ep.4 打ち上げ花火と灯台下暗し
南西部にある、高低差が激しい荒野地帯。
そのちょうど北側には雷鳴の山脈があって、そちらは
「サリバ、イシュタ。この辺りにオーラは感じられる?」
礼治とともに、先頭を歩くアゲハが振り向く。
サリイシュは緊張した面持ちで、ともに首を小さく横に振った。
「クリスタル探しには、2人の同行が必要、とな」
僕は顎をしゃくった。中々にないメンバー編成だからだ。アゲハが説明する。
「クリスタルの場所が特定できていない場合は、ね。それに今は礼治兄さんも一緒だから、最低限の安全は保障できるよ。黒焔のシールドを張ったり、グリフォンを誘導したり」
「たしかに。あと、アゲハが前線にいるのも何げに珍しいな?」
「今はマニーが王宮に帰還しているから、彼に少しだけ代理を任せられるんだよ。それにヒナもいるから… でも、そうだなぁ。どんどん人が増えてきたし、その時の状況で編成云々を一々伝えるのも効率が悪いから、そろそろ『あのシステム』を導入しないとか…」
「あのシステムって?」
「え? あぁごめん、こっちの話。方針が固まったら、アキラにも相談がてら伝えるよ」
なんて、最後の独り言はちょっと気になる所だが、今はクリスタル探しの方が大事だ。
サリイシュと隣同士、僕もここは戦闘態勢に入る。
「ここから先は、グリフォン達の集落に入るよ。集団で襲われるとキリがないから、戦わず誘導する方向でいく。兄さん」
「あぁ」
アゲハは礼治へと目くばせた。
礼治が片手を宙へと伸ばす。これから空中に向かって「あるもの」を発現させるためだ。
ピュー… ドーン♪
今のは、花火が上がる音だ。
そう、礼治がフェードインさせるように発現させたのは、あの花火である。
それは僕達の真上で宙高く、美しい極彩色の光を花開かせる。
先の隕石墜落(?)の状況を参考に、グリフォン達を音と光で誘導する作戦であった。
「行こう」
数発ほど花火を打ちあがらせている間に、僕達は礼治の案内に沿って、前へ進む。
サリイシュの周囲には、そんな花火とは別の黒いベールが螺旋状に舞い上がった。
「うわ、なにこれ!?」
とイシュタ。アゲハが一緒に目的地へ向かいながら説明した。
「兄さんが2人に生み出したバリアーだよ。歩くと同時についてくるし、これで大体の肉弾攻撃から身を守る事ができる。念には念をね」
「へぇ心強い!」
といい、ワクワクした笑みを浮かべるサリバ。
ドーン♪ ドンドーン♪
僕達の現在地とは異なる場所から、花火が次々と打ちあがると、その音に驚いたグリフォン達が台地からどんどん飛び出してきた。
その距離、実に僕達がいる場所から十数メートル先。礼治の花火と黒焔のバリアがなかったら、簡単に見つかってしまうレベルの近さである。しかも数十羽という大群だ!
「なんだろう? 音、じゃないけど、音が出ているような感覚のオーラが、どんどん大きくなっているような気がする」
「うん、僕も感じるよ。たぶん、その探しているクリスタルチャームのオーラなのかも」
サリイシュの言うように、アゲハの読みは当たっている様だ。
クリスタルチャームは、台地を登った先にある! にしてもちょっと危ない所だな…
「はっ!」
ピューン… ドーン!
礼治がその間にもなお、任意の方向へ花火の尾を発現し、グリフォン達を遠方へ誘導している。
その隙に、僕達は台地の壁をよじ登らなくてはならない。まさに時間との戦いか。
「よいしょ」
アゲハは僕がここへ召喚される前から、何度かこの荒野を見に来ている筈だから、どこへ行けば安全なのか熟知しているのだろう。壁の途中の足場を転々と登る姿は勇敢に感じた。
「兄さんが花火でおびき寄せても、台地にはまだ巣籠りをしている母鳥や雛が残っているかもしれない。彼らに警戒された場合は私が虹色蝶でヘイトを集めるから、アキラは2人の後方支援をよろしく」
「わかった」
台地に上がってからは、クリスタルのオーラを検知するためサリイシュが先頭だ。
一応全身にバリアーが張られているとはいえ、死角からの不意打ちは怖いので、そこは僕が護衛に回るべく黒焔の剣を生み出した。
こうして何とか登り切った先に見える光景は、オレンジ色の土地が平坦に広がるだけの、あとは木々も水もない、カラカラに荒れ果てた不毛の地だ。
「あ! あの辺から、強く感じるよ」
サリイシュが、台地の一角へと指をさす。
その視界の先にあるのは、グリフォン達が作ったであろう巣の中でも、特に分布密度が濃いエリア。つまり、小さな巣が幾つも寄り集まっているような場所であった。
僕は冷や汗をかいた。
こういうのって、大抵は親たちがお互いを守るため集団になって固まっている所だろうし、なんでよりによってそんな手を出したらダメそうな場所にあるんだよ…
「「あった!」」
2人がクリスタルを発見したのは、割と早かった。
アゲハの土地勘や礼治の誘導、そしてバリアーがあるから、余裕をもって前進できたのは大きい。帰りがちょっと心配なレベルだが、さて事が大きくなる前にチャームを取ってトンズラしようか。
こうして2人が発見したチャームは、彼らが近づくと次第に発光が強まっていった。
仲間の魂が宿っている証拠である。
数ある巣の内の1つに入っていたそれは、幸いにも巣に卵がなく空っぽだったので、サリイシュの素手でパッと回収する事に成功したのであった。
みると、それは月のロゴがついたもの。
「ビンゴだね。さぁずらかろう、みんな」
アゲハがそういって、先ほど来た道へと戻りはじめる。
僕もそれについていこうとしたが、そのとき、サリイシュが何かを発見したのか、とある方向へとハッとなって目を向けていたが…
そこは、ただ地平線が見えるだけの何もない場所。一体、どうしたのやら?
「サリバ? イシュタ? どうした?」
僕が声掛けをすると、2人は我に返ったように振り向いた。
すぐさま、何事もなかったかのように僕達の後を追い、台地を降りていく。
こうして礼治の花火による誘導は、結果として成功を収め、僕達はグリフォンから1体も敵意を向けられる事なく、荒野からチャームを拾う事ができたのであった。
――――――――――
「さっきは、何を見つめていたんだよ? 2人とも」
黒焔の剣をフェードアウトさせ、王宮へと戻る道中、僕はサリイシュに先程の件で質問をした。彼らの手には、今回ゲットしたクリスタルチャームがある。
「う~ん… たぶん、気のせいだと思うんだけど、ふとそこに何かがあったような」
「うん。何かが飛んでいたような、でもよく見たら何もなかったよ」
なんて、自信なさげな様子だ。
て、なんだそりゃ。小さな虫か何かが飛んでいるような気配でも感じたとかかな?
(つづく)
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