ep.17 甘い蜜が取れるか分からないお仕事、はじめました。
コロニーを出てからも、住民から密かに後を付けられている様子はない。
それを確認した上で、若葉は無事に王宮へと帰還した。コロニーの様子や、そこでの出来事等伝えると、アゲハ達からは好感触な返事が返ってきた。
「でかした! ありがとう若葉。それと、やはりあの集落の中にクリスタルを持っている人がいたんだね。前にブーブが隠し持っていた時点で、何となくそんな気はしていたけど」
と、アゲハがいう。
知らない方のために説明すると、ブーブとは、売って金にしようとマリアのチャームを隠し持っていた、あの酔っ払いドワーフのことだ。
しかし、暗黒城へ行くのに必要だとされるトウガラシがこうして手に入っても、未だ不安は拭えない。
なぜなら次にマニーが提案する件と、そのための策が必要だからである。
「数は、多い方が良い。若葉達が見たチャームが碇のロゴ、つまりノアなら、彼が持つ透視能力と暗視の併用で城内部を覗く事ができる。その為にも、先にノアを解放しよう」
「そうだね。でも、そのためにはマヌカハニーが必須…」
「マヌカの木か。俺も、この世界に来てから一度も見た事がないんだよ。どうしたものか」
なんてアゲハとマニー、この国の女王様と勇者様が天を仰いだ。絶滅種からしか取れないとされる蜂蜜を、若葉が交換条件に引き受けてしまったから、思い悩むのも無理はない。
だが、2人は決して若葉のせいにはしなかった。
「まだこの世界には未知のエリアが沢山ある。もしかしたらそういった土地に、絶滅したと噂されているマヌカが見つかるかもしれないけど、探すのは一苦労だぞ。いつ見つかるか分からないし、見つからないかもしれない」
「うん。そうこうしている間にも、時間はどんどん過ぎているんだ。暗黒城周辺のガスが取れたことで、あれから人が行方不明になるペースは大分遅くなったみたいだけど」
なんと! ヘルと若葉を解放する切欠となった、あの毒ガス職人の悪魔達がいなくなったことで、向こうはいま下手な犯罪行為に走れなくなっているらしい。
これは何げに朗報ではないだろうか?
「ヘルから聞いた話によると、チアノーゼは人の血を飲み、それを物理と魔法両方のエネルギーに変換している。もし、その為に行方不明者が出ていたのだとしたら、飲める血が少なくなっている今、彼女の力は以前より弱まってきているはずだ」
「うん。私達の戦況は、少しずつ有利になってきている――。そう信じたいね」
そう言いながら顎をしゃくり、この後どうするべきか考えるアゲハ。
少しして、何か良い案が思い浮かんだのだろう、大きく見開いた目で手槌を打った。
「兄さんを寝かせよう!」
「ん? なぜに??」
「上界にいるカナルと交代させるんだよ。今から博物館へいってくる」
そういって、マニーに管理を任せアゲハは1人、王宮を後にしたのであった。
――――――――――
場所は変わって、地下博物館。
まだ改装途中であるものの、以前より少しだけ清掃が行き届いている。露出されていた展示品も、今は一部が元の場所に置かれ、ガラスや鉄格子によって保護されていた。
館内にいるのは1人だけで、その人は小さく鼻歌を歌いながら、清掃に励んでいた。
「♪~」
礼治だ。しかも今の彼は首タオルに、つなぎの作業着姿で館内を歩いている。
そう。彼はこの博物館への立ち入り権限として、清掃員の仕事を始めたのである。
上界では魔王、リアルにおいてはセレブ&ロイヤルに属するはずの彼が、まさかの!
「ん?」
礼治はふと、とある地点まで清掃を進めていた手を止めた。
鼻歌も止まり、別の方向へと顔を向ける。
その止まった視線の先には、大きな石碑が展示されている、ガラスのパネル。
前にアゲハが紹介した、アラビア文字の亜種というか謎のくねくね線が石に彫られた形で記されている、あの石碑だ。確か、荒野の谷に落ちている状態で発見されたとかいう。
「………」
その石碑を見つめる礼治の目が、微かに泳いでいる。
ほんの少しだけ、呼吸が乱れている様子も見受けられた。
文字の形が独特すぎて、内心混乱しているのか、それとも――。
「兄さん? どこにいるの??」
アゲハの声が響いてきた。礼治はハッとなり、元の表情で振り向く。
そのタイミングで、アゲハが駆けつけてきたのだ。礼治は掃除の手を下ろしてきいた。
「アゲハか。どうした?」
「頼まれて欲しい事がある。なる早で、カナルとポジションを交代してほしいんだ。現状、彼女にしか出来ない事があってね。それで、いつ清掃終わりそう?」
との事であった。礼治はその質問に対し、淡々と答えていく。
その時の彼の目に、先ほど石碑を見つめていた時の様な迷いは一切なく、駆けつけてきたアゲハも、そんなイトコの「変化」が起きていた事は知らない。
――――――――――
「そういうこっちゃ。せやから、今からひと手間かけに行くやねんけどセリナどないするん?」
なんて、この僕・芹名アキラがいる建物内にて、カナルが挨拶しに来たというわけだ。
ちなみに前回は若葉回で、今日まで顔を出していなかった僕がその間、何をしていたのかというと自らの仕事作りだ。
僕の手には厚さ2,3センチほどの冊子と、羽根ペン、そして机の上には沢山の書類やそろばん、更にはスタンプまで置いてある。それもそのはず、
「ちょうど、他にどんなギルドを作るべきか考えていた所なんだよなー。もしかしたら参考になるかもだし、気晴らしも兼ねて見に行ってみるよ」
そう。
法人を立てるさい、社内紛争や
そんなわけで、僕はカナルの後を付いていく形で、ボスコ―花畑へと到着した。
大陸の中央部にある、ちょっとした林というか、ほぼ手付かずの自然が映し出されている保護エリアだ。前に、リリーのチャームがなぜか埋まっていたあそこね。
「先日、マヌカハニーを持ってくるよう若葉が住民から頼まれたんやろ? ウチの本業、蜂蜜メーカーやで。しかも植物を操る魔法や。マヌカの木くらい簡単に生えさせたるわ」
「なるほど! それで、アゲハが礼治さんとカナルを交代させるって提案したわけだ。
でも、あれ? …という事は、この前若葉が手に入れたトウガラシ、あれ態々ああして買いに行かなくてもカナルの魔法で幾らでも生み出せたのでは!?」
「ん? セリナまさか知らへんの? ウチの植物は“魔法”が原料やさかい、若葉ん所の魔法とぶつけてもポーション作れへんで。あれは、原料が自然生成されたものであらな」
「あ… そうだったっけ!? ダメだ、全然覚えてないや」
あーもう、ややこしや! なんて突然の細かいストーリー設定はひとまず置いておいて。
カナルが視線を元に戻し、
すると、畑の一角から隆々とした低木が、とてつもない成長スピードでフサフサと生えてきたのだ。
見た目はまさに“本物”の植物。ほのかに甘い香りまで漂ってきた。
「ほい一丁あがり! あとはこれで、蜂が巣を作りに集まってくるのを待つだけや」
「はぁ」
僕は冷や汗気味に、その立派に育ったマヌカの木を数株、まじまじと見つめた。
果たしてカナルの言う通り、上手くいくのだろうか?
(つづく)
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