ep.15 その尖った耳でよく聞いて?――「働け」

「そうだ。礼治さん、ちょっと」


 僕はあのあと、礼治のもとを訪ねた。

 彼は1人、地下博物館の概要やマップが記載されているであろうパンフレットを手に取り、静かに拝読していた。


「ん? どうした」

「上界の件で、話があるんです。こちらへ」


 そういって、僕は礼治と共に、メンバーの集まりから少し離れた場所へ移動した。

 シリアスな話になると思うので、あまり皆の耳に入れたくないのである。特に若葉とか。




「…不仲になった理由、か」


 ひまわり組の意見と、カナルの考察を元に、神々の不仲説について礼治に質問した。

 すると礼治、今ではもう懐かしい記憶だと言わんばかり、姿勢を楽にしてこういう。


「単純に、なぜアキラが突然3年もの眠りにつかされ、他の仲間達まで何処かへ消えてしまったのか。向こうが何かしら不備を起こしたのではないかと疑ったからだ」

「不備…?」

「たとえば、俺達の魂を二分化するのに失敗したり、誤って夢の世界を消滅させてしまったり、といった具合だ。なのに彼らは『そんなはずはない』といい、最初は自分達の手腕を疑いすらしなかった」

「…」



 ひまわり組が言っていたことと、ほぼ一緒だ。

 やはり、僕達が今回このような問題・・・・・・・に遭遇したから両者は揉めたのだと分かり、僕は何とも言えない気持ちになった。それだけ、仲間を想ってくれるのは、嬉しい事だけど…



「『最初は』ってことは、今は違うんですね?」

「あぁ。今のひまわり組を見れば分かる通り、彼らはなお世界のどこかに、今回の問題が引き起こされた“原因”と、そう断言できる“証拠”が転がっていないかを、探している。だからその場を邪魔しないよう、俺は俺で自分のすべき仕事を消化している、というわけだ」


 なるほど、それで今に至るわけか。

 でもこれで原因が分かっているのなら尚更、こうして僕達仲間が次々と解放されてきているのだから、仲直りしてほしいと思う。


 だけど、まだそこまで喜べる状態じゃないのかも。

 それこそ、間違いなく仲間達を全員・・見つけ出し、解放までしないとダメなのかもしれない。



「ところで」


 と、ここで礼治が腕を組み、真剣な表情で僕を見据えた。


 あっ… 嫌な予感がするぞ。

 まさか僕、何かしら叱られるパターンきたかこれ!? お前、あれからちゃんと働いているんだろうな? とか訊かれるのかな。怖ぇ~!


「俺がそれより気になっているのは、アゲハが身に着けているあのイヤリングと腕輪だ。計4つ、ピンクの宝石があしらわれているけど、どれも枕元転送がされない」

「あ」


 あれ? 予想と全然違ってたわ。よかったぁ… じゃないよ!

