ep.36 子供の頃の -想ひ出- を、もう一度。【第二部最終回】

「サリバちゃん、あの魔女を懲らしめたんですってね!」

「イシュタくん、男を見せましたな! あっしも鼻が高いぞ」



 シアン解放から、はや数日。

 小人の森では、今日もサリイシュが小人達から絶賛を浴びていた。

 2人は学校帰りのたびに、困り笑顔で会釈。ちょっぴり気恥ずかしいけど、内心はとても嬉しかった。


「おや、2人とも謙遜けんそんしちゃって。そこはもっと盛大に喜んでもいいんじゃないの? 褒美にご馳走を紹介してもらうとかさー」


 と、そこへ声をかけてきたのは若葉。

 あの出陣帰りでの様子がまるで嘘のように、おちゃらけた表情を見せている。


「「こんにちはー」」

「もしかして、この辺に住む事になったの?」

「おう。あそこのツリーハウスね」


 若葉がそういって指さした先は、この森の中でも一際大きな樹木。

 その一角に、確かに小さなログハウスが建てられている。余談だが、今の若葉は驚くほどサラサラな長髪であった。あの時のボロボロはいずこへ。


「あれ? 髪が…」

「お、気がついた? この国にも、増毛のポーション作りの素となる豆類があったから、そいつを塗って伸ばしたんだよ」

「そうなのね。似合ってるよ」

「どうも~」

 と、サリバに褒められ自慢げな若葉。

 だが、これから向かう先があるので、取り急ぎ若葉は2人に手を振った。


「そんじゃねー。あ! セリナおっすおっす」


 と、ここで僕と若葉のクロスオーバー。

 後ろにはあのサンドラも一緒で、これから遠出する予定である。サリイシュが続けて僕達に挨拶したところで、僕もこの後の予定を告げた。


「やっほー。実はサリバとイシュタに、ちょっとしたサプライズがあってさ」

「サプライズ?」

「これ。マニーから、特別にあのゲートの鍵を預かったんだよ。2人が頑張った褒美として、ある人達に会わせたいと思ってね」


 僕はそういって鍵を見せた。

 あのパッk… 巨大食虫植物の群生林へと続く、ゲートの鍵だ。すぐそれに気づいたのか、2人が「え!?」と目を大きくした。


「あ。言っておくけどそこ、実はもうここのサンドラさんが全部解決してるんだよ」

「うふふ。きっと、その先の光景を見たら、2人ともビックリするわよ?」


 と、サンドラも相槌を打つ。

 サリイシュは互いを目くばせした。学校帰りだし、一度自宅に戻ったら、準備ができ次第いってみるか! という決意の共有だろう。2人はともにコクリと頷いた。




 ――――――――――




「うわぁ、今日も沢山いるなぁ」


 その頃。若葉が向かった先は、あのマヌカの木が数本植えられた畑。

 今日も大勢のミツバチがそこで巣を作り、仕事に励んでいる。あのコロニーでの問題以来、定期的に巣を採取しては、そこから蜂蜜を絞っているのだ。


「遅いぞ若葉。その辺で油でも売ってたのか?」


 そういったのはヘル。

 今の彼は白衣を着ていて、先程まで在宅診療でもしていたのだろうか。若葉がムッとした表情で、隣同士マヌカの木を眺めながらいった。


「人聞きが悪いなぁ!? 慣れないヘアスタイルでセットに時間がかかったんだよ」


「あぁ、そうかい。にしても結局、この蜂達の本当の出所は分からなかったな」


「あー、そういえば前に泉を見つけて、それ所じゃなかったんだっけ? でもさ。結局こうして今日も巣作りに来てるんだし、そこから薬を作れるのならもういいんじゃね?」


「そうか?」


「あぁ、俺もそう思うよ。1人でも多く病気が治るのなら、それでいい」


「ほら、そこのお兄さんもそう言ってんj… て、うわぁ~!!」


 若葉は今になって気がついた。

 ヘルの隣に一組の親子がいて、木を眺めている。


 見るとその人達は、あの少数民族コロニーの住民であるオークのミハイルと、その娘ニキータではないか。若葉は驚きのあまり、その場で尻餅をついた。

 対照に、ヘルは冷静に紹介の手を添えた。


「こちらのミハイルさんは先日から、娘さんの健康診断で俺の所に受診しにきているんだ。若葉が持ってきた蜂蜜のお陰で、娘さんの発作が収まったんだと」

