ep.27 We met fairies
僕達が上空にて、植物達を誘導しているその頃。
地上では礼治が1人、全身にタトゥーを浮かび上がらせながら静かに歩いていた。
――なんだ? この、妙な感覚は。
と、その先に何かを感じるだろう、礼治が僅かに顔をしかめる。
その間、彼の足が一歩一歩進むたびに、「それ」は範囲を拡大していった。
ズーン!
「――!」「――!」
ぴたっ… と、礼治の近くにある植物たちが、重低音とともに静止する。
彼が足踏みと同時に生成した黒焔の葉脈を受け、触れている対象者が時間を止められているのだ。こうなると99%、誰も礼治の侵入を阻害する事は出来ない。
だが、残りの1%は賢いもので、
プシューン!
「…」
遠くから、食虫植物のうちの1体が、針状の猛毒のツバを吐いてきたのだ。
だが、そこも礼治の想定内。
彼は予め左手に持った黒い片手剣で、それを弾いたのである。しかも視線を変えぬまま。
よって猛毒のツバは、その吐いてきた植物の顔面へと打ち返された。
「ぴぎゃあぁぁぁー!」
と、まるで強風に煽られた時の女子高生みたいな高い悲鳴を上げる植物。
自分が吐いたツバを食らって気持ち悪がっているのか、口をへの字にしながらプルプルと震えているが、逆にそんな反応されると寧ろ可哀想に見えてくるのは僕だけかな?
「ふん。殴りたいやつは、自分が殴られる覚悟でこい」
といい、全身から少しずつタトゥーが沈んでいく中、礼治はなお前へと進んだのである。
――――――――――
「すごいな。植物達が、どんどん葉脈の餌食にされてる」
同じ頃。空を飛べる男2人に紐を繋がれた状態で、宙ぶらりんになっている僕が、デコイの鯨を泳がせながらそう呟いた。
植物達は、多種多様なポーズで静止されている。それらを見渡す度に、改めて礼治がどれだけ魔力を消費しているのかが想像に容易かった。大量のマナを貰ってきたのも
「そろそろ群生林を突破する。そしたらクジラ達は消して先へ進もう!」
と、マニーが頷いた。
僕達はその場を離れていくと同時に、デコイの鯨と蜂をフェードアウトさせていく。
思ったより呆気ない、危険地帯からの突破だった。
いや、僕達がチート過ぎるだけなんだろうけど。
ということで無事ヤマを越え、地上にいる礼治とも合流し全員、植物の餌食にならずに済んだのである。正直ちょっと怖かったけど、良かったぁ。
あ、ちなみに礼治が作った葉脈は、帰りのため置きっ放しにしているそうです。ハイ。
――――――――――
群生林を抜けた後は、光る果物やキノコなどが沢山生えた、不思議な森。
少し先の方向には、「泉」だろうか? 太陽の光に反射した水面が映る。
生き物も、今日まで見かけなかった様な種が沢山生息していた。ソースラビットは、どちらかというと少なめか。
僕もあれから地上へ降ろしてもらい、縄を解いた事で一気に解放された。
二足歩行さながら、地に足がついているってこんなにも落ち着くんだなぁ、と再認識。
ながら、マニーはというと先頭を歩きながら、通りすがりに発見したキノコや果物を摘み取り、それをヘルに見せていた。
「光るグースベリーに、グロウマシュだ。味は独特だけど、生で食べられるよ」
そういえばヘルが同行しにきた理由って、元はそういう食べ物についての調査だったか。
思えば暗黒城の問題で、本当ならそれ所じゃないのに、今は下手に抵抗も何も出来ない以上、暇なのでここまで来たというのは僕もマニーも同じ。更に奥へ進んでいくと…
ゴゴゴゴゴゴゴ!!
