このとき、僕達はまだ、気づいていない。

 今、空からその“流れ星”が、青い炎の緒を引きながら、どんどん僕達の「近く」へと落ちてきていることに――!




 さて視点を戻して。

「うん。『時期が来たら2人に返す』とは言っていたけど、その時期ってのが何なのかは教えてもらえなくて…」


「あー、そういえば俺に対しても同じ事を言っていたなアゲハ。でも、時期って何だろ?」


「さぁ。多分、高校カレッジを卒業して、自分のやりたい仕事を見つけたら、じゃないかな?」

 と、サリイシュは予想する。その考察には一理あった。

「そっか。でも、そうだよな。先住民の小人たちだけでなく、アゲハもマニーも、あと他の仲間達も、いつの間にか自分たちのやりたい事を見つけている感があるよ」


「そうだね。私、前に海の家を見に行ったら、マリアが海や川で使えるグッズを売りに出していたよ。閑散期には、ハーフリング達の手伝いもしに行っているみたいで」


「僕も見たよ。他の人達もみな、あの富沢商会とのイザコザが終わって以来、どんどん仕事をはじめている。

 確かリリーとルカは宅建? という役割で、建築の指示役をやっていて、マイキさんは勇者様と同じ様に、王宮付近に不審者がいないか見回りをしているってきいたけど」


「うんうん! あとは、キャミはなんか仕立て屋? を建てる計画を考えているみたいで、それを母神ははがみ様が聞かれた内容を元に、完成予定図を絵にしているんだって!」


「へぇ、みんな頑張っているんだな。もう、この異世界で暮らす気マンマンじゃないか」




 流れ星の緒が、大気圏を突破したからか、青から金色へと変わり、虹色に光った!

 そして――




「そうかなぁ? 前にルカが、『国にお世話になっているのだから、こちらも礼儀として、みなさんの役に立たなきゃって思ったんですよ』って言ってたけど――


 そういえば、セリナが働いている姿を見た事ないんだけど、いま何の仕事をしているの?」



 ギクッ!


 そういえば、自分が逆に訊かれる可能性を、想定していなかった。

 というか、これ僕、地味にマズくないか? だって、よく考えたら今こうして暮らせているのも、あの時の冒険も、全部アゲハの金でまかなわれているような!? え、じゃあ…


「あれ? …おっと!? セリナもしかして、まだ仕事が見つかっていない…?」

「え!? えーと」

「うそ!? たいへん! イシュタ、ここは私達が国のみんなにいって、セリナにピッタリの仕事を見つけてあげようよ!」

「うん! そうしよう」

「ちょ、ちょちょちょ待って待って待って2人とも!!! 先住民達に俺の事を言いふらすのだけは、マジで勘弁してくれ!! その、これにはちょっとしたワケが…!」


 ダメだ今の僕、めちゃくちゃダサい。


 てゆうか、純粋な子達の考える事は時に大人を驚かせるほど、マジで容赦ないな!?

 もう色んな意味で怖いし、多分このままだと僕、国の皆から穀潰し扱いされるかもしれない! マズいぞ、この際なんでもいいから早く仕事を見つけないと――




 ヒューー


 ドカーン!!!!!



「うわぁ!」「きゃあ!」「ひいっ!」




 まさかの展開であった。

 ずーっとおしゃべりに夢中で、僕達は空の異変に全く気づいていなかった。

 近くを、その“流れ星”が隕石の如く、耳が破裂しそうな爆音とともに落下したのだ。


 僕達は恐れおののき、耳を塞いだり、尻餅を突いたりした。


 もう、終わりかと思った。

 でも、僕達は生きている。ソースラビット達の集まりからも離れているから、みんな無事。

 そう。その“隕石”は、音のわりに爆風ナシの小規模で済んだのである。



「だぁビックリしたぁぁー!! て、なに…!? 一体、何が降ってきて――」


 僕達は、なんとか体勢を持ち直した。

 だけど、まさか隕石が降ってくるとは… って、まって!? あの赤い煙が上がっているクレーターの中、よく見たら隕石ではない!!



 プシュー。



 クレーターから上がる、煙の奥からは、黒い人影が。

「え、石じゃない…?」

 と、サリバが驚きざまに自身の口元を両手で塞ぐ。

 イシュタも、怯えるような表情をしながら叫んだ。

「ヒ… ヒト!? ヒトが片膝ついてる!?」



 そこへ落下していたものの正体は、なんと僕達と同じニンゲン。


 しかもその人は、僕が最初にこの異世界へ落とされた時とは比べ物にならないほど、派手に降り落とされたのだ。

 段々と鮮明になってきたそれは、白い髪に2本のアホ毛、地黒の肌、そして赤目――



「礼治さん!?」



 そう。

 あの時、代理で地獄にきた先代への引継ぎが終わり次第、自分もここへやってくると約束してくれた、羽柴礼治その人であった。

 僕の仲間の1人である事を証明するため、祭典服を着用して落下した彼は、クレーターの中心で片膝を落としていた。

 魔王の力なのか、よくあんな隕石みたいに火達磨になったであろうに、墜落時には無傷の状態でいられるのが恐ろしい。



 礼治は着陸の衝撃から解放されるさま、後ろの空へ向かってキッと睨みつけた。


 その睨みは、恐らく上界にいるイングリッドとミネルヴァ、通称「ひまわり組」の神々2人に対してだろう。

 僕の時も、あの神々の力あってこそ、この異世界へと辿り着いたのである。

 という事は礼治、かなり雑に落とされた感が… て、流石に仲悪すぎだろう3人とも!


(つづく)

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