 そりゃあ、僕が予想した通りの叱責をされたらされたで、ちゃんと働けって話かもしれないけど! しかし、あのピンクのしずくちゃんの件が出てくるとはね。


「神々が代々、自分達の候補者にのみ分け与えた力を、あのピンクの宝石は俺が知る限り『初めて跳ね除けた物質』といっていい。

 一体なぜ、あの宝石には枕元転送が効かないのか…? それも、今回の原因究明の『鍵』になるのではないかと俺は見ている」


「確かに、妙ですよね。しかもあれって、サリイシュのご両親が渡したとかいう」


「そのサリバとイシュタが操る『魂の息吹』だって、上界の神が使う力と非常に似通っている点も、気にかかる。

 とにかく、この世界はとても興味深い謎が多く転がっている。地下博物館の展示品を調べる価値は十分にあるだろうな」


 なるほど、それで博物館のパンフレットを手に取っているってわけね。

 ジョンが持ち歩いているあのスマホが登場するまで、この国に写真なんて概念はなかっただろうし、文字だけではイメージが掴めないものなど直接見に行きたくもなる。


「それ、前にキャミも同じような事を言っていました。ただ、あの博物館はいま改装中で、女王と近衛兵以外は簡単に立ち入れないし、警備もすごく堅いですよ?」


 たぶん本人はもう知っているだろうけど、念のため、僕は礼治にそう伝えた。

 すると礼治がパンフレットをしまい、ここから移動する体勢に入る。


「俺に考えがある。きっとアゲハも許可してくれるだろうから、心配はいらないよ」

「そう、ですか」

「それじゃあ。俺はしばらくここと地下渓谷にいるから、また何かあればその時に」


 そういって、先の話はもう終わったので、ここを去ろうとする礼治。が、

「そうだ。アキラ」

 なんて急に足を止め、背を振り向いたので僕は「はい?」と返事をした。



「先日、アゲハから提示された組合ギルドの件。暇ならさっさと働き口を作っておけよ」


 うぐぅ。最後の最後で、僕が予感していた叱責をされてしまうとは。

 なんだか、心臓を射抜かれたような気分であった。こうして、礼治は今度こそその場を去っていったのである。




 ――――――――――




「すまない… 私と、したことが」


 王宮入口付近の医務室にて、マイキが横たわった状態で、そう囁いた。

 見るからに辛そうだ。ケモ耳もやけに血色が悪いし、顔は額を中心に赤くなっている。


 僕は王宮を出る前に、そんなマイキを取り囲む仲間達の光景を目にした。

 高熱を出してしまったらしい。近くでヘルと若葉が診察を行っている。


「コロニー付近までのパトロールで、無理しちゃったんだってね。さっきの話し合いの時にも出てきた『コロニー』が、また絡んできたよ」

「ふくらはぎに、刃物でやられただろう裂傷がある。傷はそんなに大きくないけど、そこからの細菌感染で化膿しているな。高熱はそのせいだろう」


 と、ヘルが虫眼鏡をもってそういう。

 そうか。マイキさんは仕事柄、犯罪やってる奴と争う事もザラにあるだろうし、今はゆっくり休んでほしいよ。お大事に。


「失礼。コロニーに立ち寄れる可能性を、私なりに考えてみたよ」


 と、そこへアゲハが駆けつけてきた。

 手に氷水の入ったボウルとハーブが握られているから、マイキの治療を手伝いにきた序でといえよう。すると、それらをヘル達の横に置いてこういった。


「正直、あまりお勧めは出来ないけど、1つだけ方法がある。コロニーの住民には共通点があって、住民はどれも『尖った耳』を有しているんだ」


「ん? 尖った耳?」とぼく。


「だから、当てずっぽうな方法にはなるけど、コロニーへ行くには同じく『尖った耳』をもった人が最適とみている。それも小人ではなく、私達と同じ中肉中背の人族でね」


「えー」


 僕は引き顔になった。

 まだ向こうの景観を知らないから勝手な事は言えないけど、耳という条件を満たすだけで、そんな簡単にコロニーへ入る事が出来るのか? と、はなはだ疑問であった。


「あいにく私達人間の耳は丸いからアウトだし、獣人で立ち入れそうなマイキさんも今、この状態だから… あれ? いや待てよ。もしかしたら」



 と、ここでアゲハがとある方向へと視線を止め、顎をしゃくった。


 僕もヘルも振り向く。

 その視線の先にいるのは、若葉だった。



「…え? なに、急にみんなして。アタシの顔に何かついてる?」



 ドンピシャだ。

 普段はその長い髪で隠れているけど、若葉の耳はまさにその「尖った耳」そのもの。

 まさかのエルフ耳で、ちょうどコロニーにいけそうな人が、ここにいるではないか!


 しかもそれだけじゃない。

 彼女はまだ解放されて間もないから、そういった意味でも、コロニーへの訪問を『アガーレール国による工作』だと疑われずに済む。



 僕達は、揃ってお互いを見ながらコクリと頷いた。

 若葉はなお、1人怪訝な表情を浮かべていた。




【クリスタルの魂を全解放まで、残り 15 個】

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