「え… マジで?」

「こんにちは。この前は、ありがとうございました」


 と、ニキータが笑顔で若葉に挨拶する。

 前回会った時はあんなに咳き込んでいたのに、今はとても元気そう。父ミハイルもその恩があって、ここへ足を運ぶ様になったのだろう。若葉は訊いた。


「コ、コロニーの人がこっちへ来て、大丈夫なの?」


「あぁ、一応は適当な理由をつけてる。実は嬢ちゃんが来たあの日から、アガーレールとの交流を悔い改めるべきじゃないかと、思い始めていてな」


「え?」


「俺達オークは、エルフは… 何らかの誤解をしているかもしれねぇ。だから、時間はかかるかもしれないが、少しずつ説得を進めている所なんだ」


 驚きの展開である。若葉はゆっくり立ち上がった。

 もしかすると今後、少数民族コロニーと仲直りできる日がくるかもしれない!


 これには、ヘルも満更ではない様子であった。




 ――――――――――




「ここだ、屋根があったとこ。ホラ、位置的にも合ってるだろ?」


 そして、現在の暗黒城。

 屋根が破壊され、規制線が張られた跡地には、ジョンがスマホで破壊前の画像を見せている所、シアンたち数人が城の復旧工事に当たっていた。

 安全のため、全員、作業用ヘルメットを装着している。


「…」


 そんな中、シアンが神妙な面持ちで、跡地の奥にある鉄製の箱をゆっくり開けた。

 中からは埃の被った子供服や、おもちゃ、人形などが入れられている。どれも年季が入っているものの中から1つ、写真立てを手に取ったのであった。



 そこに写るは裕福な家庭の、5,6歳ほどのお嬢様と思しきエルフの女の子と、その両親。

 暗黒城にそぐわない、白くて、温かみのある家族写真。


 額には、その人達の最も近いところに、人名だろう英文字がペン書きされていた。


「『ラン・クライオ』、か。割れる前の、繊細で美しいガラスだった――」

「おーいシアン。この暗黒城の復元が済んだ後は、どうするのー?」


 と、少し離れた場所からノアが声をかけてきた。

 意味深に呟いていたが途中で止め、少し考える様な仕草で立ちあがる。


「どうすっかなー」


 が、シアンの答えであった。彼は写真立てを懐にしまった。




 ――――――――――




「見て、サリバ、イシュタ! あそこ!」

「みんな、ただいま。元気にしていたかしら?」


 その頃、僕達はサリイシュを、遂に例のバイオームへと連れてきた。

 そこは相変わらず、移動の途中で地形が動くけど、今はサンドラがいるお陰で楽に目的地まで辿り着ける。サリイシュは目を輝かせた。


 人生で、初めて見るものばかりの絶景。

 ファンタジックで壮大な森、花畑、そして―― 待望の妖精さん達との“再会”。



「「みんな!!」」




 2人は、ここへ連れてこられた本当の理由を知った。


 嬉し涙を上げ、妖精さん達の元へかけていく。

 僕とサンドラは、その姿に安堵したのであった。




 クリスタルの魂を全解放まで、残り12個。

 漸く半分。

 残り半分は、どこにあるか分からないけど、今の自分達ならすぐに見つけられる自信が… あるのか、僕には分からなかった。


 CMYはあと1人、マゼンタの解放が残っている。

 だが、その道のりは決して楽ではないだろう。解放までの流れ次第では、この大陸の… いや、この星の未来が、大きく変わる可能性があるのだ。



 僕としては、どうか最悪の事態だけは避けたい。


 だけど、必ずや仲間を全員解放したい。

 そんな葛藤と日々、戦っているのである。




【クリスタルの魂を全解放まで、残り 12 個】




第二部 ―青空かすむ怠惰の魔女― 完

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夢の世界とアガーレール! 第二部 Haika(ハイカ) @Haika

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