ep.12 異色のWヒーラー、復活。
空は、もう夕暮れに差し掛かっている。本当に一日が経つのは早いものだ。
今頃、とうに魔族は活発になる頃だろう。城の主が顔を出すのも時間の問題である。
「ふぇ~、夜の森は怖いな。どこかで足を踏み外しそう」
僕がそう呟いたと同時に、ジョンとキャミの足が緩やかになり、荷物を足元に置いた。
礼治も察したか。
「だな。ほんの数分、森の中で過ごそう」
「あぁ。その間に、クリスタルから仲間を解放してやろうぜ」
と、ジョンはいう。僕は疑問を抱いた。
「そのクリスタルチャームって、どこにあるの? さっきから見当たらないけど」
「あぁ、それなら――」
とジョンが話を続けようとした瞬間、悪魔達を銜えている召喚獣達が
悪魔の1体が、力を振り絞って抵抗。暴れて抜けだしたのである!
「まずい!」
僕達は再び臨戦態勢に入った。
召喚獣達の能力である「傲慢」「怠惰」にも抗えるほどだから、貧弱そうな見た目に惑わされず、早めにトドメを刺した方が良いのだろう。
でも、さっきジョンは「体は狙うな」と言ったような。
スパーン!
あっという間だった。礼治、仕事が早い。
彼は躊躇うことなく、逃げようとした悪魔の首を黒焔の片手剣で刎ねたのだ。敵だろうが容赦なく殺せる所は、さすが魔王といったところ。
結果、悪魔の首からはドス黒いヘドロの様なものが吹きだし、そのままポトリと地面へ落下したのであった。
「うえぇ」
「ためらうな! もう1体も動き始めたぞ!?」
なんて指摘が入ったから振り向くと、確かにもう1体も邪悪なオーラを放出させ、必死に召喚獣の口から離れようとしている。
僕は、このまま男4人の中で何もしていないのは良くないので、続けて片手剣を構えた。
「…ごめん!」
スパーン!
僕は慈悲の念を込めて、そのもう1体の悪魔の首を刎ねた。
申し訳ないけど、どうせ地獄行きになる彼らの事だ。その上界からでも拷問される運命を考えたら、ここは早く楽にしてあげないとである。
こうして、もう片方の悪魔もそのまま倒れた。
ジュワジュワジュワ~
悪魔達の亡骸が、みるみるうちに沸騰する様に溶けていく。
うげぇ、こいつらそんな死に方するのか… と僕は思ったが、ここでまさかの光景が目に入る。
「え!?」
なんと、その溶けだした悪魔達の体内から、ともに1つずつ、クリスタルチャームが見えてきたではないか!
僕は1人驚きで後ずさりをした。
「うそ!? え、なんでこいつらの中に!? ジョナサン、もしかしてそれでさっき…!」
僕はジョンを一瞥した。彼の右目… ではなく、今度は左目が赤く光っている。
左目が「赤」く光る現象、“宿主入り”の発動。
相手の五感に入り込み追体験ができる、ジョンの能力の1つだ。彼は静かに告げた。
「こいつらがもがいていた時に、宿主入りをしてみたらドンピシャだったよ。どおりで魔王がそばにいるのに、チャームのオーラを感じる事も発光もしなかったわけだ」
なるほど。つまり先の戦闘シーンで彼はとっさに宿主入りをし、悪魔達の体内にチャームが埋め込まれている事に気づき、首を刎ねろと僕達に教えたのである。
誤って体を切りつけては、中のチャームまで傷つけてしまうから。
そんな彼のいう通り、露わになったチャーム2つが今になって白く発光し、礼治が手をかさずにつれその力は強くなっていった。
あのサリイシュ同様、おまじないでチャームから魂を解放できる人が近づくと、光が強まる仕組みらしい。まさかの展開である。
「…やってみる」
キャミも召喚状2体を元のドロップに戻している間、礼治がそう呟き、悪魔の体が溶けてなくなった跡からチャームを2本、手に取った。
発光の仕方から、魂が2つ入っている事は、よく分かる。
半径10mは森を明るく照らしているといってもいいくらい、眩しい光源だ。
礼治はチャームをもった両手でお椀を作り、祈るようなポーズで目を閉じた。
僕達は固唾を飲んで見守った。
光が、徐々に強くなっていく。そして――
ドドーン!
