ep.8 芹名アキラ、皆にニートだとバレる。

 「さて、ここまでが今回の任務についての概要で、次はメンバー編成について話をしたい。先の想定通りにいけば、石橋の前でその『小さな悪魔たち』に通せんぼされるとして、奴らは遠近両方の魔法攻撃を仕掛けてくる可能性がある。その代わり、物理には弱い」


 げぇ。マニーの説明、まだまだ続きそうだなぁ…


 なんて本音は流石に口に出さないけど、せめてそういう空気を相手に読まれないよう、僕は自らを鼓舞こぶしたものだ。

 すると、ここでジョンとキャミがお互いを一瞥する。2人とも、何かピンときた模様。


「というのが、俺達が今日まで調べて分かった事なんだけど… ここからは、誰がその暗黒城前へ向かうべきか、話し合って決めてほしい。その後の必要な時間や公費については、俺とアゲハの方で準備しておくよ」


 と、マニーがいう。

 一部メンバーからは「了解」という声が上がったのであった。



 しかし、僕達がこうやって任務に参加する事は、とりあえず絶対条件みたいだな。

 まぁ、そもそもの目的が「クリスタルチャームに封印された仲間達を全員解放すること」だから、この件に関してはみな同意なのだろう。現在までに反対派が1人もいないのだ、それだけお互いを信頼しているという事である。任務が順調に進んでいるといってもいい。



「悪魔退治かぁ… それだったら、俺とキャミはとりあえず参加じゃね?」

 と、ようやくジョンが口を開いた。

 随分とだらけた姿勢でくつろいでいるが、これでも実力は確かなもの。先日の、グリフォン20体を相手に戦った様子からも強者ツワモノ感が滲み出ている。正直、ちょっと憎たらしい。


「ジョナサンの遠距離攻撃と、俺の召喚獣を使ったデバフか?」


 そう、キャミが腕を組んで相槌を打った。察しが良い。


「あぁ。セリナが前にその富沢? ってヤツを相手に、同じ戦法でぶちのめしたんだろ? なら、まだ相手に効果があるか分からない戦法でいくより、その過去の戦闘データも組み込んで編成しておいた方が、任務の成功率は上がると思うぜ?」

「だな」

 と、キャミもジョンの意見には同意で、視線を元のマニーへと戻した。


「で、もしその悪魔どもからクリスタルチャームを奪還したら、確かあの先住民の若い男女2人に渡して、まじないで解放してもらうんだったっけか?」

 ジョンもマニーへと振り向き、確認をとる。マニーは神妙な面持ちだ。

「普段はそう。ただ、魂を解放できる力を持っているのは、何もその2人だけじゃないよ」


「え!?」

 僕は意表を突かれた。

 だって、他にそんな人がいないから今までサリイシュに頼んできたんじゃ…!?


「魂の解放は元々、上界の神に備わっている力だ。俺から欲を言わせれば、あの子達にばかり頼むのはかえって2人を危険に晒す羽目になる。だから、今は休ませてあげたいんだよ。


 そうだろう? 礼治さん」


 マニーがそういい、振り向いた先にいるのは、部屋の端の壁にもたれかかっている礼治。


 そうだ、思い出したわ! ごめんすっかり忘れてた(笑)。

 そういえば、前にあのひまわり組の2人も同じ事を言っていたじゃないか! で、今はその「上界の神」の1人である礼治がここにきているから、サリイシュと交代ができると。



「…俺に、ヘル達の魂を解放しろと?」



 もちろん。と言わんばかり、マニーがコクリと頷いた。

 すると、ここでヒナとマリアがワクワクしながら前のめりになった。彼の妻であるヒナが喜ぶのはまだ分かるのだが、マリアのそのワクワクは、ちょっと嫌な予感がするぞ…?


