ep.14 理不尽すぎるトウガラシ仕入れ作業
ジョン達に続き、僕とヘル達が王宮へと到着したのは、そのあと。
上界でひまわり組と礼治が不仲になった理由や、チアノーゼと暗黒城にまつわる詳細など、訊きたい事は山ほどあるけど、その前に今回の任務で気になった点がある。
「こんなに沢山の種類の食材が、ポーションの精製に使われていたとはな。しかも実際にヘル達が調合で使うものと、効能が、一致している」
と、マニュエルがいう。
そう。ジョンとキャミが、帰りに何故か石橋の横から持ち運んできた木箱だ。
その中には現実世界と同じ、もしくは酷似した野菜や果物、動物性の食物等がわんさか入っている。まるでバーベキュー用に用意したかのよう。
だけど、食べ物を保存するにしては少し乱雑に入れられている感じがあった。一部の食べ物は潰れているし、少し汁が漏れている。食べる為に蓄えたとは思えない見栄えであった。
「やっぱり、エビも沢山入っているね。あんな、城周辺をガスまみれにする事のために」
ヒナも、その木箱の中の適当さには内心、怒りを覚えている模様。
僕はそんな仲間数人の話し合いと観察を横目で見ながら、廊下の一室ドアから微かに物音がしたのを聞き逃さなかった。
そこは女王の寝室。という事は、アゲハがあの日以来ようやく元気を取り戻したのかな?
ガチャ。
「みんな、おはよう」
予想通り、アゲハが白いワンピース姿で、マニー達の集まりへと歩いてきた。
一時はどうなるかと思ったけど、あのとき一気に辛い気持ちを泣いて吐きだした事で、気持ちが落ち着いてきたのだと信じよう。
「もう大丈夫なのか?」
と、マニーが気にかける。アゲハは頷いた。
「一応ね。ヘル達も無事に解放されて、本当に良かった。ところで、その木箱は?」
そうだった。彼女はまだ木箱の件について、何も聞いていないんだっけ。
なので、このあとすぐにジョンとキャミの2人が、かくかくしかじかと説明した。
彼らがここへ態々持ってきた理由は、確認のための証拠集めといったところ。
するとアゲハは肩をすくめ、納得した様子である。
ところでジョンのこの所感。
「それにしても、ポーションの精製を悪用していたのが魔族だったからか、やっぱネギ類が一切入ってねぇな。それに、一通り材料が揃うほど調べ尽くされている割には、香辛料さえも入っていない。奴らは暗視ポに頼らなくてもいい目なのかねぇ?」
暗視効果のポーション――。その原料となる香辛料、つまり「唐辛子」。
言われてみれば、この異世界へ来てから僕はまだ一度も、唐辛子たるものを見かけていない。だけど、“実在すること”は知っているのだ。
「唐辛子って、結構前にハーフリングの奥様方が地下渓谷で、最近は食べる機会もなくなったみたいな事を言っていたけど、アゲハ。今、唐辛子ってこの辺には生えていないのか?」
そう、僕は顎をしゃくりながら質問した。
アゲハが、僅かに気まずそうな表情を浮かべ、視線を箱へと戻す。
おっと、やはりアガーレールの女王、その件についてはあまり良い思い出がないみたいだ。
当時の地下渓谷にいた時にも、同じ様な反応を見せていたし、一体何があったのやら。
「それなら、南部の少数民族コロニーに…」
というのが、アゲハの口からでた答えである。
コロニー、ね。それも前に名前だけは聞いているけど、正確にはどんな所なのか全く見当が付かない。すると、次にマニーが困った表情でこう補足を入れた。
「少数民族コロニーは文字通り、ドワーフやハーフリング以外の種族が住まう街だ。エルフやオーク、ドラゴニュートといった種族のこと。街というより、もはや1つの『国家』になりかけている。そちらとは、今もアガーレールとの
「軋轢?」
「例の襲撃の影響だよ。彼らは日中陽に当たれず、戦線に立つのが難しい小人達に代わり、襲撃時には戦力として動いてくれていた。だけどその結果、多くの種族が戦死してな」
「うわぁ」
「アゲハ達ニンゲンや小人達には被害が少なく、戦線に立った彼らは多くの命が死に絶えた。それを、元はといえば余所者の女王が勝手に国を作ったから、よく分かりもしない機械文明に狙われたのだと八つ当たりをし、この城下町から揃って土地を離れたんだよ。
以来、彼らは国交断絶の如く、自分達が築き上げたコロニーで生活を送っている」
「なんだよそれ… フェデュートが勝手に襲ってきたんだろ? なのに、その襲撃で多くの犠牲を生んだのはアゲハのせいだっていうのかよ!? あまり、こういう事は言いたくないけど… 戦線に立つ方が、命の危険に晒されやすい事は、考えれば分かるはず…!」
僕はこれ以上、怒りに任せていうのを躊躇ってしまった。
あまりこれ以上言うと、アゲハ達にとっても、戦場で命を落とした人達にとっても良くない、と判断したからだ。
少し冷静になるべきだったか、我ながら不覚である。
先方の、あまりに身勝手な動機と勝手な思い込みを聞いて、つい感情的になってしまった。
マニーが咳払いをした。
「ゴホン。話を本題に戻そう。
さっきジョナサンも木箱の中をみて指摘した通り、唐辛子がこの辺りにない理由は、その生息地がちょうどコロニーの敷地内にしかないからだ。俺達と会う事を頑なに拒んでいる種族達に、唐辛子の栽培を独占されているといってもいい。よろず屋に相当する者が、こっちへ運んでくる事も一切ないからな」
「ウソだろ、メチャクチャ不利じゃないか。じゃあ、このままだと暗視ポは作れないと?」
すると、僕のそんな呟きを前に、ヘルと若葉が苦そうな表情を浮かべた。
「それは、ちょっとまずいな。アゲハとしては、この国の戦力については一旦置いておいて、あのチアノーゼと会って話がしたいんだろう? ならば、場所は暗黒城一択だぞ」
「だねー。暗黒城って、言っておくけど虹色蝶でも足りないくらいメッチャ暗いからね? しかもからくり城だから、どこから何が飛んでくるか分からないし」
「ひぇ」
と、僕の背筋が凍った。彼らはアゲハに話しかけているつもりなんだけどな…
「あの城のからくりは何度か見てきたけど、未だに稼働の仕組みが分からない。もしかしたら、あのチアノーゼが壁や天井の裏から、魔法の氷塊で押し上げたりしている可能性があるけど、それだって俺達ニンゲンの視野で乗り越えていくには限界があるんだ」
「うんうん。だからそこらの魔族と同じ様に暗い場所を歩くのなら、暗視ポは沢山用意した方が良いだろうね。その、コロニーの唐辛子? 何とかして手に入らないもんなの?」
「…」
「弱ったな」
なんて、アゲハもマニーも流石に困った顔をみせ、マニーに至っては自身の後頭部を掻く。
そりゃそうだ。暗黒城へ突入する前に、また一つ難題が立ちはだかったのだから。
しかもよりによって、今ここにいる女王関係者とメチャクチャ仲が悪いとされるそのコロニーを、先にどうにかしなきゃいけないなんて。
(つづく)
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