ep.19 チベスナ顔の千里眼野郎
「みんなー!
「どこぞの有名アニメの決め台詞みたいに言うな」
なんてヘルと若葉のやりとりが木霊しているが、正直、この瞬間を心待ちにしていた。
この異世界における最大の目標、「仲間全員の魂を解放」に、また一歩近づくのだ。
しかも今回解放するのは、これから暗黒城攻略を控えている僕達にとって大きな戦力となるであろう男。その男が封印されたチャームを見事、コロニーから奪還したのである。
こうしてチャームは若葉からキャミへと移り、それをキャミが持ってサリイシュの一軒家へと向かった。
先住民2人による魂の息吹が見られるのも、久々な気が…
「とりゃあー!」
ジャキーン!
て、サリバ? いったい何をしているんだ君!?
しかもさっき、凄く鈍い金属音がしたと思いきや、その手に持っているのは重たそうな大剣! 何故か、自宅前の切り株に置いてある果物をそれで斬っていたのである。
「はぁ… はぁ… あ、ごめんなさい! 来てくれていたのに、気づかなくて!」
そういって、サリバが息を切らしながらキャミの方へと振り向き、大剣を置いてはすぐ頭を下げた。クリスタルから発するオーラを感じ取り、気づいたのだろう。
「ん。邪魔しちゃったか」
と、キャミがいう。サリバは「ううん、全然!」といい、クリスタルへと目を向けた。
「おや? いらっしゃい! なんだか不思議なオーラを感じるなぁと思ったら」
と、続けてイシュタも玄関から顔を出してきた。
そっちはサリバみたいに態々大剣で果物を斬るなどという練習はしていない様だが、さっきまで料理していたのだろう、エプロンをかけている。
キャミはそんな2人の恰好や仕草に一切動揺する事なく、用件を伝えた。
「2人に、新たに手に入れたこのチャームの持ち主を、解放してほしいのだが」
「もちろん! 嗚呼、なんだか久々だなぁ。おまじないをかけるの」
「うん。前回は、女王様の
と、イシュタが相槌を打ったその当の礼治だが現在、カナルと交代で眠っているため、今回はサリイシュの出番というわけだ。
早速、2人はキャミの手の平に乗ったチャームの元へと、歩み寄った。
チャームは、サリイシュとの距離に比例して、光眩しく輝く。
中に、魂が封印されている証拠だ。2人はゆっくり深呼吸をし、手の平をかざした。
発光が、更に強くなってきた。
これは少し熱いくらいに、キャミの肌にも感じる。そして――
ドーン!
クリスタルから、一筋の光が空へと放たれた。
光はスライム状に、孤を描きながら小人の森の前へと落ちる。そしてそこからスライムが大きくなっていくと、やがて人型を形成し、それは地面に片膝を付けた姿へと変身した。
赤茶色のウルフカットヘアに、キリッとしたチベスナ顔が特徴の男。ノアの解放である。
「はっ… 俺は、外へ出られたのか」
瞼を開き、ゆっくり立ち上がりながら、辺りを見渡すノア。
その視線の先に、キャミ達の姿がある。キャミがノアの元へと歩いた。
「ノア。あまり時間がない。手短に説明する」
――――――――――
この後はすぐ、キャミがこの異世界のこと、自分達のこと、そしてこれからすべき事を一通りノアに伝えていった。
するとノアは、
「なるほどね。最初は、俺の身に何が起こったのか分からなかったけど、漸く理解したよ。
この世界が見えた当初は、自分は人けのない原っぱに転がっていてさ。あとから兵士たちがどんどん街を作っていく様子が見えて、気が付けば町一番の力持ちが、病気の娘のために一生懸命働いている姿を、ずっと傍で見ていたんだよな」
といい、困り笑顔で納得した様子だった。
で、今の説明のあと若葉が壺と引き換えに… という経緯である。
「あの」
ところが、ここでサリイシュが不安そうな顔で声をかけてきた。
2人とも、どうしたのだろう?
「その、ごめんなさい。もう一度だけ、おまじないをかけさせてほしくて」
「ん? なぜに」
「えーと、まだ1人入っていますよね? その中に。すみません。僕達、さっきは上手くいかなかったみたいで…」
と、イシュタが凄く申し訳なさそうな表情。まじないに失敗したと思ったのだろう。
だが、ノアがすぐにその意味を理解したそうで。
「あー、君たちそういうの分かるんだね?
そんな慰めと同時に、彼はキャミから自分のチャームを受け取ったのであった。
そういえばキャミの時もそうだけど、僕達仲間の一部はこのように、1つのクリスタルに対し2つ以上の魂が封印されている事がある。
ノアの場合は彼のほかに「サン」という名前の幽霊ちゃんがいるんだけど、その子は昔、自分という魂が削られるほどの戦いに身を投じたせいで大ケガを負っている。
(そうなった経緯については本作とは無関係なので割愛)
すると、サリイシュも理由が分かり安心したのか、ホッと胸を撫で下ろす様子を見せたのであった。
――――――――――
「ふむ。妙や」
その頃。試食会も無事に終わり、満腹になった僕達が立ち寄ったボスコ―花畑の前にて、カナルが神妙な表情で呟き、花畑と北の森の方向をチラチラ見渡していた。
アゲハが「どうしたの?」ときく。
「蜜を吸いにきた、蜂らの経路を目で追ってんねん。するとな、1つ妙な点に気づいたんや」
「妙な点?」
「あの蜂ら、大体あの北の方角から来とるやさかい、せやけど飛び方がやけに遠回りに蛇行してんねん。あの森の奥に、何かあるんやろうか、皆そこを避けるよう飛んでる」
そうなんだ? 僕、蜂に刺されないよう気を付けるのに必死で、全然気づかなかったわ。
しかしそこは流石、本業が蜂蜜メーカーの跡取り令嬢というだけある。カナルが先程からやけにソワソワしているのは、その北の森の奥に隠された「謎」の件であった。
するとアゲハも心当たりがあるようで、冷や汗気味にこう説明した。
「あそこはまだ未開の地で、上空から見ても深い森に覆われていて全容が見えないんだけど、その前に厄介な通せんぼがいてね。多分、蜂たちはそれを避けていると思うんだ」
「通せんぼ?」
「巨大で、獰猛な食虫植物だよ。しかも何体もいて、彼らは植物という見た目とは裏腹に、動きが俊敏なんだ。どれくらい首が伸びて襲ってくるかも解明しきれていないから、下手にその奥を通る事は出来ない。行こうものなら、彼らに一瞬で丸呑みにされるだろうね」
えぇぇ!? そんな巨大な植物が住んでいるエリアがあるの!? 僕は陰で驚愕した。
するとカナルも納得した様子。
「なるほどな。で、今は迂闊に駆除する事もできへんと」
「そんな事をしたら、この星の生態系が狂うかもしれないだろう。フェデュートと同じ様な真似はしたくない。だから、今はその問題は後回しにしてる」
「なんや、そないもん今は礼治がおれば簡単やろ」
「…まさか焼けと?」
「ちゃうわ! その植物ども、根っこから動き止めたらええやんけ。あいつの葉脈で」
あー、なるほどね。確かにその手があれば楽勝か!
と、僕も頷いた。動きを止めるだけなら相手にダメージは入らないので、生態系を壊す事なく、安全に森の奥へ進むことができるってわけだ。多分。
ん? となると、今からまたカナルと礼治のポジション交代って話になるのか。
いやはや。寝る事さえ忙しいとは、なんとも不思議な僕達の世界線移動の仕組みである。
(つづく)
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