「おーいいねそれ♪ 魂がドーン! と解放された反動で、お兄さんがコケて尻餅をつくところとか見てみたいよ~」

「するか! アキラじゃあるまいし」

 はぁ!? なんで僕を例に挙げるんだよ! 確かに先日の隕石落下で僕コケたけども!

「礼治さん! 解放された魂って、どこに飛んでいくか分からないから気を付けてね♪ 自分の顔面にボーン! ってぶつかるかもしれないから」

「んなドジなことするか! アキラでさえそんなヘマ犯さないのに」

 いやだから何で僕を例に挙げるんだよ!? 僕、そんなポンコツに見えるか!?


 なんて、これには他メンバーも殆どがクスっと笑ってしまう。

 さっきまでの重い空気を緩和するには丁度良いんだろうけど、名指しされた本人にとっては気恥ずかしいんだよな。



「編成は、その3人で決まりみたいだな。ところで、アキラはどうする?」


 と、ここでマニーが僕に質問してきた。僕は「え?」となる。


「もちろん、無理に戦えとは言わないよ。アキラには、この異世界に来てからずっと動いてもらっていたからな。――いま、他にやる事がないのなら、話は別だけど」


「へ…?」


「ここからは俺ではなく、アゲハが担当する話になるんだけど、あいにく本人は体調不良で欠席しているから、今ここで分かる限りの連絡事項を告げる。アゲハ曰く、今この国はどんどん人が増えてきている。それに伴い、近く新たなジョブシステムを導入するそうだ」


「ジョブシステム?」


「さっき俺が、ジョナサン達の任務遂行において必要な時間と公費を準備するといっただろう? 今までもそんな感じで、アキラ達を戦線に立たせてきた訳だけど、いつまでもそのやり方で進めるわけにはいかない。

 規模の拡大によって、こちらの対応が追い付かなくなると、そのうち受け取る側で勝手な金額の設定等が発生し、やがて不平不満の口論へと発展する恐れがある」


「「…たしかに!」」


 と、づちを打ったのはリリーとルカ。

 元きた世界ではともにロースクールに通い、百合の花にちなんだ攻撃魔法やサポートを得意とする2人だ。

 そんな2人が反応するという事はこれ、絶対“それ関係”の話としか…


「だから、俺とアゲハだけで補い切れない部分は、代わりに暇を持て余している人に任せる形となる。いわば取引において公平さを保つための『組合ギルド』の設立だ。アゲハが先日、その件でアキラを名指しし、その案内らしき冊子をもって外へ出たんだけど…」

「いや、貰ってない…! その話、いま初めて聞いたんだけど!?」


 驚きの事実である。

 アゲハが、ジョンのクリスタルを探す時にぼそっと呟いた「あのシステム」って、そういう事だったのか! つまり今、戦いにいく以外に何もやる事がないこの僕に、新たな最適ギルドの設立とその管理職を勤めさせようという…!?


「あれ? という事はセリナくん、今もしかして仕事していない…?」

 と、ルカが冷や汗をかきながらこちらを凝視した。

 僕の背筋が、凍った。

「あら。そういえば、セリナが働いている姿を見た事がないなと思っていたのですが、まさか無職だったなんて」

 やめて~! 僕、これでもちゃんと仕事を見つける気満々だったんだけど!?

「マジかよー!? セリナお前、女王のヒモか!」

 て、おいジョナサン言い方!


 これにはキャミもマイキも、そしてマリアもゴミを見る目で白ける始末。

 ヒナは苦笑いしているし、礼治までもが天を仰ぐ有様だ。

 もう嫌だ、これ完全に公開処刑じゃん… 今ここでいうなんて、ひどいよマニュエル。



「そういう事だから、会議はこれで以上とする。みんな、何か他に意見はある?」


 なんて、僕が今ので精神的ダメージを受けたのにも構わらず、マニーは皆の顔を見据えた。




 もちろん、会議終了後もずっと気まずい空気だったのは、言うまでもない。


(つづく)

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