「「うわぁっ!」」「くっ…!」「なんだ?」
地面が突然、地響きを起こしたのだ。僕達は立つのも一苦労だった。
そして数秒程で揺れが収まると、遠方の景色が、最初とは変わってしまったのである。
「なんだここ…!? 俺達、もしかして場所を移動された?」
「あぁ。これだ。この感覚だよ。俺がスポーンした時もたまにこうなった」
「え!? じゃあ、ここが噂の奇妙なバイオーム… 俺達、ちゃんと帰れるのかな!?」
と、僕は慌て気味にマニーに質問した。
だがそこを礼治が、
「大丈夫だ。葉脈を置いた場所は把握できている」
といい、最初とは違う方向に目を向けている。僕はそれを聞いて安堵した。
良かったぁ、礼治さんがいてくれて… けど、彼はまた別の何かに気づいたよう。
「でも、なんだ? 今の地響きで、別のものを感じる」
「え?」
「心が、浄化される感じ? いや、まて… 妖精が沢山いる」
『え!? ねぇ、今のきいた!?』
『わーニンゲンがいる!』『ウソ、僕達が見えるの!?』
て、だぁービックリしたぁぁー!!
ちょっと急に何!? 突然のテレパシーみたいなその可愛らしい声達!
と、僕は肩をピクリとさせ、辺りを見渡した。
するとその不思議な木々の中から、
『ダメだよ! 知らない人の所へいっちゃ!』
『こ、こんにちはー』
『あなた達、どうやってあの場所からここまで来たの!?』
なんて、手の平サイズのトンボの様な羽根を生やした妖精さん達が、次々と僕達の所へ飛び出してきたのである。
まさかの新しい種族との出会い! しかも大人数! 僕は空いた口が塞がらなかった。
「君たちは、ここの住民か?」
礼治はそんな突然の出会いでも冷静に、手の器を作る要領で妖精達に話しかけた。
するとその内の1人が、ずっと自分達を視認できるニンゲンに会いたかったとばかり、泣きそうな顔で答えたのだ。
『えっと… 少しの間、住まわせてもらっているだけです。あのぅ、あなた達は?』
「俺たちはみな平地からきた。アガーレールの女王とは、イトコ同士なんだ。もしかして、アゲハの事を知っている…?」
『ウソ!? はい、知ってます! 実は私達、襲撃の時に逃げちゃって、それ以来ずっと植物たちが守ってくれているここで籠ったきり、外が怖くて出れなくて… グスッ』
襲撃って、うわぁそういう事だったのか!
そういえば少し前に、あのサリイシュが小さい頃に仲良くしていたのがこの妖精さんたちだと聞いていたけど、彼らはその襲撃があった日を境に、突然行方をくらませたという。
だけど、彼らはあれから無事避難し、今はここでひっそり暮らしていたのだ。
「だからか! 俺がスポーンした時にはここに妖精なんていなかったけど、その襲撃の際に俺達、すれ違っていたんだな…
でも、そうか。良かった。これで安心して、サリバとイシュタにも妖精たちがここに住んでいる事を伝えられるよ」
と、続けてマニーが安堵の笑みを零した。
するとその先住民2人の事も妖精達は知っている様で、殆どの子が嬉し涙を上げたのである。ある意味、僕達がここへ来て良かったのかもしれない。
しかし、
『あれ? そのクリスタルって…』
妖精の1人が、ヘルの左手首に飾られているクリスタルチャームを指さした。
ヘルが首を傾げながら、そのクリスタルを見える様に取り出す。
「これが、何が?」
『それ、あの泉の奥にある花畑にも同じものが置いてあります! 中に、スズランの聖女様が閉じ込められていて、どう解放したらいいか分からなくて…!』
「「「スズラン!?」」」
僕達はブッたまげた。まさかの、このバイオームにクリスタルチャームあり!
だからさっき、礼治が「心が浄化されるようなオーラ」を感じ取ったわけか。なら、ここは早くその聖女様を解放するのみ! マニーが真剣な表情で訊いた。
「その泉って、どこ!?」
『こっちです! 再び地形が動く前に、早く…!』
そう、妖精たちが案内した。僕達はその後を追ったのであった。
【クリスタルの魂を全解放まで、残り 14 個】
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