ep.16 あっさり辛口、コロニー訪問。
森を抜け、草がはげた細道を、トコトコと歩くサラブレッド。
そのサラブレッドに、魔女の恰好で
前方には木製の塀に囲まれた集落が存在し、中の様子が少し見える。
「あれがコロニーか。マジで尖った耳の住民しかいないじゃん」
若葉だ。サラブレッドは、キャミが変身した姿。
この度、1人と1頭は特産品のトウガラシを手に入れるため、その集落である少数民族コロニーへと足を運んだのだ。
早速、集落の出入口である門前で、門番をしているオークの男女に道を阻まれた。
「待ちなさい。あなた、見かけない顔ね。どこから来たの?」
と、オークの女性がいう。若葉が馬から降りてこう説明した。
「いやぁ森の奥で魔女修行をしてたんだけどさぁ。薬の材料にトウガラシが必要になっちゃって、この集落にトウガラシを栽培しているお宅があるって聞いたから寄ったんだけど」
「トウガラシだ? お前、まさかアガーレールの回しものじゃないだろうな!?」
なんて、今度は男性のオークが若葉へと槍を向けて威嚇したのだ。
若葉は「ふぇ!?」といいながら咄嗟に両手を上げ、片手で自分の髪をかきあげ、耳を見せびらかしながらこういう。
「だ、だから森だって! アタシ一応エルフだよ!? この通り!」
すると、オークの男性は首を傾げながら、静かに槍を下ろした。
「妙だな。ちょっと調べてくれ」
「分かった。あなた、今から耳を貸しなさい。その耳が偽物でないか、確認するわよ」
ガシッ!
「にゅわぁ!?」
突然、オークの女性がこちらへ歩み寄り、若葉の両耳を掴んできた。
思い切りではないが、かなり強めに掴んでいる。若葉は頭ごとグワングワンと揺さぶられ、両耳を上下左右へと引っ張られた。
オークの女性は、やがて両耳から手を離した。
「ちゃんと本物ね。この感じだと、害はなさそう」
「おう、そうか。いいだろう。ここを通してやる!」
そういって、オークたちが漸くその道を空けた。
若葉は気を取り直し、馬を繋いだリードを持って門の奥へと進む。
「まさか耳を引っ張られるなんて聞いてないし。はぁー、買うもの買ったら早く帰ろ」
コロニーの中は、様々な「尖った耳」の種族が歩いている。
住宅エリアをはじめ、井戸、教会、商店、公園などが多数点在。正直、アガーレール国内の地上よりも文明が発展していると言っていいだろう。
「あったあった! ここがトウガラシを売っているお店か。それじゃ、ここで待っててー」
若葉が、馬のリードを近くの杭へと縛りつけ、財布を持ってトウガラシ売り場へと入る。
現在のアガーレールでは見かけないような食べ物が、沢山量り売りされていた。
「いらっしゃい! 当店自慢のトウガラシ、100g50円だよー。生姜もグラム50、ついでに美容と健康にもいいお酢もいるかい? 1本150円!」
と、店番をしているエルフの中年男性が声をかける。若葉は内心思った。
――この世界の通貨単位、『円』ってほんとシュールだなー。
と。
だが、この世界には前から住んでいるかの様に振る舞うため、敢えてその疑問を顔には出さず、ここは王宮から支給されたお金で購入を進めたのであった。
「よーし、買えた買えた! ついでに生姜とお酢と、苗も手に入ったし、これで必要なものは一通り揃ったぞい。行こうぜーキャラメル♪」
と、若葉がウキウキの笑顔で杭からリードを解き、馬とともにコロニーを去る準備をしていた。
手には店で購入した買い物袋を持っており、それらを
意外と、あっさりだった。
あの門前での調べがあったから、最初は警戒していたけど、一度コロニーの立ち入りを許可されれば案外悪くないと思う。そんな、尖った耳を持つ特権として若葉は心底安心したのであった。
これで、あとは森に帰ったフリをして王宮に戻れば――。
「ん? どうした?」
馬が何かを発見した様で、フスフスと息を鳴らしながら足を止めた。
彼が興奮気味に見つめる先には、一際大柄なオーク。軽く身長2mは超えているであろう風貌で、店の女主人と話している。
そのオークの首元から、キラキラしたものがぶら下がっていた。若葉は目を大きくした。
「あれって、クリスタルチャーム!?」
そう。
まさかの住民の中に、
ふと、財布の中身を見ながらこう考えた。
「あの感じ、そのまま貰える気がしないなー。まだ金あるけど、あれ買うために使っちゃっていいかな? でも、背に腹は代えられないし… いっちゃお。すんませーん!」
そういって、若葉は大柄なオークの元へと駆けつけていった。
「あら? ミハイルさん、呼んでるわよ」
と、女店主が手を差し伸べる。ミハイルと名乗る大柄なオークが、眉をしかめ若葉へと振り向いた。
若葉は財布を持ち、クリスタルチャームを指さしながらこういった。
「オッスオッス、お兄さん! そのノア… じゃなくて、クリスタルチャームなんだけどめちゃくちゃキレイじゃん。それなんだけど、その、買わせてくれないかな~?」
なんて、いきなりの交渉だ。
すると、ミハイルは途端に目を大きくさせ、肩を落としながらこう反論した。
「は? いきなり何いってんだお嬢さん? ダメだ、やらないに決まっているだろ!」
「え~? お金なら全然あるからさ、値段はそっちの希望に合わせるよ。だから…」
「金額の問題じゃない! とにかくダメと言ったらダメだ、さっさと帰れ!」
「えぇぇ!?」
結果はあっさり失敗。これには近くで見ていた馬も、密かに首を横に振る始末。
それでも若葉は食い下がらなかった。なおも交渉を続けるべく、ここを去ろうとするミハイルの後を追ってこういう。
「そこを何とか頼むよ~。お金がダメなら、代わりにアタシの方で出来る事をするよ。一応魔法使えるし? なんなら知り合いの美人さん紹介するし、なんでもいいからさ~」
なんて、どこの誰を紹介する気なのか謎のメリットまで訴求しだす若葉。
すると、ミハイルの足がここで止まった。
「…今、なんでもいいと?」
おっと、その様子だと少しはチャーム譲渡の余地があるか。
若葉は息を呑んだ。するとミハイルが腕を組み、若葉を見下ろしながらこう告げたのだ。
「なら条件がある! この俺の所に、マヌカハニーを1壺もってこい!」
「え? マヌカハニー?」
まさかの条件だった。
「なんでもいい」なんて言ったから、内容によっては若葉の身に危険が及ぶ要求でもされる可能性があったわけだが。ミハイルはこう続けた。
「そうだ。ただの蜂蜜ではなく、マヌカハニーだ! そいつを持ってきたら、このクリスタルと交換してやる。その際、本物かどうか調べさせてもらうぞ」
「え、マジで!?」
「言っておくが、マヌカの木は既に絶滅したと言われている。そんな代物を持って来れるというならやってみろ! フン、どうせ無理だと思うがな」
そういって、ミハイルは今度こそズカズカと去っていった。
若葉は、一応交渉に応じてもらえる件には安堵したものの、密かに米神を掻いてこう呟く。
「絶滅したものを提示って、なんでそんなもの欲しがってんだ? 相手の考えてる事わかんねー」
だが、言われたからにはやるしかない。
それを表すかのように、若葉はコロニーを去り際、軽いため息をついたのであった。
(つづく)
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