両手から、光のスライムが2発、勢いよく上空へと発射された!
「っ…!」
礼治が、その強い反動を受けて後ろへ1歩下がる。
だが、流石に倒れて尻餅をつくなどという事はなかった。体幹が強いので、よろける事もほぼなく、おまじないで魂を解放させる事に成功したのである。
光は、最初に地面へ降り立ったものが、片膝を立てて着地するポーズで実体化した。
僕達の予想通り、それは仲間内きってのヒーラーの1人。ヘルであった。
「っと」
ドスン!
「ぐえっ!」
が、更にその上からもう1つ、スライム状の光が降ってきたのだ。
その光も、鷹が降り立つようなポーズで実体化し、真下のヘルを踏み潰してしまう。
そう。その子も仲間内きってのヒーラーの1人、若葉であった。
「よっと。て、やっばヘル踏んじゃった。て、うわぁぁ…!」
ドカン!
「降りろ!
と、若葉を投げる様に振り落としたヘル。
初っ端からコントみたいな事が起きているけど、2人とも元気そうで何よりである。
僕は安堵したと同時に、つい込み上げていく笑いを堪えるのに必死だった。
「にしても… ここって」
「あれ? というかアタシたち、もしかして外に出られたんじゃね!?」
「かもな。悪魔の体内に移植されたきり、暫くは暗闇だったけど」
と、ともにその場を立ち上がるヘルと若葉。
僕はサラッととんでもない情報を耳にし、2人に「移植?」と反芻したが…
――!?
ジョンが、その間にまた右目を青く光らせ、未来を予知したらしい。
彼は一度後ろを見返す。もう時間が経過したのか、空は夜明けが近づいていた。
ジョンはその瞬間、またこちらへ向いては、すぐに箱を持って走った。
「まずい! さっきの光を主に見られた!」
「え!?」
「ヘル達の話はあと! 今の俺達では勝てない相手だ! 早くここから逃げるぞ!!」
まさかの「逃げる宣言」だ。キャミも空気を読んだのか、すぐに箱を持ってジョンの後を追うように走る。
僕は何が何だか分からず、視界をキョロキョロさせるが、礼治が僕の腕を掴んだ。
「何してるんだアキラ、はやく…!」
「え!? うん!」
「あ!? おい、まてよ皆!」
「はぁ!? もう~、今後はなに!?」
と、ヘルや若葉までもが混乱しながらだが、僕達の後を追って走り去る。
こうして森から抜け出し、1人もいなくなった。その直後であった。
ドーン! ドンドーン!!
その「僕達がさっきまでいた地面」から、大きな氷柱が何本も、地響きと共に突きでてきた。とても鋭利で、冷たく、禍々しいオーラを放った氷の山たち――。
危なかった。もうあと数秒遅かったら、僕達はどうなっていた事か。
そう。ジョンはそんな敵からの「氷柱攻撃」を予知したのである。ジョンがいて助かった。
「クソ。逃げられた」
その時、少し離れた暗黒城の高台から、黒い厚手のフードを被った少女が1人。
先の氷柱攻撃を行ったのは外ならぬ城の主、チアノーゼであった。
彼女は悪魔達の不在と、ガスの効果が薄れてきた異変に気付き、僕達を見つけ強力な魔法攻撃を仕掛けてきたのである。
だが、結果は見事に外れ。地平線からは太陽も上がってきた。
「くっ…! あの男ども、アガーレール女王の手先か。次こそは、必ず…!」
チアノーゼはそういいながら、光に焼かれぬよう、急いで城内へ身を引いたのであった。
【クリスタルの魂を全解放まで、残り 15 個】
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